Happy white day




     


仕事を終らせて外に出ると、なんと浅葱からメールが来ていることに気がついた。二つ折りのケータイを開いてみると、その内容はなんと。


『今日迎えに行くから待ってて』


「…待っててっていっても……」


いつも浅葱の仕事は私が終るよりも遅くて、しかもここから浅葱の会社まで結構距離があるんだけど…あいつは私にどれだけの時間待たせるつもりなんだ?


と思っていたら、突然クラクションが鳴った。


「…早くしてよ」
「浅葱…」
「今日は早く終ったんだよ。…早く乗って」


後ろにタクシーが止まっていて、迷惑そうにしているのを視界に入れた浅葱は、私にそう促した。私は慌てて助手席に乗り込む。シートベルトを締めるのも待たないで、すぐに発進した。


「…どうしたの、急に迎えに来てくれて」
「別に。気が向いたから」
「何それ」
「別にいいだろ何でも。…それより」


信号待ちで、車が緩やかに停止する。


「どっか行こうか」
「…………は?」
「だから…どっか出かけようか、って言ってるの」
「今から…?」
「まだ6時過ぎだよ」
「そうだけど…」
「今日は、の好きなところ…どこでも連れていくから」
「……珍しい。明日は雨かなー」
「っ、ばか!お前わかんないの!?」


ば、っとこちらを振り返る浅葱。その瞬間信号がちょうど良く青になったから前を促すと、舌打ちしてから車を発進させる。


本当は気付いちゃったんだ。だって今日は、14日だよ。この日になると、浅葱は毎年こうやって、ちょっとらしくないことするんだって知ってる。本当は、浅葱に会うまで今日がホワイトデーなんて全然気がつかないかったんだけど…


長い付き合いだから、わかっちゃうんだよなぁ。


「ま、どっか遊びにいけるのはいいかなー」
「…本当は気付いてるだろ」
「ぜーんぜん。なにがなんだかさーっぱり」
「お前っ…!」
「ちゃんと前を見て運転してくれよ浅葱くん。 …ま、私はどこがいいとか特にないから。浅葱が行きたい所でいいよ」
「……じゃあ映画」
「結局いつも通りー」
「いやなの?」
「全然。大好きですー」
「ならいいだろ」
「うんー」


頷いてチラリと視線をやると、少しむくれたように見えた。仕方ないな、と思って、また信号待ちでとまった浅葱の頬に、軽くキスを落とす。


「ありがとう、浅葱」
「っ… 運転中なんだから、やめろよ!」
「だから止まってからしたでしょー。そんなことくらいで動揺しないのー」
「動揺なんてしてない!」
「あ、ほら、信号変わったよ?」
「……」


不服そうな表情を浮かべたまま、また車を発進させる。


こうやって二人でいて、ゆっくりとした時間が過ぎていくことが嬉しくて、心地良くて小さく笑うと、浅葱も同じように笑ってくれた。









ただののろけ話、って感じで書きたかったのですが、浅葱さんがへたれになって終っただけのような気が。









2007.03.15 thursday From aki mikami.