「お前の部屋はここだ。厠はここ。女専用にしてあるから掃除はお前がしろ」
「わかりました」


は返事をしながら襖を開けた。中は畳八畳の部屋に押入れがあって、タンスと文机が置いてある以外には何もない。簡素すぎる部屋だが、男所帯での共同生活などこんなものだろうとは思った。むしろ一番端の部屋な上に女性専用の厠まで用意してあるのだから、相当気を使ったのだろうな、と感心すら覚えていた。


「それから、女の隊服は今作成中らしいから、来るまでは男のやつを使え。お前の体格ならSサイズでいいだろう」


ここに来るまでに、局長室の場所を教えてもらうついでに、隊服らしきものを土方がとったのは見えていた。渡された服はまだビニール袋に包まれている。土方の着ている隊長クラスのものとは違う、平の隊員のデザインのものだ。


これは土方は知らないことだが、女性の隊服についてはが今日ここに来る前、松平のもとに挨拶に寄った際に相談を受けていた。


複数デザインがあるけどどれがいい?といってデザイン画を見せられたが、そのどれもが極端に短いスカートやノースリーブなど生地面積の少ないものばかりだったので、ノースリーブにしたいならベストにして中にワイシャツを着ればいいだとか、こんなに短いスカートだとセクハラになるからひざ丈がいいだとか、むしろスカートだと動きにくいのでパンツにして、スカートは式典など行事用として割り切って使用するといいなどのアドバイスをしていた。そのついでに、の体の採寸は済ませてあったので、そのうち自分の体にぴったりの隊服が届くことだろう。


は部屋の隅に自分の荷物を置くと、土方の方を向き直った。彼は煙草をくゆらせながら、鋭い目でを見下ろしている。


「着替え終わったら局長室に来い。所属が決まっているとはいえ、まずは隊長連中とも顔合わせしてもらう。屯所内の案内はそれからだ」
「はい」


そう言って、襖を閉めようとした土方。しかしその手が途中で止まって、どうしたのかと見上げた秋をじろりと睨み付けた。


「先に言っておく。俺はお前を認めたつもりはねェ。実力は確かにあるようだが、女が戦場に出るなんざ俺ァ認めねェ」
「…なるほど」


はふぅ、とため息をついた。これまで何千、何万と言われてきた台詞だったが、まさかここに来てまで同じセリフを言われるとは思っていなかったからだ。そしてその言葉を言ってきたものには、必ず同じ言葉を返している。今回も同じセリフを言わなければいけない事に、面倒くささと、少しの落胆があった。


「…副長には、さっきの私が女に見えたんですか」


の言葉に、土方が言葉を詰まらせた。それを見ては、「ああ、やっぱり」と思う。


にはわかっていた。自分の戦っている姿が、男でも女でも、人間ですらない、ただの「獣」だと。これもまた、何千、何万と言われてきた台詞だからだ。


は、じろりと土方を見上げた。土方は何も言わないまま、黙ってを見下ろしている。それはの言葉が「図星」である証拠だった。


「着替えますので、失礼します」


そういって、襖に手をかける。その拍子に少しだけ触れてしまった土方の手は、少し汗ばんでいるように思えた。