妖気と風と血の匂い


少しずつ近づいてくる犬夜叉の血の匂い。それと同時に近づいてくる、覚えのある匂い。


先程からきつく匂ってくる犬夜叉の血に紛れて、前に何度も会ったことのある人間達と、刀々斎の匂い。それから異常なまでに立ち昇る禍々しい妖気。


「(何が起こっている…)」


この妖気、感じたことがある。そう頭の隅で想ったとき、犬夜叉の血の匂いががらりと変化した。


前にみた、あの犬夜叉。ただの戦うだけの化け物となり果てた姿。殺生丸は誰にも解らないくらい、微かに顔を顰めた。


殺生丸はごつごつとした岩場の、少し高いところで足を止めた。そこから下を見渡せば、かごめや弥勒、刀々斎の姿。更に下を見れば、牙を剥き出し、爪を立て戦う犬夜叉と、見覚えのある妖怪…竜骨精の姿。


犬夜叉が竜骨精を殴り飛ばす。殺生丸は相変わらず涼しい顔でそれを見ていた。飛び上がり引っ掻き蹴り飛ばして、また飛び上がって、噛みつく。…まるで理性を持たない下等妖怪のような、半妖らしからぬ行動。まさに化け物と評するにふさわしい姿。


このまま化け物の姿で竜骨精と戦い続けるのか。そう思ったとき、犬夜叉に微かに起こった変化を殺生丸は見逃さなかった。犬夜叉の妖気が、少しずつ薄くなっていく。そして不安定だが鉄砕牙へ向けて歩を進める犬夜叉。


犬夜叉が鉄砕牙を掴む。瞬間完全に元の犬夜叉の妖気と一致した。


「でかい図体で…人の刀の上に乗りやがって…竜骨精、てめぇは…鉄砕牙でぶっ倒す!」


殺生丸は口元は軽く緩めた。


「それでこそ、私に殺されるに相応しい…」


そう呟いて、踵を返す殺生丸。視界の端で鉄砕牙が脈打ったのが見えた。



2004.11.14 sunday From aki mikami.
2004.03.04 saturday 加筆、修正
2008.08.13 wednesday