天性の力

邪見は人頭杖を持ち直し、は太い木の枝を拾い上げて構える。これで枝は4本目。そろそろ武器にするものがなくなって来た。


天高くまで棒を振り上げて、頭を割るぐらいの気持ちで思い切り振り下ろす。すると本当に妖怪の頭部は割れ、ジュブッと気味悪い音を立てて倒れた。


邪見も人頭杖を振って、火炎放射やどつきで応戦する。更にはりんまでも、と同じように比較的小柄な妖怪を殴り倒す。阿吽も雷撃を使用して、一見すると達が押しているかのように思える。…だが実際は、即戦力の阿吽と邪見が、大分疲れてきていた。


残った二人、それも人間のとりんだけで、まだ半分ほどしか倒せていない妖怪を片付けるのは、どう考えても無理。


大釜を振り下ろしてくる妖怪をよけて、足を払った。すっ転んだ相手の釜を奪って反撃する。


その時、の横方で吹いていた火がやんだので見ると、限界だったのだろう邪見が後ろ向きに転がった。そこをすかさず、妖怪が攻撃を仕掛けてくる。は邪見と妖怪の間に割り込んで攻撃を受け止める。更に力を込めて相手の薙刀を弾くと、その隙に相手を両断する。だがその瞬間持っていた釜の刃が折れ、飛んでいってしまう。軽く舌打ちした後、今倒した妖怪の薙刀を拾い上げようとした。その時、後ろから声がかかる。


「あぶない、ちゃん!!」


りんの声。は前から来る妖怪の気配に気付いて、薙刀を拾い上げる手を早める。りんにはその動き吸べてが、やけにゆっくり見えた。迫り来る妖怪、伸びるの手、叫ぶ自分の声すらも。


の手が、ようやく薙刀まで到達する。


そのとき、の中で何かが脈打った。沸きあがる感覚に、薙刀をギュッと握り締める。


の体が音もなく動く。その瞬間妖怪の…妖怪だけではない、その場の全員が、空気までもが時を止める。


だが、少しずつ。少しずつ妖怪の顔の輪郭が、中央に引かれた一本の線でずれてくる。上が落ちてきて、本当に少しずつ落ちてきて、ついには完全に体と離れ、地面に鈍い音を立てて落ちた。


切り口から血がふつふつと漏れ出してくるが、噴出すことはなぜかない。


「……お前…」


邪見が言い、それでやっと我にかえる。茫然と動けずにいたが、それでも向かってくる妖怪に阿吽の雷撃が走る。それをきっかけに、もまた先程のようにばたばた妖怪を薙いでいった。


ちゃんすごーい!」


りんは目をキラキラさせ、本心から感心する。だが、邪見は違う。


鮮やか過ぎる。確かに先ほどまで木の棒で妖怪と戦っていたときも、ある程度戦い慣れしているような印象を受けたが、…今の動きは、それとは格が違う。まるで魂が入れ替わったか人が変わったかのような太刀。これがの、本当の姿なのだろうか。…それはわからない。


いずれにせよ、の過去も、記憶をなくしている事実さえ知らない邪見には、これがなのだと認めるより他はなかった。


全ての妖怪をほぼ一人で片付けると、は地面に座りこんだ。


両手を見据えて、広げては閉じ、広げては閉じる。自分の中で、何かが叫んでいる。出して欲しいと。けど、自分はそれを出すことが出来ない。出す方法を知らない。


地を這う心。宙を舞う意識。ユラリと太陽が揺れると同時に、は意識を手放した。



2004.11.19 friday From aki mikami.
2006.03.04 saturday 加筆、修正
2008.08.13 saturday