共鳴


「ほれ、大事に使えよ」
「ありがとう、刀々斎さん」


雨月刀をしっかりと握り、刃先をじっと眺める。


この牙を持つものの髪と似た、澄み切った白銀。黒の柄には、金と紅で細かな装飾が施されている。


「…綺麗」
「なかなか良い物が出来た。あいつの牙は親父殿の牙と良く似ている」
「殺生丸の…お父さん?」
「あぁ。…その刀、鉄砕牙や天生牙に引けを取らん刀だぞ」
「鉄砕…牙?」


聞き覚えのない名前に、が首をかしげる。天生牙という名前は邪見に聞いて知っていたが、鉄砕牙と言うのは思い当たるものがない。


「鉄砕牙ってのは、殺生丸の持つ天生牙と同じく親父殿の牙からわしが作ったもんだ。今は犬夜叉って、殺生丸の弟が持ってる。一振りで百の妖怪を薙倒す刀だ」
「犬夜叉…。殺生丸の弟…」


刀のことよりも弟のほうが気になったは、呟きながら視線を足元へ泳がせる。…殺生丸に弟がいるなんて、聞いたこともなかった。


その後は、刀々斎に礼を言って小屋を後にする。


「私は殺生丸のこと、何も知らない」


そんなことを考えながら。






あれから数刻。はいつの間にか森に迷い込んでいた。心細さと不安から、手に持った雨月刀を握り締める。


「…やっぱり、ついて来てもらえば良かった」


そう言って後悔するが、それももう遅い。


今朝、当たり前のように刀々斎に会いに行こうとしていた殺生丸。だが、が自分の刀だからと言って殺生丸の同行を断ったのだ。


「何か空気も悪いし、怪しい雰囲気だなぁ……」


ぽそっと呟いて、さらに強く雨月刀を握る。


そのとき、手の中の雨月刀が突然脈打った。


「何…これ…」


不審に思い刃先を見つめるが、おさまる気配はない。何度も何度も振り回して止めようとするが激しくなる一方だ。


そしてそれに夢中になっていたためか、は気付かなかった。


「あっ…」


自分を取り囲む、妖怪たちの気配に。


それはあまりにも多い数だった。奇声をあげ向かってくる妖怪たちを雨月刀で迎え撃つが、正直一人で戦いぬけそうな数ではない。


隙を見せたら間違いなく殺される。


そう頭をよぎったとき、蒼い光が線のように妖怪をなぎ倒し、一本の道が出来上がる。身覚えのあるその光をたどれば、鋭い刃先が揺れる。


「…殺生丸っ!」


叫んで、おぼつかない足取りで彼に駆け寄る。


怖い。寂しい。


たくさんの感情が、一気にあふれてくる。妖怪たちは殺生丸が現れたことで逃げていった。


「殺生丸…どうしてここに…」
「それに呼ばれた」


呟いて、雨月刀へと目をやる殺生丸。いつの間にか脈打ちは止まっていた。


「どういうこと…?」
「天生牙と雨月刀が共鳴した」
「共…鳴…?」


には彼の言うことが良くわからない。ただ、先程の脈打ちが彼の言う共鳴なのだろう。


雨月刀が天生牙と共鳴し、彼をここへ呼び寄せた。


は雨月刀を空に掲げ、呆然と立ち尽くした。



2004.12.18 saturday From aki mikami.
2008.08.13 saturday