#8---離れないで



目が覚めたとき、私は竜崎の腕の中にいた。


すぅすぅと、心地良さそうに寝息を立てている竜崎。二人して何も身につけていない事に恥ずかしさを覚えて、私は慌てて布団から抜け出し、身支度を調えた。


寝室から出、相変らず人の気配がないことを確認すると、ソファに腰を下ろす。…竜崎の、あの熱っぽい瞳や声を思い出すだけで、体の芯が震える。私はこんなにも彼が好きで、今幸せであるのだと実感できる。


にやけてしまいそうになる顔を無理矢理に真顔にして、ごろん、とソファに横になった。すると、私の頭にごつ、と何かが当たる。なんだろうと頭をよけてみるとそこには、勉強道具が詰った鞄が。…私のものではない。じゃあ、誰の?


見覚えがあった。覚えていたくなくても存在感が溢れている、毎日私と同じ授業を受けている、…あの男。


「夜神…月」


どうして彼の鞄がここに?もしかして、私たちの情事の間に、彼はこの部屋に入ってきたのだろうか。


「…


突然掛けられた声に驚いた。振り向くとそこには、ぼさぼさの髪の毛をがじがじかいて、欠伸をしている竜崎。


「りゅう、ざき…」
「? どうかしましたか?」
「……これ…」


私の頭の下にあったそれを持ち上げて、まだ何もつけてない(下は流石に履いてる)竜崎の胸に押し付けた。


「…あぁ、これですか。夜神君のですね」
「夜神君の、って…あなた、夜神月のこと疑ってるんじゃなかったの…?」
「はい、5%は。ただ、彼は友達ですから」
「と、もだ、ち…?」
「そうです。現在はキラ逮捕のために、捜査協力していただいています」
「…そんな…のって?」
?」
「…ねぇ…やめようよ、夜神月に関わるの」
…どうしたんですか?」
「だって、もし竜崎に何かあったら…?」


私だって、流石に夜神月がキラだなんて思っていない。ただ、彼はどうしても、私たち側の人間ではない、キラ側の人間に見えるのだ。…悪人には死の裁きを。そう、目が言っているような気がする。


「大丈夫ですよ。私がいる前で何かすれば、すぐに彼がキラであるとばれてしまいます。私のことは最大警戒しているはず。だからこそそばに置いているんです」
「…竜崎が、そういうんなら…」


彼がいうなら仕方ない。彼は私に言われたからと言って考えを帰るような人間ではないから。…でも、不安でたまらない。


「…竜崎」
「はい」
「……離れないで」


そんなことしかいえなかった。そして、縋りつくことしか出来ない。…竜崎がいないと考えるだけでも、死んでしまいそうだ。


「離れませんよ。絶対に」


そう言った竜崎は、私を優しく抱きしめてくれた。そしてふわりとした口付けをくれる。……その瞬間。


がちゃ。


ドアが開いた。そして、彼が現れる。


「…あ、ご、ごめん…」
「……夜神…月」


彼の瞳を見つめているだけで、恐怖が込み上げてくる。彼の存在が、竜崎を脅かしている。…こんなやつ、いなくなってしまえば。


「夜神君」
「あの、僕邪魔しちゃって…。すぐ、出ていくから」
「……そうよ」
?」
「すぐ出てって!今すぐ!」



竜崎の腕に強い力が篭った。自分の体が震えているのがわかる。これ以上言ってはいけないこと、わかっているのに。


「あんたみたいなやつがいるから、竜崎が…竜崎が自由になれないのよ!あんたがキラなんでしょ?!いい加減にしてよ!あんたの都合に私たちを巻き込まないで!!」
、それ以上は…」
「あんたなんて、死んじゃえばっ…


ぱし。


渇いた音が聞こえた。それが竜崎の発した音だとわかった瞬間、体中の血が一気に引いていくのがわかった。


「…お願いだから…、もうそれ以上は…止めてください」


竜崎に叩かれた頬を抑えた。ひりひりする。私は今、なんていったんだろう。あんたなんて、なに?死んじゃえばよかった?…そんな言葉。


…キラと、同じ。


「っ…!!」


抱きしめてくれてる竜崎の腕を振り切って、走り出した。夜神月の横をすり抜けて、外に飛び出す。


どこから狂ってしまったんだろう、私は。もう普通の考え方、出来ないのかな。


誰かが死んでいいなんてこと、平気で考える。そんな、悪魔みたいなこと。


「…ごめん、竜崎」


もう彼には会えない。









2006.10.12 thursday From mamoru mizuki.