Episode 3

文法だけ出来ても通じない

Scene.1






すごくすごーく大きな建物に入っていく銀さん。外観はお城なのに中は吹き抜けだったり、スーツを着たちょんまげが歩いてたりでなんかもうすごすぎる!改めて銀魂の世界にきたんだなぁ…と感動していると、銀さんは受付の方に歩いていった。髪の毛を結い上げたお姉さんがいる!すごい!こんなの京都に行かないと見れないよちょっと!


「だから社長に会わせてくれって言ってんだよ」


明らかに迷惑そうなお姉さんに全く動じず飄々と言う銀さん。ってか、これから会うのって社長なわけ!?じゃああの赤ちゃんは社長の孫!?すっげ、いいなーボンボン…玉の輿… おっと、本音が…


「オメーは何考えてんだよ!丸聞こえなんだよ!ショタコンかオイ」
「違いますー。私は大人の男が好きですー」
「あれ、もしかして狙ってる?銀さん狙ってる?あー悪いけど銀さんも大人の女の方が…」
「狙ってないから。人妻ビデオしか興味ない男なんてどうでも良いから」
「お前、人妻バカにしちゃいけねーよ。ってか何で俺の好み人妻にされてるわけ?」
「好きそうじゃん」
「イメージかよ!俺は別に人妻限定じゃなくって女なら誰でも… ってなんでだよォォォォォ!」


スパーン!と頭をたたかれた。いってぇー!何すんじゃコラァ!と言い返す私を黙ってみていたお姉さんが控えめに、かなり控えめにあのー、と口を挟んでくる。


「失礼ですがアポの方はとられていらっしゃいますか?」
「なんだアポって。あっ、アレ?北国のフルーツ?社長好きなの?青森アポォ」
「アップルじゃねーよなんでそこだけ英語なんだよ」
「ホラー、銀さん発音悪いってー」
「ちっげーよオメーは黙ってろ。なんなんだよアポとかコボちゃんとかよォ。こっちは社長に会いてーだけだっつーのな」
「あぽっ」
「そーだよ最近の日本はな、何をするにも色々手続きが面倒でフットワークが重い時代なんだよ」
「なーんだ、こっちと変わんないんだー」
「あ゛ーあ゛ー!いったい日本はどこへ行こうとしてるのかねェー!!」
「ばぶー!!」
「すいませんあまり騒がないでいただけます?」
「あっぽォー!」
「うっせーオメーは黙ってろ!!」
「何だよお姉さん冷てーなァ。ねー?」
「なー?」
「ばぶー」
「いやうるせーよ」


なんていうお姉さんに青筋が。…あ、もしかしてコレヤバイ?お姉さん本気モードとかになる!?いや、ふっ飛ばすんなら銀さんだけにしてよね!うーんちょっとボケすぎたかな。せっかく銀魂の世界に来たならツッコミだけじゃなくボケも堪能しないとと思ったんだけど。だってこの漫画ボケ多すぎだからツッコミならいつでも出来るもんねー。


「……アラ?」


青筋のお姉さんが口元に手を当てて小首をかしげた。うわァァ可愛い仕草ァ!ってそうじゃなくって、その目はしっかりと赤ちゃんを捉えている。


「ちょっと待って。その子ひょっとして社長の…


ドォォン


お姉さんの言葉をさえぎって、爆音が響いた。多分上のほうからだ。ちなみに銀さんはお姉さんが見ていないうちに勝手にエレベーターに進んでいく。だったら最初っから受付なんて来なきゃ良かったのにもう。


「あーー!ちょっと勝手に入っちゃ困ります!! ちょっとォ!!」
「あぽ」
「なぽ」


銀さんと赤ちゃんはそっくりな顔で、そっくりに片手を上げてそれぞれにそういった。何かもうさすがですよ。ってかやっぱ隠し子じゃね?クリソツじゃん。


私はそんなことを思いながら、二人の背中に向けてつぶやいた。


「あほ」


Scene.2


さーて、エレベーターを降りて歩き出したのは良いけど、銀さんは自分が今何階にいてどこに向かっているかわかってるんだろうか。社長室を目指すとか何とか言ってたけど、社長室何階だかわかってんの?社長室とは無縁なフロアを歩いてる気がするんですけど。まぁ主人公ってのは遅れて到着するもんなので、散々迷って向こうに着いたときにはまさに絶妙の、キターーー!的なタイミングなんでしょ。とは思っていても、ちょっとドンドンバンバン聞こえすぎじゃね?やばいんじゃないのコレ!?


「ちょっと銀さん、これヤバくない?何があったのか知らないけどこれすごーくヤバくない!?」
「バーカ、ヒーローは送れて到着するもんなんだよ。ジャンプ読んだことねーのか」
「いやジャンプは大好きですけども!でもこの音なんかすっごいやばいよ!何か一足早く乱闘繰り広げてる感じがするよ!ってかジャンプ三大原則にかけらも当てはまらない人間にヒーローとか言われたくないわ!」
「なーに言ってんの。銀さんはいつでも友情と努力と勝利に満ち溢れてんだよー。っつーか体の80%がそれで出来てるから」
「じゃー残りの20%は全部バカだ。っつーか100%バカだ!」
「んだよオメーさっきからツッコミばっかしてんじゃねーか。新八か?二代目新八か?」
「この状況で私がつっこまなかったら寂しいくせに。わざわざ突っ込んでやってんでしょーが」
「ほォー、ナマイキ言うじゃねェのおじょーちゃんよォ。寂しくなんかないもんね、銀さん強い子だもんね!」
「どう考えても寂しがりだよね?ロンリーメンですか」
「人をボ〇ビーメンみたいに言うなよ。いや、確かにお金はないけどね」
「じゃあボンビーロンリーメンだ。それならもうひとつくっつけてボンビーロンリーグラーリーにしません?」
「なんだよその不安定すぎる名前!合格発表前の受験生並に不安定だろ!っつーか俺は鶏バンドの曲名じゃねェ!」
「ぇー、いい名前なのにー」
「どこがだ!」
「あー、えっと… あ、ホラ銀さん、行き止まりですよ戻らないと!」
「話そらすんじゃねェェェ!」


そんな調子で歩いて来た道をそんな調子で引き返す。なんかおっさんがこっちの世界があってるっていったの分かる気がする。あれ?ブリー〇が合わないって言われたんだっけ…?
なんかもうこっちの印象濃すぎて来る前のこと忘れちゃったよ。


さすが金持ちだけあって廊下もめちゃ長い。引き返すだけで疲れそうだよ。なんて思っているうちにようやくエレベーターが見えてくる。さぁて…こんなことがあとどれくらい繰り返されるかな…でも疲れたとか言ったらやっぱ足手まといじゃねーかって言われちゃう。置いてかれちゃう。


それだけは、嫌だ。


「―――…なーんて顔してんの。おなかがすいたか?ホレ、りんごやるぞー。あ、恋愛相談なら銀さんがのってあげるよん?」


そう言った銀さんの手が、ポンと私の頭に触れる。ずっと子守をしているせいか、子供をあやすみたいな手つきだ。


「…やだ」
「は?」
「銀さんに相談したら逆に破局しそうだからやだ。でもりんごはもらっとく。ってかどっから出した」
「ひみつー。ってか人が心配してんのによォ」
「…うん、ありがとう」


そう言ったら、銀さんはぐっと黙り込んでしまった。うん、私ちゃんとわかってるんだ、銀さんは優しい人だから。じっと見つめていたら、ケッ、と言ってそらされた。


「…どーせ彼氏なんていねーだろーが」
「うん、いないよ。今募集中だから」
「銀さんはやらねーぞ」
「いらないよ。私好きな人いるもん(十四郎!)」
「募集中じゃねーのかよ!」


そんなやりとりをしながら、エレベーターに乗り込んだ。銀さんにつっこまれるなんて心外なんですけど。


ぽちりと適当にボタンを押すと(ぇぇぇぇ!)エレベーターが動き出す。静かに上階へ向かう間、私はもらったりんごを頬張っていた。っていうか、いつのまにか赤ちゃんも赤ちゃんサイズのりんごを持っている。やっぱあれですか、アポォ、ってことですか。


チン、と音がした。微かに揺れて、ゆっくりと扉が開く。…と、その目の前にはたくさん人が群がっていた。しかもさらにたくさんの人がどばーっとこっちに向かってるんですけど。


そんなことをのんびり考えている間に目の前の人たちが、それもどばーってやってきた、明らかに襲ってきたチックな人たちだけがドゴォンと吹っ飛ばされた。それが銀さんの放った剣戟だとわかるまでには数秒かかって、その間に銀さんはエレベーターから一歩踏み出した。


「おーぅ、社長室はここかィ?」
「なっ! なにィ!?」
「これで面会してくれるよな?」


もくもくあがる煙の向こうで知らないおっさんの声が聞こえる。銀さんはりんごをしゃりっとかじりながら言った。


「アッポォ」
「ナポォ」


2008.04.22 tuesday From aki mikami.