浮き足立っている周りを尻目に、はぼんやりと窓の外を眺めていた。
昨晩、テレビで報じられていた連続殺人事件。一晩で2人も殺されている、無差別の凶悪事件だ。で、当然その事件捜査の指揮には、恋人にして最年少警視の明智があたるわけだが………
は、それが面白くなかった。
以前のバレンタインのときは、自分から渡しにいけばよかった。だが、今回…ホワイトデーは、まさか自分からもらいにいくことなど出来ない。明智の性格だ、当然なにかを用意しているはずだが、いくら恋人で、明智が年上で寛容でも、そんなことをすれば幻滅される。
困り果てたは、放課後の学校に一人残って携帯を見つめていた。
周囲はバレンタインで出来たカップルが溢れていて、幸せそうだ。その様子をじっと見ていると、イライラが募っていく。
明智を責めたいわけではなくて、周りにあたりたいわけでもない。
ただ、一人が寂しいだけ。
「ばーか」
誰に言うでもなくそう言うと、はまたぼんやり外を見た。
寄り添って下校する姿や、友達同士で楽しそうにしているもの、一人で静かに帰宅する人間…それぞれに家路につく、その様子がうらやましいと思う。
不意に、携帯が振動した。は微かな期待を込めてサブディスプレイをのぞく…が、そこに表示されたのは…
「…………もしもし」
『お、やっと出たぜー』
「なによ、金田一」
『いやー?明智さん忙しいから寂しい思いしてるんじゃねっかなー、と思ってよ』
「………I.Q180も、ときには考えものね?」
『な、なんだよ!せっかくいいこと教えてやろうと思ったのに』
「え…?」
いいこと?
そう言われて、わずかな期待を覚える。
「な、なによ」
『学校にいたらテレビ見れねぇもんなー』
「え?」
『俺の携帯テレビ付きだから、ニュースも見れるんだけどよー』
『もう!はじめちゃんったらそんな回りくどい言い方しないの!ごめんね!』
どうやら隣りにいたらしい美雪が受話器の向こうに現れる。車が通り過ぎる音が聞こえた。
『つまりは、コバルトブルーのBMWが今真横を通り過ぎました、って話!』
その言葉と、窓の外にまさにそれが現れるのは、ほぼ同時だった。
は目を見開き、コバルトブルーを追いかける。無我夢中で走り出した。
「…………事件、解決したんだね」
『そう。今日の午後にね』
「ちなみに美雪、美雪の言い方も結構回りくどいよ」
『え?そうかなぁ…』
「ま、切るわ。…ありがと」
そう言っては一方的に通話を終了させると、学校だということも忘れて全力疾走する。階段を降りて、生徒玄関を出て、角を曲がり、見えてきた駐車場に…
「っ、明智さん!!」
「!」
は明智の前で立ち止まると、はぁはぁと荒く息を繰り返す。
「やっぱりまだ学校にいたんだな」
「うんっ………」
「窓から見えて、走ってきてくれたんだな?」
「そ…で、す」
「ありがとう」
「そんなっ、それは…!」
こっちの台詞です。そう言おうとして顔をあげるが、瞬間明智の腕に閉じ込められる。
「………今日は一緒にいたかったから…急いで片付けてきたんだ」
「連続殺人…?」
「ああ。…3人目はなんとか出さずにすんだ」
「よかった…」
「のおかげかもしれないな」
「え?」
「…を悲しませたくないと思ったら、…気合いが入った」
「………嘘ばっかり」
こつん、と明智の胸板に額をぶつけて、は呟いた。上から聞こえる、嘘じゃないさ、という言葉は、予想していたのに嬉しくて、くすくす笑いだす。
「………なんかもう」
「ん?」
「きてくれたことがプレゼントでいいです」
「それじゃあせっかく考えてきたプランが無駄になる。いやでも付き合ってもらうよ」
「……プラン?」
わけがわからず顔をあげたに明智はふっと笑うと、彼女の手を引いて歩き出す。
「とにかく荷物をとりにいこうか。話はそれからゆっくりでいいだろう?」
「………はい」
明智の考えなら、きっと素敵だ。
は何も考えずに、彼の後ろをついていく。
長い長い夜が、顔を見せはじめていた。
社会人と女子高生が付き合うのってかなり大変だと改めて思った今日この頃。だって学生は基本暇ですけど、社会人…特に明智さんみたいなエリート警視はそうそう休みなんてないでしょう。誕生日やバレンタインが仕事で潰れるなんてこともざらでしょう…というかほとんどがそうなのでは?
これからも悩まされるんだろうなぁ…可哀相(ぇ)
2007.03.15 thursday From aki mikami.