光の下へ


村の中心の、大きな木の下に墓を作った。そこに眠るのは、一人の巫女。


「この村に伝わる話…ヒカリという名の巫女」
「…ヒカリ?」
「おそらく、この巫女の名だよ。もう100年近く前の話だと聞いているが…」


紫浪は言いながら、墓の前で手をあわせた。隣にしゃがむ亜矢根も、同様にしている。


「…どうして、こうなったのかな」
「あの巫女が言っていた通りだよ。…この村で、とても強い力を持っていた巫女は、皆にしたわれてたけど…あるときやってきた妖怪が、彼女の目を見えなくしてしまった。そうしたら、もう彼女が戦えなくなったと思った村人たちは、彼女を村に隠した。それは、彼女を守るためだったんだ。それに、彼女より力を持った妖怪が、この村にいたから…」
「それを、彼女は勘違いしたのね。村の人たちが、自分を嫌ってしまったんだって」
「あぁ。…それから巫女は、失意のうちに死んだ。あの山の祠は、彼女を祭る意味で村人が作ったものだったんだろう。…もしちゃんと、巫女に話をしていたら…こんなことにはならなかったかもしれないな」
「うん…」


は、自分たちの作った墓を見やった。…彼女はちゃんと、人間を信じて逝けただろうか。


「…人間も妖怪も、誰かを好きになるものだし…それに、不安になったりもする。もし村人がちゃんと伝えていても、すれ違ったままだったかもしれない…それはわからないけど…でも、言葉で伝えるって、とても大切だと思う。言わなきゃわからないことって、たくさんあるから」
「…うん」


殺生丸は、の言葉を心の中で反復していた。"言わなければわからない"。気持ちなど、すべてそうだ。言わなくてもわかるなんてことはない。それに、例えいい当てられたとして、それはすべて"第六感"に頼ったものであって、相手の心を読み取ったわけではない。

言わなければ、伝わらない。彼の気持ちも、すべて。






村を後にしたたちは、最初に白葉に案内された道を辿って戻っていた。元々進むはずだった方向へ進路を戻すのには、後もう一日はかかるだろう。村の外で待機させていた阿吽もつれて、太陽がまぶしくてりつける林を歩く。


このあたりの木は、まだ元気がない。だが、争いがなくなり、もう少し立てば青々とした林に戻ることだろう。


「いい天気だね、りんちゃん」
「うん♪」


りんは嬉しそうにとびはね、阿吽の上にぴょんと飛び乗った。邪見はそれに、こらりん!と怒り始めたが、はそれを横目で見ながら、殺生丸に近寄った。


「…ねぇ、殺生丸」
「なんだ」
「…これで、よかったのかなぁ?」
「どういうことだ…?」


殺生丸が尋ねると、は俯いて曇った表情を見せた。


「もっとちゃんと…あのヒカリって言う巫女を救う方法が、あったんじゃないかな、って思って」


の言いたいことが、殺生丸には良くわからなかった。誰も死なずに済んだ。平和的解決を望むにとって、あれ以上の解決方法が、一体どこにあったと言うのか。


「…ほかに、どんな方法があった?」
「あ、いや…方法って言うか…その、一度、村の人たちに会わせたらよかったんじゃないかなっておもって。…村の人たちの口から、色んなことを聞かせてあげたほうが良かったんじゃないかって…」
「―――お前の言葉だから、耳を傾けたんだろう。
「…え?」


りんと邪見が、二人の横を走りぬけていく。りんのきゃっきゃっと笑う声と、邪見の叫びが耳に届いた。


「…お前が巫女の力を持っていて…人間でありながら私と行動を共にしている。だから、…あの巫女とお前の立場が似ていたから、耳をかしたのだろう」
「…」
「あれが、村人の言った言葉なら、あの巫女の耳には届かなかった」
「そ、う、かな」
「納得いかぬか」
「あ、いや、そんな…」
「お前が納得いかないなら、そういえばいい」
「…」
「何を考えているのかは、言わなければわからんぞ」
「―――、」
「お前が私に教えたことだ」
「、うん…!」


殺生丸の言葉に、は嬉しそうに笑う。殺生丸が訝しげな顔をすると、ごめんごめん、と言って笑った。


「ただね、村の人たちと、仲直りして欲しかったの。ただ、それだけ。…殺生丸の言ったことに、納得出来なかったわけじゃないの」
「―――…仲直り、と言うのは、お互い許しあっていれば成立するものではないのか?」
「え?」
「あの巫女が村の連中を許したのだから…それだけでもう、なかなおりだろう」
「!」
「違うか?」
「うん…そうだね!」


へへ、とが笑う。殺生丸はから顔を背けて、ふっと笑った。


「…殺生丸」
「なんだ」
「―――うーん、やっぱりなんでもない」
「何だ」
「いや、だって、言ったら怒るもん」
「言わなければもっと怒るぞ」
「う…じゃあ言うけど…怒らないでね?」


口ごもって、俯く。少し恥ずかしそうにして、ようやく言った。


「なんか今日の殺生丸、すごく色々話してくれるから…嬉しい」
「…そんなことがか?」
「だって、殺生丸、自分の気持ちとかあんまり話してくれないから」
「―――確かにそうかもしれぬな」
「…ん」
「…いって、欲しいか?」
「え?」
「…どうなんだ」
「―――いって、欲しい。顔見てるだけじゃわからないし…それに私、ちゃんと殺生丸の口から、色んな事聞きたいの」
「…わかった」


お互いに顔を見合わせて、くすっと笑う。は太陽の下まで駆け出して、ありがとう、と笑った。



2006.07.08 saturday From aki mikami.