Happy white day




     


手塚の家を訪れたは、その広さと綺麗さについ萎縮していた。


3月14日、ホワイトデー。手塚親衛隊にぼごぼこにされるのを覚悟でわざわざ手塚の家までやってきたのは、彼の家族が全員旅行に行っているからだ。ちなみに手塚は昨日までの期末テストで一人残された。


は隣りに座ってラケットのグリップを調節している手塚の手元をのぞきこんだ。


「大変そうね?」
「そうでもない、好きなことだからな」
「ま、それもそうか」
「それより退屈じゃないのか?」
「平気。国光と一緒にいたらいつもこんなだし?」
「………フォローになってないぞ」
「あ、そう?ごめんごめん」


くすくす、と笑うを見て、手塚は手を止めるとそっと肩を抱き寄せる。


「ちょっと国光…」
「これが終わったらもっと構ってやるから…」
「……うん」


ふわり、と甘い空気に包まれる。自然と二人の顔が近付き、唇が触れた。


だが、せっかくのラブラブムードも手塚のせいで台無しになってしまう。


それは、手塚がすぐに離れていって、またグリップを巻きはじめたからだ。


「……」


は頬を膨らませると、立ちあがって手塚のベットに乱暴に横になった。白いスカートがひらりと揺れる。


「拗ねたのか?」
「ちょっとねー」
「もう少し待ってろ」
「別にゆっくりでいいですー」


そう言ってぐるり、と手塚に背を向ける。手塚にとって、テニスはとても大切で、それはにとっての剣道も同じ。だが、あんなにぼろぼろになってまで渡したバレンタインのお返しなのだから、もうすこし優先してくれてもいいのではないか。


そう思っていると、頭の上から影が現れた。


「…終ったぞ」
「あっそー」


手塚が、の方に身を乗り出している。は本当は嬉しく思いながらも、わざと素っ気無い返事をした。


「…お前が何で怒ってるのかあててやる」
「グリップのせいですー」
「ちがう。…ホワイトデー、早くほしいんだろう?」
「…………」


思っていたことをまさにあてられて気まずくなった。顔をベットにうずめて隠すと、こく、と小さく頷いた。


「…


手塚が、ふわりと覆い被さったのがわかった。頭にそっと右手が触れて、優しく、優しく撫でてくる。ゆっくりと振り返ると、羽のように触れるだけの口付けが降ってくる。


「…これ、お返しだ」


胸の前に差し出された、小さな箱。はそれを受け取ると、ベットに手をついて体を起こした。


「中身…何?」
「あけてみろ」


綺麗に装飾された水色のリボンをほどく。そっと箱をあけると、中身は…


「……ブレス?」
「ああ。気に入るかはわからないが…」
「……気に入った」
「そうか」


ふ、と笑う手塚。はそれを大事そうに持ち上げると、そっと唇に当てて愛でる。


「ありがとう、国光」
「それはこっちの台詞だ」
「え?」
「俺のわがままに付き合ってくれて、ありがとう」
「っ、ばか!わがままは私…!」
「じゃあ言い方を変えるが…俺のテニス馬鹿に付き合ってくれて、ありがとう」
「…ぶっ」


ははは、と笑い出す。手塚はそれを見ると、薄く笑みを浮かべた。









結局どっちもどっち、って話です。当初はシリアスになるはずだったのですが、甘い話になってしまいました…。









2007.03.16 friday From aki mikami.