戦いへの意志


パッと目を開ける。感じる殺気が、の顔を僅かに強張らせた。


の持つ薙刀が、線を描くように敵を薙いでいく。殺生丸は、人間の女にしては綺麗過ぎるその太刀筋に思わず目を見張った。


邪見から話を聞いてはいたが、これ程とは思っていなかったのだ。まるで魂が入れ替わったか、操られているかのように見える。普段の優しそうな雰囲気は影を潜め、戦いだけに夢中になっているかのようにも見える。


小妖怪など寄せつけない強さ。そして全ての妖怪を寄せつけそうな妖艶さ。殺生丸自身、今すぐでも彼女に向かっていって、純粋に戦いを楽しんでみたいと思う。


けれど、その気持ちに負けてしまう殺生丸ではないし、それ以上に、今は思うことがある。


今のからは、いつもほど違和感を感じないのだ。まるで戦っているのが彼女の本当の姿のように。…だが逆に、"人間"という基準から考えると普段の数倍の違和感を感じる。


向かってくる妖怪と戦いながら、そんなことを考える殺生丸。


そのとき、キンッと金属の音が聞こえて振り返る。阿吽とりんは武器を持たないし、邪見は人頭杖なので金属の物は持っていない。


だとすれば。


「…刃がっ!」


殺生丸が振り向いた先には、刀の折れた先端を見つめ立ち尽くすの姿。その周りには数多の妖怪。殺生丸は闘鬼神を妖怪に向け、蒼い光がだけをよけて放たれる。血飛沫を挙げる妖怪達。はそれをさけるように顔を覆い、その手をどけたときにはすでに沢山いた妖怪は全て消し飛んでいた。


「あっ…」


突然のことにうまく言葉を発することが出来ない


だが、殺生丸の元へと駈けて来た邪見が足にぶつかると、少しよろめいてからふっと我に帰る。


「ありがとう…殺生丸」


まだ少し動揺気味だが、しっかりと言う。殺生丸はいつものように涼しい顔をしてその心は読めないが、は彼が助けてくれたことを、素直に喜ぶことにした。






りんも邪見も阿吽も幸せそうな寝息を立てている中、は一人眠れずにいた。視線を少し泳がせると、そこには折れてしまった薙刀。その瞬間、沸き上がる様な感覚が彼女を襲う。


「っ…」


それを持たない頃に戻っただけなのに。


寂しさに似た感覚。


はもう一度視線を泳がせて、視界に殺生丸を捕らえる。殺生丸はそれが気に食わないとでも言いたそうにを睨んだ。…の中の、小さな決意。彼に迷惑をかけるかもしれないが、それでも。


「殺生丸…私…ちゃんとした武器が…ちょっとやそっとじゃ折れたりしない、私だけの薙刀が欲しい」


呟くくらいの小さな声で、でもはっきりと、強く。それだけで伺い知れる、の決意の深さ。


殺生丸は浅く溜息を付くと、背を持たれる木に首までも預け空を仰ぐ。そしてひとこと。


「良い刀鍛冶がいる」


そうとだけ呟いて、静かに目を閉じた。そんな彼の心は、彼自身にもにもわからない。ただ月だけが知っていること。



2004.11.26 friday From aki mikami.
2006.03.04 saturday 加筆、修正
2008.08.13 saturday