#2---木漏れ日の下



彼と再会したのは、私が"L"と言う名前がなんなのかを思い出した日だった。


「…お久しぶりです」


また、あのベンチに座っていた彼は、私を見て立ち上がった。っていうか座り方がおかしかったぞ。


「久しぶり。また会えたわね、竜崎」
「嬉しいです」
「嘘っぽい」
「嘘じゃないですよ」


お互い、何だか照れくさくて笑ってしまった。


「今日はどうしたの?」
「実は、貴方に用が出来てしまって…」


そう言って、彼はばつが悪そうに目を逸らした。なんだろう、私に用って。


「…何?」
「実は…貴方のお父様の事で、ちょっと」


そう言われて、何となくピンときた。

私の父親は現在警察官で、少し前までキラ事件を追っていた。そして母は鑑識員。


「…わかった。…私か、私の家族がキラじゃないかって事でしょ?」
「っ…、」
「Lってね、どっかで聞いたと思ったら、父から聞いたのよ。世界の警察を動かす力をもつ探偵…それがまさかあなただとは思わなかったけど。…だから偽名なのね」
「…」


彼は黙りこんでしまった。いやでも、きっとこうなることは感づいていたんじゃないかと思う。…だから、別段動揺した様子も見せない。


「…すみません。でも、貴方を疑っているわけではありません。貴方や貴方のお父様がキラである可能性は、今の所ゼロだと思っています」
「他にもっと、疑わしい人が居るんだ?」
「はい」
「…まぁ、うちの人間はみんなキラ反対だから」


私が言うと、竜崎はふっと笑った。


「何?」
「いえ…正直、安心しているんですよ。…貴方を疑うのは心苦しいですから」
「そうなの?」
「そうなんです」


互いに笑いあう。どちらからともなくベンチに座れば、春の陽射しが木の葉でキラキラ揺れていた。


「…竜崎」
「なんですか?」
「…知られたくなかった…?」


―――仕事の事を。そうは言わなかったけど、多分わかっていると思う。彼は驚いた顔をした。


「どうしてですか?」
「え?だって…誰にでも秘密にしたい事ってある気がするから」
「別に知られたくないことでもないですよ。ただ、名前が知られれば私が死んでしまうので、名前は知られたくないですが…今の所知っている人間はいないので」
「…そっか」


知られたくないことは、隠せばいい。…あぁ、最もだ、と思った。


「…貴方が、嘘をつく人じゃなくて良かった」
「え?」
「―――"言いたくないなら、言わなくてもいい。隠してもいいから…嘘だけはつかないで"」
「、」
「嘘をつく人が、嫌いなの」
「…そんな、悲しそうな顔をしないで下さい」


―――驚いた。彼の顔が、すぐ近くにあったから。


「っ」
「きっと、嘘はつきません。…だから、笑ってください」


すっと、彼の手が私の頬に触れた。その手は以外にも私の顔をすっぽり覆うくらい大きくて、ごつごつ骨張っている、男の人の手だ。…胸が、高鳴る。


「―――竜崎」
「はい」
「じゅ、授業!授業出ていこう!せっかくここまできたんだから!」


自分の思いを振り払うために立ち上がった。こんないつ会えるかも知れない人に?そんなの、駄目。


「いえ、私は…」
「いいから!」
「ちょ、」


竜崎の腕をひきずって歩く。帰ろうとした割に拒否しないところを見ると、"少しならいいか"と了承してくれたんだろう。私は彼を振り返って、リクエストどおりに笑ってやった。


綺麗な陽射しの下に、二人。今度はいつ会えるんだろう。









2006.02.28 tuesday From mamoru mizuki.