らしくない


後ろを歩く、の気配に、殺生丸は軽く目を細めた。…こんなことは自分らしくないとわかっている。だが、連れていかなければと…否、連れていきたいと、そう思ったことに、自身でも少し戸惑っていた。


森は先程までの雨のせいと、殺生丸の見えない警戒心も手伝って、不気味なほど静かだ。聞こえるのはただ二人がさくさくと地面を踏む音だけ。


自分で誘ったとは言え、殺生丸はが自分について来てしまったことを、少し後悔していた。先程から雨で身を潜めていた妖怪が、目覚めつつあったのだ。


の存在感と、その異質感に惹かれて。


どうやら普通の人間より、霊力のあるらしい。そしてこの世界の人間の誰とも違う、この世界の人間ではない、そんな気にさせる雰囲気。実際殺生丸も、その雰囲気と霊力にひかれ、を誘う行動に至った。確かに人間であるし、確かにこの世に存在している。だが、どうしても、その異質感をぬぐい去ることが出来ない。前にどこかで感じたことがある様な、しかし知らないような、不思議な感覚だった。


殺生丸は、不意に足を止めた。突然のことに背中に激突してしまったは、ぶつけた鼻をさすりながら疑問の目を殺生丸の後頭部へ向ける。…一点を見据える彼。そこから少しずつ、女の子の声が聞こえてくる。


「殺生丸さまぁ~!!」


そんな声と共に、小さな女の子が殺生丸目掛けて走ってくる。


「お帰りなさい、殺生丸様」
「りん…良い子にしていたか?」
「はい。ちゃんと良い子で待ってました!」


殺生丸は少しりんを見据えると、また視線を一点に戻した。…今度もまた聞こえてくる、殺生丸を呼ぶ声。その声はりんのようにかわいらしいものでなく、どちらかと言うと気持ち悪い、ある意味悲痛な叫び。大きくなると共に徐々に緑色の顔が見えてくる。


「殺生丸様ぁ~!!ご無事で御座いましたか!!!」
「…この殺生丸が死ぬとでも思ったか」
「邪見様、遅かったね」


走ってきたため息が切れ気味の邪見は、二人の顔を順番に見て溜息をついた。しかしすぐに首を振り、張り切って顔を上げたとき、殺生丸の後ろで申し訳なさそうに立っているを発見する。


「何じゃ、お前は!!人間のくせに殺生丸様の後ろに立つとは恐れ多…」
「邪見」


名を呼ばれ、一瞬震え上がる邪見。りんはをものめずらしげに見つめ、にっこりと笑いかける。


「お姉ちゃん綺麗だね…名前なんて言うの?私はりん!」
「あ、私は。…りんちゃんか、可愛い名前ね」
「ありがとう!」


はじけるような笑顔をに向けるりん。それから殺生丸を振り返り、軽く首をかしげた。


ちゃんも一緒に旅するの、殺生丸様?」
「あぁ」
「えぇ?!!殺生丸様、それは本当ですか?!」


驚愕の表情を浮かべ、殺生丸に詰め寄る邪見。しかし殺生丸は彼を無視し、踏みつけて軽やかに去っていく。


「殺生丸さまぁ……!…くぅ。…最近の殺生丸様は殺生丸様らしくない。なぜこのような…」
「へぇ、殺生丸も、らしくないんだ」


くすっと笑って言う。邪見は少し驚いて彼女を見る。…の発言を少し疑問におもう。"も"と言うことは、自分"も"らしくないと言うことだ。


邪見はを横目で睨みながら、先を歩く殺生丸を追いかける。その後ろをは当然のようについてくる。…一瞬覚えた違和感に、思わずを顧みた。


そう、には違和感を感じる。今の発言をとっても普通の人間らしくはないしい、それ以外にも。…何か、存在としての違和感。そこにいるだけで、普通の人間と違う"何か"をかもし出している。霊力が強いようだが、そのせいだろうか。そう推測するが、それがわかったところで邪見にはどうすることも出来なかった。


自分に出来るのは、ただ殺生丸に従うことだけ。そう思いなおして、邪見は殺生丸の背中を追いかけた。



2004.11.10 wednesday From aki mikami.
2006.03.04 saturday 加筆、修正。
2008.08.13 wednesday