Episode 27

考えるだけじゃ始まらないけど考えなくても始まらない

Scene.1






『よ、久しぶり』


そんなことを言いながら、おっさんはひらりと手を振った。


「なッ、オメーどっから」「アンタはあのときの!」
『あー?声被ってたら何言ってるかわかんねーんだけどー』


おっさんは飄々と言って足を組みなおした。っつーか、何我が家的な感じで座ってんだよ!


「え、お前今あのときのって言わなかった?何、もしかして知り合い?あの不法侵入者知り合い?ってことはお前の客?」
「いや、知り合いって程知り合いでもないよ、ちょっと見た程度。だから私の客じゃないよ」
「マジか。じゃー追い出そう。なんかコイツふてぶてしい」
「だよね、わかるよ。全身からふてぶてしさがにじみ出てるよね」
「しかもおっさんだし」
『……オイオメーら、いー加減にしろよ。俺はおっさんじゃねェ、お兄さんだ!』


いや、どっからどうみてもおっさんだからね。お兄さんって、全国のお兄さんに失礼だからねコレ。銀さんのほうがまだちゃんとお兄さんに見えるからねコレ。


「お前がお兄さんだったら俺は坊ちゃんになるわ」
「いや、銀さんそこまでいかないと思う」
「なんだとッ!?お前は俺がおっさんだとでも言うのか!」
「…いや、微かにおっさんの気が」
「お前!彼氏に対してそういうこと言うか普通!お前はそのおっさんと付き合ってることになるだろーが!」
「いや、大丈夫、完全なおっさんじゃないよ。微かに、気持ち、おっさんがかっているってだけで」
『もうおっさんから離れろや!!』


というツッコミによっておっさん談義は終了。…銀さんは不服そうだったけど。


『俺ァこんなことしに来たんじゃねーんだよ!あーあー、帰っちゃおっかなー』
「帰れば?」
『ムッカー!んだとコラ…』
「ちょーまて、帰るんじゃねェ」


銀さんが、ずいぶんと真剣な顔でそう返した。…さっきまで一緒にふざけてたのに、それがウソのように真剣モードだ。


「アンタ…教えに来てくれたんじゃねーのか。のこと」
「え?」
をこっちの世界に送った変なおっさんっつーのは、アンタのことじゃねーのか」
『変なおっさんは余計だけどな』


そういうと、おっさんは懐から煙草を取り出した。…え、煙草!?なんか、なんてことはない感じで普通に吸ってるんですけど。しかも私のほう見て、灰皿もってこい、なんて。…オイコラ、命令してんじゃねーよオヤジが。


『…先に言っておく。俺がこうして姿を見せられるのはお前らだけだ。…コレは俺らの決まりでな。この世界の人間一人にだけ、姿を見せることが出来る』
「え、二人じゃん」
『お前はこっちの世界の人間じゃねーだろ』
「あ、そっか」
『…で、いつも一緒の眼鏡とチャイナが帰ってくる前にこの話を終わらせてェ』


私が持ってきた灰皿に灰を落としながらそういったおっさん。…話っていうのはやっぱり、私のことなんだろう。でも、聞きたいけれど、聞くのが怖い、…ような気もする。


『どっから話せばいいんだろうな…』


ゆっくりと煙を吐き出して、おっさんが言った。


『…
「……はい」
『この話は、お前にゃ相当堪える話だ。…それでも最後までちゃんと聞けよ。俺はコイツのためじゃない、お前のために話すんだからな』
「…うん」


私のために話す。そんなことを言われるとは思わなくて少し驚いたけれど、なんとか頷いた。


『…まず…お前がどうしてこの世界に来たかだな。それは、…お前が、もう死んでるからだ』
「……は…?」


何、その某漫画主人公の決め台詞みたいな言葉は。…何?


 もう、死んでるからだ ?


「なっ…!どーいうことだ!」
『うるせー、黙って聞け天パ。…死んでるっつーのは、お前が元いた世界でっつーことだ。…何で死んだのかは、俺からは言えない。それでも、お前はもう、向こうの世界では死んだ人間だ。…分かりやすく言うと幽霊だな。…だからあの白い犬、お前には近寄らないだろ』


…そういえば、定春は私に冷たいとずっと思ってた。…それは、私が"幽霊"だとわかっていたから?確かにそう考えられなくもない。でも…


「そんなこと知らない…大体死んだなんてこと、覚えて」
『ないだろうな。…お前は記憶を落っことしてきちまったから』
「…落…?」


長くなった灰を落して一度煙を吸うと、細く長く吐き出す。…その動作を見つめながら、心臓がいつもよりうるさくなるのがわかった。


『お前は、向こうの世界で、抱えきれないほどの傷を負った。…身体じゃねェ、心にだ。…俺達の仕事は、そういう心の傷を抱えた人間をどうにかして更生させること…まァ、来世のため、って感じだな。 そういう奴は生まれ変わっても同じようなことを繰り返す…そうさせねーためにだ。お前をこっちの世界にやったのは、そういうことだ』
「…つまり…私の心の傷を癒すために、私をこの世界に送った…」
『そうだ。…だがここで問題が起きた』
「問題?」
『お前、さっき言ってただろ。何にも覚えてないって』


短くなった煙草をもみ消しながら、私のほうをじろりと睨む。…そんな顔で見られても、ウン、としか答えようがない。…怖くて、銀さんにしがみついたら、その手を上から強く握ってくれた。


『…本来ならこっちに来るときに一緒に持ってくる記憶だが…お前の場合その量が半端なくてな。…あー、まァなんだ、容量がデカイッつーのかな。そういうときはな、記憶と本体…つまり記憶と身体を別々に送って、後から中に記憶を埋めこむっつー作業が必要になる。…意味、わかるか?』
「…なんとか」
『で、お前にもソレをやろうとした。…だが、お前はそれを拒否した』
「…拒否?」
『文字通りだ。お前はお前にとって都合の悪い記憶を、自分の中から追い出したんだ』
「……そんなことした覚えは」
『無意識だから、覚えてるわけもねェな』


新しい煙草に火をつけるおっさん。ジッポのカチン、と言う音が、やけに大きく響く。


私は私の記憶を拒否した?だったら、その記憶は一体どこに行ったんだろう。


「…オイ」
『あ?』
「さっきから拒否したっつってっけど…その記憶はどこ行ったんだよ。大体、それでどうしてが消える話になる?」


銀さんが、私の疑問を変わりに口にした。ホントは自分で聞かなければいけないのに。


…銀さんが、私の指を絡め取った。


『……記憶は、この世界にある』
「!」
『お前が落っことした記憶は、本来なら俺が回収し、お前がそれを受け入れるまで同じ作業を繰り返すはずだった。…だが』


そこで言葉をきると、煙草に口をつける。…それを一息で吐き出して、言葉を繋げた。


『俺の前に記憶を回収した人間がいる』


「………え?」
『それをお前の記憶だと知って回収したのか、それともまったく偶然拾っただけなのか…それはわからねェ。だが、そいつは今もそれを持ってる』
「そいつァ誰だ?」
『……………そこまでは、知らねー』


そう言って、おっさんはチラリとコチラに視線を寄越した。


俺はお前の秘密を握ってる


今のお前はそれが何かも分からないだろうけどな


私の記憶を持っているのは…


高杉?


「オイ…ふざけんなよ。そこまで分かっといて今さら知りませんで済むかよ」


銀さんの手に力が籠る。…怒ってる。私のために、銀さんが怒ってくれている。…でも、今は嬉しいと思うより先に、巻き込みたくないと思う。


『知らんもんは知らん。…それより、キレてる時間なんかねェぞ。説明はまだ終わっちゃいねーんだ』


そういうと、おっさんは煙草の灰を落とした。


『本来、記憶と身体は一体のもんだ。コイツが別々になると、記憶の方も身体の方も朽ちていく。…お前の身体が消えかかっているのはそういうわけだ』
「……つまり、元の世界に帰るなんて次元の話じゃなくて」
『そうだ。………このまま行くと、お前は存在すら消える』


ガツンと頭を打たれたようだった。存在すら消える、ってことは、私はいなかったことになる?みんなと…銀さんと過ごした日々も、すべてなかったことになって、私は正真正銘のひとりぼっちになる。


…怖い。


『そうならないためには…記憶を取り戻すしかない。ただし、取り戻してもお前がそれを受け入れなけりゃ意味はねーがな』
「………受け入れる」


投げ出すほどの記憶を、また受け入れなければいけない?一度逃げた私が、それに耐えられるんだろうか。それを受け入れたとき私は、ちゃんと私でいられるんだろうか。


「オイ」


銀さんが言った。…怒った声。おっさんがゆっくりと振り返り、銀さんを射抜く。


「…受け入れるって簡単に言うが…そうしたらはどうなる」
『さあ…もしかしたら、辛くて死ぬかもな』
「!」
『記憶があってもなくても死ぬ、かもしれねー。…けど、俺はそうはならないだろうと思った』
「え…?」
『今のお前には、仲間がいるだろ。…辛いことがあっても、なんとかなるだろ』


そういって、おっさんは笑う。…私は隣の銀さんを振り返った。


「……銀さん」


呼びかけると、優しく笑う。…大丈夫だと、言ってくれているように。


『人間っつーのはな、一人だと脆いもんだが…誰かがそばにいるならそれだけで、何倍も強くなるもんだ。俺は今まで人間を見てきてそれを良く知ってる。…だから大丈夫だろ』
「ったりめーだろ」


銀さんがそういうと、私をぎゅっと抱きしめる。恥ずかしくなって離れようとしたけど、強く力を込められて離れられない。


「ちょ、銀さん!」
「あー?なんだよ」
「おっさんが見てるって」
『おっさんじゃねェ!!』
「うっせー! ちょ、銀さんマジ恥ずかしいから!」
「はいはーい」
「ちょっと!」
『おいオメーら、イチャイチャすんのは俺がいなくなってからにしろ』
「ひがみかー、醜いねー」
『うるせェ!話はまだ終わってねーんだよ!』


銀さんがしぶしぶといった感じで離れた。…いや、しぶしぶじゃねーよ。なにやってんだよお前は。真剣な話の最中でしょうが、まったくもー!!


「なァ」
『あァ?なんだ天パ』
「天パだとコラッ!自分ストレートだからって調子にのんなよ!」
「ちょ、銀さんやめてよ!で、どうしたわけ?」
「チッ。…ちょっと思ったんですけどー、ちゃんって元の世界で死んでるってことはー、元の世界に帰る必要はないってことなんですかー」
「え?」
『その話か…まァ、帰る必要がないというよりは、帰れないな。一度死んだ人間が復活、リボーン!なんて出来るわけねーだろ』
「…そりゃーそーですが」
「え、じゃあ私なんでいつか帰るなんて思ってたんだろ…」
『あ、それ俺が植えつけた記憶ー。そっちの方が燃えるかと思って』
「「……」」
『え、何?どうしたの二人?オーイ』


私と銀さんは立ち上がって、二人でこぶしを握った。


マジでブチ切れ5秒前☆


『え、ちょっと待って!待てって!今はそんなことしてる場合じゃ…!』
「一発でいい、殴らせろ」
『ええええ!ちょォォォ!』
「テメーが余計なことしたせいで、私がどれだけ苦しんだと思ってんだよ?」
『や、スイマセンホント!でもアレでしょ、素直になれたでしょおかげで!いーじゃん、結果オーライ!』
「「うるせェェェェェェ!!!」」


Scene.2


あの後、おっさんから聞いた話は、身体が消えたり倒れたりするのは、心や身体に大きな負担がかかったときだということ。おっさんは私の意思を超えることができないということ。そして、たとえ記憶を取り戻しても、私がいつ消えるかわからないということ。…ソレを聞いた銀さんは、複雑そうな顔をしていた。


おっさんが残していった吸殻をゴミ箱に捨てていると、後ろから抱きつかれた。…振り返ると肩に顔を置いて、ごめん、とつぶやかれた。


「…どうしてゴメンなの?」
「……何でも」
「意味わかんない」
「うるせー、黙って受け取れ」


そういった唇が柔らかく頬に触れる。


もしかして、銀さんも不安なんだろうか。それとも、さっきの話でショックを受けてくれたんだろうか。…わからないけれど、やっぱり思う。


これ以上銀さんを、変なことに巻き込みたくない。


そのとき、玄関が開く音がした。


「ただいまアルー!!」
「ただいま帰りましたー!」
「アン!」


神楽ちゃんと新八くんと定春の声が元気よく入ってきて、あわてて銀さんから離れる。でも銀さんはソレが気に食わなかったらしくて、後ろから更に抱きしめられた。


「ちょっと、銀さんはなして!」
「やーだ、何で俺があいつらに遠慮しなきゃいけないわけ?」
「恥ずかしいでしょうが!」
「そりゃお前の感覚だ。俺は別に恥ずかしくねーもん」
「ぶん殴るぞコラ!」
「そんなこと言ってたらもっとスゲー事するぞ?ふー」
「ちょっ、ひゃっ…」
「オーイ、オメーらなにやってんだ」


「「……………」」


え?


聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのはなんと真選組の3人だった。その後ろに神楽ちゃんと新八くんもいる。


え?どういうこと?っつーか見られた?見られたよね?見られちゃったよね!?ヤバイ恥ずかしい!!!


「え、何、お前らなんでいんの?」


銀さんが飄々と聞くと、新八くんが顔を真っ赤にしながら、帰ってくる途中で会いました、と言った。神楽ちゃんはものすごい顔をしながらケッ、と言って、近藤さんは心底ショックを受けたように真っ青になり、総悟はニヤニヤ笑っている。十四郎はいつもの顔で茫然とこちらを見ていて、今すぐ消えたい気分になった。っていうか、マジで見ないでくれ…。


「おいメガネ」
「新八です」
が具合ワリィっつーから来たんだぞ、俺らは。…どこが具合ワリーんだよ」
「さァ…どうなってるんでしょうね」
「こんなイチャイチャする元気があんなら見舞いなんていらねーじゃねーか」
「そうですね。…どうぞお引取りいただいても」
「ちょォォォ!ちょっと待って!コレは銀さんが勝手に…!」
「へーへー。バカップルは黙っていちゃこいてな」
「総悟ォォォ!!アンタは余計なことをォォォォ!」
「けーるぞ」
「ちょっとまてェェェェ!」


Scene.3


過保護な銀さんに言われてまた寝ていることになった私は、布団の中で隣に座る十四郎の顔を眺めていた。…そういえば、この間のプチ家出の時から一度もあってなかったなァ。


「…お前…こないだのはもういいのか」
「こないだのって」
「家出とか言ってたろ」
「あァ…えっとー」
「ま、あの様子だともういいんだろうな」
「うっ…」
「ったく。心配して損したな」


そういって、灰皿に煙草を押し付けた。…私だって恥ずかしいんだから、あんまり言わないでほしいんですけど…!


「……で、身体の方はどうなんだ」
「あ、大丈夫。昨日もずっと寝てたし、だいぶ調子いいんだ」
「…それもそうだが…その、なんだ」
「あー…もしかして新八くんから聞いた?…身体が消えるとか何とかって話」
「…オゥ」
「…実はね」


新八くんと神楽ちゃんには、銀さんのほうから話してくれるらしい。…自分から話すといったけど、お前はいいから寝てろといわれた。別に普通に過ごす分には何の負担にもならないんだけどな。


「私がこの世界の人間じゃないってのは…前に言ったでしょ?」
「…ああ」
「あのね、私、その元の世界にいたときの記憶が…ごっそりなくなってるんだ。それがね、すごく辛い記憶で…全部捨ててきちゃったんだって。…その記憶を取り戻さないと…私、消えちゃうんだって」
「…」
「しかもね、元の世界じゃ、死んでるんだって、私。…へへ、ちょっとビックリした」
「…笑ってんじゃねーよ」
「え?」
「……無理して笑うな。身体に障るだろ」
「……うん」


銀さんも十四郎も。どうして私の心が読めるんだろうか。それとも、私がわかり安すぎるんだろうか。


本当は、怖くて仕方ない。不安で不安で、どうしようもない。…記憶を取り戻すのも、そうしないで消えるのも怖い。出来るなら何も知らないまま、ずっとこのままみんなと一緒にいたい。…でも、どちらかを選択しないといけない。…どちらかを、じゃない。前者をとらなきゃいけない、わかってるのに、心がそれを拒否する。…イヤだと悲鳴を上げるのがわかる。


「…受け入れられると思う?」


一度、逃げ出したのに。


「私、元の世界で死んだのってね…きっと、自殺したんだと思うんだ」


だって私は、弱いから。


おっさんが言ってた。私がどうして死んだのかはいえないって。でもなんとなくわかる。私は自分で自分を殺したんだ。


「……もし」


十四郎が、新しい煙草に火をつけた。それを吸い込んで、ゆっくりと煙を吐きだす。


「もしお前の言った通りで、また同じことをしようとしたら…俺らが止めてやるよ」
「…十四郎」
「俺だけじゃねェ。メガネもチャイナも、…万事屋も、全員で止めんだろ」
「…そう、かな」
「そうだろ。…近藤さんも総悟も…お前のことを大切に思ってる奴は全員」
「…大切…」
「特に万事屋はな。自殺なんてしたら怒り狂いそうだ」
「……ねえ」
「あ?」
「……十四郎にとっても…大切?」
「なっ」


私の質問に、少し顔を赤くする十四郎。…そのかわいい反応に思わず笑うと、怒ったようににらまれた。だけど小さい声で、あたりめーだろ、と返って来る。


「ありがとう」
「うるせェ」
「ねえ…あのね、十四郎。…お願いがあるんだ」
「あ?」


…みんなと、…銀さんと、ずっと一緒にいたい。だから私は、記憶を取り戻さなきゃいけない。…でも、そのためには。


「…銀さんに内緒にしてほしいんだけど」


高杉に会わなきゃいけない。…だけど、銀さんと高杉を会わせたくない。銀さんに辛い思いをさせたくない。


「なんだ」
「あのね…私を、高杉のところに…連れてってほしいの」
「なっ…なんでお前が高杉を…」
「私の記憶を持ってるのは…たぶん高杉。たとえそうじゃなくても、高杉は何かを知ってると思う。…あって話さないと」
「オイ、それがなんで万事屋に内緒っつー話になる」
「…これ以上銀さんを、苦しめたくないから」


それ以上のことは何も話せないけれど。…十四郎に、迷惑をかけてしまうのはわかっているけれど。


「連れて行ってくれるだけでいいの。…そうしたら十四郎はスグ帰ってくれてもいいから」
「……んなこと、出来るわけねーだろーが」


灰皿に灰を落としながらそういった十四郎。…顔は少し怒っているように見えるけど、声はすごく優しい。


「真選組総出で協力する。…だが」
「…だが?」
「生半可な覚悟じゃすぐにばれるぞ。…アイツは怒るだろうしな」
「……うん」
「…それこそ家出する覚悟だな。…出来んのか」
「家出…する?」
「それだけの覚悟がいるってことだ」


…家出。


居候の私じゃ家出なんて言えないかもしれないけど、要するにみんなと離れるってことだ。…銀さんと、離れなきゃいけないってことだ。そんなことが、私に出来るの?


「何でテメーがここに居る」


「女を連れ歩くんなら一人にするなってことだ」




「ごめんな」


銀さんは、高杉と戦いたいわけじゃないんだ。


「仲間だと思っている。昔も今もだ」


ヅラがそういったように、銀さんだってきっとそう思っていたんだ。…それに、今だってきっと。


「俺ァただ壊すだけだ。この腐った世界を」


「…私、この家をでるよ」


昔の仲間と戦わなきゃいけないなんて、悲しすぎる。…それはつまり、私が銀さんや新八君たちと戦うってことと同じだから。


「怖い…けど、頑張る」
「そーか。…なら、俺から近藤さんに話つけとく」
「……ありがとう」
「礼を言うのは解決した後にしろ」
「うん。…ねェ、家をでるのはいいけど、かくまってくれるんだよね?」
「…当然だろ」


そういうと、十四郎は煙草を灰皿に投げ入れた。そして、私の頭をわしゃわしゃ撫でる。


なんか、お兄さんみたいなんですけど。でも、そんな優しさが今は心地よかった。


たとえ世界が壊れたって、銀さんだけは壊させない。銀さんが悲しい思いをして私が幸せになったって、そんなの意味がないから。


3日後の深夜3時。そう約束して、私は浅い眠りについた。…不安と恐怖の間を、さまよいながら。


2008.07.12 saturday From aki mikami.