Episode 15

大事なものを守るなら欲張ったっていい

Scene.1






スナックお登勢には色々なお客がやってくるけれど、今日はそちらではなく、万事屋銀ちゃんの方にお客さんが来ていた。買い物を終えて玄関の扉を開けると、そこに下駄が一組。久々の依頼かな?と思ってリビングに入ると、まずはじめに飛び込んで来たのは白くてふわふわした、例の人(?)であった。


「おーおーちゃん!おかえりィー!ってわけだからよォ、帰れヅラ!」
「む…はじめて見る顔だな…ま、まさか!貴様人買いに手を…!」
「バカヤロー!んなわけねーだろーが!」
「大体銀さんにそんなお金あるわけないですよ。明日のご飯にも困ってるのに」
「新八くーん?ホントのこといわれるのが一番傷付くんですよー?」
「じゃあなんだ?女か?」
「そ…そんなんじゃありません!」


女、と言われた瞬間、この間のことを思い出して一気に恥ずかしくなった。だって銀さんったら、ホントいきなりだったし…いや、別に何もなかったと言えばそう言えてしまうんだけれども…!


「オーイちゃん?そんなに思いっきり否定されると悲しくなるんですけど?」
「仕方ないですよ、銀さんですし」
「新八くん?それどういう意味かなァ?」
「銀ちゃんなんかと付き合ったらお金がいくらあっても足りないネ」
「オメーにだけは言われたくないんだけどー?この大飯食らい!」
「………………話を戻すぞ」


ふぅ、と小さく息をついてヅラがそういった。うん、わかるよ気持ち。この人たちと話してると疲れるよね。


「さっきもいった通り…俺に力を貸してほしい、銀時」
「だーかーらー!さっきもいった通りオメーにかかわるとめんどくせーからヤダ!」
「さっき俺の持って来たかりんとう5袋を残さず平らげたろう」
「それはそれ、これはこれネ」
「いや神楽ちゃん、食べた本人がいうことじゃないからね」
「なにかあったの?」


そういって私は話に割り込んだ。ヅラの頼みはいつもめんどくさいんだけど、別に私たちも暇だし問題ないよね?


「お主、なかなか話がわかるな」
「ま、どうせ暇だからね。あ、私って言います」
「桂小太郎だ」
『エリザベスです』
「(知ってるけど)よろしく~」
「オイオイ!そいつには関わるなって!」
「銀さんこないだ私が買って来たハーゲンダッツ、食べたよね?」
「ギクッ!」
「ヅラぁ~!銀さんったら私のもの勝手に食べちゃうんだよォ~!他にもあーんなことやこーんなことを…」
「ヅラじゃない桂だ!銀時!貴様見損なったぞ!人のものを取るだけではあきたらず、あーんなことやこーんなことやそーんなことまで…!」
「いや、そんなことはされてないけど」
「俺がこんな歩く凶器みたいな女に手ェ出すわけねーだろーが!」
「オマエ今なんつった?」
「イエ、なんでも…」
「やっぱり女の子を泣かせたら罪滅ぼしをしないとねェ…?」
「そうだぞ銀時!というわけで俺に協力しろ!」
「どういうわけだよ!」
「銀さん、どうせお金ないんだから稼げていいじゃない!」
「え、金取るの?」
「なに、タダで働かせる気だったの?」
「だってかりんとう…」
「私食べてないよね?」
「オメーは結局誰の味方なんだよ…」
「私は私だけの味方でっす」
「威張っていうことじゃねェよ」
「それでなにがあったわけ、ヅラ?」
「ヅラじゃない桂だ!…話せば長くなるのだが…」
「短く話してくれる?」
「仲間がさらわれたのだ」
「…はァ」
『もう少し詳しく言うと』


それまでヅラの隣りで動向を見守っていたエリーが、そう言っ…てない、そうかかれたボードを掲げた。…っていうか、はじめて生で見るエリーはカワイイ。カワイイが、それにも増して巨大だ。たぶん私より10センチは高い…たぶん。


『一緒に山に入った仲間が山の主につかまってしまったんだ』
「は…山の主?」
「大体山って…なんでそんなところに…」
「うむ…新しい仲間を募るため京にでも行こうとしたのだが…交通費が足りなくてな。歩いて行こうとしたらいつのまにか山に迷い込んでしまい…」
「うわァ…」


やっぱ、この人バカだわァ…。と思ったのはシークレットだ。


「で、それでなんで急に主とか言う話しになるんだ?っつーか助けに行くならテメーの仲間連れてきゃいいだろーが!」
「そうですよ。その方が安上がりですし…」
「それが…今は全員床に伏せっていてな」
「え、なんで!」
『留守中内緒で取っておいたカニを食べて食中毒になった』
「…うわァ」


なんかもう、この上司にしてこの部下ありって感じだ。


「頼む銀時!俺に力を貸してくれ!」
『早くしないと…食べられてしまう!』
「え、食べれるアルか?」
「いやいや神楽ちゃん…そういう話じゃないからね!期待しちゃダメだからね!」
「食べれないんなら用はないネ。ねー銀ちゃん」
「そーだそーだ。オメーとかかわるといいことねーからな」
「…ねー銀さん、受けてあげようよ」
「だからさ、なんでちゃんはさっきからこいつに肩入れするわけ?」
「いや、別に意味はないよ。ただヒマなだけ」
「人助けが暇つぶしって…すごい思考回路ですね」
「だってヅラっていっつも大袈裟じゃん?そんなたいしたことじゃないって、今回も」
「ヅラじゃない桂だ! 今回は大袈裟でもなんでもない!」
「あ、大袈裟って自覚あったんだ」
「…ゴホンッ、 実はその主とやらにだな…もう何人も近くの村人が捕まっているんだ」
「…はァ」
「つかまったら最後、誰一人帰ってこられないと恐れられている」
「っつーか、そんなあぶねー所に誰が好き好んでいくかよ」
「でも銀ちゃん、仲間を助けたらさ、ヅラからもその仲間からもいろいろたかれるよね?」
「なぬっ!」
「だって、助けるってことは命の恩人だよ?更に化け物退治したら村人からも感謝されるよね?もしかしたら『感謝のしるしにコレをどうぞ!』って金一封だされるかもしれない…
「金一封!!!」
「金一封あったら酢昆布十年分かえるね!」
「わざわざ酢昆布に換算しなくても…大体一日に何個で計算してるんだよ」
「ホラホラ、いいことばっかりでしょ?しばらく仕事しなくていくなるわけだし、お登勢さんに家賃徴収されることもなくなるよ?」
「おーっし、オメーら気合入れていくぞー!」
「「「『おぉー!』」」」
「オメーら、単純すぎだろ」


というツッコミをした新八君は無視!ってことで、私たちは仲良く人助けに出かけるのでした。


Scene.2


ってわけで場面はばびゅんと吹っ飛び山の中。銀さんは「おっかーねおっかっね♪」と歌いながら歩いている…ちなみに神楽ちゃんは「すっこーんぶすっこんぶ♪」って語呂ワリィよ!


イヤァ…なんかもうねェ…確かにのせたのは私なんだけどもうキミたちノリノリすぎ!呆れるほど元気のいい二人。


ある程度山を登っていってわかったことがある。まずその主とやらは最近現れたらしく、村の人たちを見境なく襲いまくっていること。襲われた人たちは食べられてしまったのか、山の中にいくつも骨が散らばっていること。その主とやらは、熊のような巨大な生物らしいこと。ちなみにこれらの話は私と新八くんが村の人から聞き出した情報&二人で話している間に出た考察で、村にいる間バカ3人プラスエリーは出された食事に夢中だったのでたぶん聞いてなかったと思うし、私と新八くんの話なんて当然聞いちゃいない。聞いてたらこんなノリノリじゃいられないよね、普通。


まァ幸いこのパーティは化け物並の強さを誇るバカ3人プラスすでに化け物以外の何ものでもないエリー(嫌いなわけじゃないよ!むしろ大好きだよ!?)がいるから大丈夫だと思われる。


「それにしても…なんだか薄暗くなってきましたね」


新八君がそういって空を見上げた。言われてみれば、さっきより空が暗いような気がする。別に雨が降っているわけじゃないし、時間だって日暮れにはまだ遠い。


「うん…やっぱ山奥ってことなのかな」
「でもそんなに高い木があるわけでもないし…」
「さっきまですかっと晴れてたのにね…」
「なんか僕…嫌な予感がしてきました」
「私も…」
「あ、ねーねー銀ちゃん、あれなにィ?」


神楽ちゃんが指差した先を見やると、そこには一本の木が立っていた。それだけならあー木があるねェ、で終わるのだが、どうもそれだけじゃ終わらない。


木の幹には、それはもうでっかい、とってもでっかい爪あとがくっきりと刻まれていたのだ。神楽ちゃんのあれなに、はあれをさしていったものと思われる。コレにはさすがに神楽ちゃん以外の全員が震え上がった。


「ああああああ、あれなにってお前、あれはあれだろ!」
「そそそそう、あれ、あれあああれ、あれだよ!」
「どどどど、どうする!?」
「そそそそりゃ、もも、もちろんっ!」


逃げるが勝ち!とは誰も叫ばずに神楽ちゃん以外の全員が一目散に逃げ出した。だってあれどう見ても熊!熊だよアレ!しかも私たちの身長なんか余裕で超えちゃうような高さだったよアレ!


そりゃあもう全身全霊をかけて逃げていた私たちだけど、突然行く手でどぉん、と変な音がしてひやりとした。ヤバイ、と思って足を止めた瞬間、どぉん、どぉん、どぉん、と、そりゃあもう聞いたこともない低くて大きな音とともに振動がドンドン近づいてくる。…あわわわわ、これはあれだよ、お約束のパターンだよ、やばいよホントやばいよ、私まだ死にたく…


「ガアァァァァァ!!!!」
「「「「「『ギャアアアアアアアアア!!!!』」」」」」


出たァ!私と新八くんとエリーは背を向けないようにすばやく後退って近くの茂みに隠れる。けど、よく見たら他の三人、なんか死んだふりしちゃってるんですけど!いやダメだよね!死んだふりなんてしちゃだめだよね!?それ迷信だから!いやでも声をかけるのも恐いよね…どうしよう…


あわあわしていると、熊がじりじりと銀さんたちに近づいていった。そして、どうしてか三人まとめて腕に抱えて、よっこらしょ、とか言いながら三人をどこかに持っていってしまう…って、持ってく!?ってかよっこらしょって何!?なんで熊がしゃべるの!?


「なななな、何今の!」
「今、熊しゃべってましたよね!?」
『っていうか三人誘拐された』
「どどど、どおしよおエリー!」
『落ち着け!とにかく気づかれないように後をつけよう!』


エリーの言葉に従って、私たちは取りあえず熊の後をつけることにした。


Scene.3


熊の後をつけてきてたどり着いたのは、絶壁に面した池?泉?のようなところだった。そこで私たちは、とんでもない光景を目にしてしまった。


なんと、熊の頭が取れて、中から人間が出てきたのだ!


っていうか、要するにきぐるみだ。ってか気づかなかったのか私。ちなみにつかまった村の人たちは熊の向こう側のヘンな洞窟みたいなところにまとまってつかまっているらしい。


「な、なにこれ…」
「さぁ…」
『あ、仲村!』
「え?仲村?」
『つかまった仲間だ!』
「あぁ…そういえば人助けに来たんだっけ…」


なんか熊の印象が強すぎてつい忘れてた…。


「あーつかれたー。おーいドンドーン、戻ったぞー」
「おーバンバン、ガンガン、ゴンゴン、お疲れー」
「いやー、すっげーの捕まえちゃったよォー。桂だぜ桂!」
「桂…って、あの指名手配の桂か?」
「そーだよ!あの指名手配の桂!と他二名ね。こいつらとんだチキン野郎だぜ!俺のこと見て倒れちゃったからな!」
「そいつァお笑いだな!」


……なんか良くわからないけど、村で言われていた主ってやつはこいつらのことらしい。すっげー気分悪い。あんなのにぎゃーぎゃー言わされてたのか…。それにしても、あの人たちはホントに倒れちゃったのか?とか思っていると、地面に無造作に倒された三人がむくり、と起き上がり、ものすごい勢いで熊を吹っ飛ばした。


「貴様らァァァ!この俺を愚弄するかァァ!」
「わわ、ドンドン!こいつら起きてた!起きてたよ!」
「おいガンガン!お前右腕だったくせに確認しなかったのか!」
「だって!そういうのはバンバンがするっていってたし!」
「いーわけすんな!」
「っていうかお前らなんだよ!」


ツッコミの星の元に生まれたからには、ココはつっこまないわけには行かない新八君がドンドンバンバンガンガンゴンゴンというなんとも長くてやかましい擬音四兄弟につっこんだ。当然お前らこそ何だ、ということになり…


「な、お前らこそなんだ!」
「え?えっとォ…な、なにかな?」
「何かなってこっちが聞いてるんだけどォ!?」
「チェーーーーストーーーーーーーーーーー!!!」


ドォン。向こうから銀さんのけりが炸裂。今度はドンドンもガンガンもゴンゴンもみんな一緒に吹っ飛ばされて、地面に思い切りたたきつけられた。…な、なんかよくわかんないけど、とりあえずこの隙にみんなを助けたらいいのかな?ちなみに神楽ちゃんとヅラは倒れた四人組に二人ずつ分担して暴行を加えている…ちょ、なんかみてて哀れなんですけど。……ま、雑魚だからいーよね。ってことで、洞窟につかまっている人たちを助けるために、新八君とエリーと三人で檻を壊しにかかった。っていうか洞窟に檻って、お金かけてるね。


檻の中には十数人が捕まっていた。エリーがボードで檻をぶっ壊し、私と新八君が外へと誘導する。人数は全部で15人。村でつかまった人が14人だったから、それプラス仲村さんで捕まった人全員だ。…ってことは、あの骨ってなんだったの?


「エリザベスさん!」
『仲村!大丈夫か!』
「はい…スイマセン、足手まといになってしまって…」
『気にするな。お前が無事ならそれでいい』
「え、エリザベスさん…!」
「ちょ、そこ!ドラマみたいなことしてなくていいから!早く逃げようよ!」


なんか無意味に感動している二人の背中を押して洞窟から遠ざける。ちなみに向こうでは銀さんも混じって擬音四兄弟に殴る蹴る…って、4対3なのになんであんなに一方的なの。だまされた恨みとかそういうの関係なく、日ごろのストレス全部ぶつけてるんじゃないのってくらいものすごいことになっている。死ねやコラァとか、くたばれマヨネーズ!とか、天誅!とか、関係ない罵声が飛んでるんですけど。 …かわいそ。


「ねー銀さん、もういいから帰ろうよー」


なんかあっけなく解決しちゃったし。もうここにいる意味なんてないよね。そう思って銀さんの方によっていくけど、ストレス解消に夢中な銀さんたちは全く私の声なんて聞こえてないみたい。


「っていうかもしもしー、話聞いてるー?」
「うおらァァ!」
「ねぇ銀さん」
「ウォォー!」
「神楽ちゃ…
「うらちゃぁぁぁあ!」
「ヅラ…
「ふはははは!天誅!」


「……………ねぇエリー、ちょっとそのボードかしてくれる?」


返事を聞く前にエリーからボードを受け取って構える。そして、全く話を聞かないバカ三人の頭にめがけて、最上級の笑顔を向けた。


「あ…あの、三人とも…逃げたほうが…」
「もう遅いよ、新八くん」


今さら謝ったって、許してあげないんだから。私はボードを振り上げて、力の限り叫んだ。


「えー加減にせーやこのバカどもがァァァァァァァア!!!!」


Scene.4


と、言うわけで。
擬音四兄弟は縛って、バカ三人はぼこぼこにしてそれぞれ横一列に並べてやった。これでやっと落ち着いて話が出来るわァ。


「擬音四兄弟!あんたたちは何でこんなことしたの!」
「そ、それはァ…なんかお遊び的な感じで、売って金にしようかなって思って…」
「その割にはずいぶんお金かけてるじゃないの。洞窟に檻作ったり、こんなでかい熊のきぐるみ作ったり」
「いや、なんかやってるうちに楽しくなってきちゃってさぁ…どうせならもっと本格的にいろいろやろうって思って…」
「あっそ。…っていうか、山に転がってたあの大漁の骨はなんだったの!」
「あ、あれは俺らが食べた鹿とかの骨で…」
「…じゃあ何、主って言うのは」
「あ、それ俺らが流したデマです」
「……」
「ごごごご、ごめんなさい!」
「よぉーし、さっさと連れてっちゃおうか?お空の上まで」
「うわァァ!ごめんなさいィィィ!」
「ま、まあまあさん…仲村さん無事だったんだから、いいじゃないですか」
「……まぁ、そうなんだけど」
「素直に警察行きますんで!ホンットすいません!」
「…うん、まぁ、わかったけど」


別に素直に警察に行ってくれるんなら私がどうこうすることなないんだけど。っていうか私ってそんなに恐いのかな…ちょっと落ち込むんですけど…。


「じゃ、取りあえず連れてこっか。そこのおバカさんたち!逃がさないようにちゃーんと縄つかんでること!」
「「「はいっ!」」」
「じゃ、いこっか」
「……くくっ」
「? 今なんか笑った?」
「いいいいい、いえ!何も!」


一瞬擬音四兄弟が笑ったような気がしたんだけど…。でも何もっていうから、なんでもないのかな。念押しで一発ずつぶん殴ってから四兄弟をたたせて、歩き出す。…でもなんか、あっけなさ過ぎる気がするんだよね。熊のきぐるみとか、あんなお金かけてたのに、……こんなあっさりつかまるもんなの?


「……なんかなぁ」
「? どうしたんですか、さ…「くくっ…」
「?」


その声に振り返ると、四兄弟の一人(名前?多分バンバン?ガンガンかな?わかんない)が気味の悪い笑いを浮かべていた。


「…くくくっ」
「な…なに…?」
「お前ら甘い、甘いぞ!いいとこのボンボンで金だけはある我々がこれ以上何もしていないとでも思ったか!」
「自分でボンボンとかいっちゃったよ」
「出でよ!我が愛マシーン!熊吉3号!」


そういうと、向こうの崖からゴゴゴ、と地響きのような低い音が聞こえてきて、軽く地面が揺れた。全員がその場に足を止め崖を見やると、石壁が崩れ始め、その崩れた壁の中からなんと!巨大な熊型のロボットが現れた!


「な、なんだあの無駄に金かけたロボット!」
「っていうか何で熊型!?」
『っていうか何で3号?』
「前に二台もあったのかよ!」
「えぇーい、やかましいわァ!!熊吉3号!我々を助けるのだ!」


その声に反応して、熊吉3号が擬音四兄弟をその手に救い上げた。え、ってか音声認識?マジ無駄に金かけてるなぁ。


「よし、奴らをやっつけてしまえ熊吉3号!」


四兄弟(たぶんゴンゴン?)の一声で、ロボットがグオォォォ、とうなり声みたいなのを上げた(そこまでしなくてもいいのに…)。そしてビームやらミサイルやらを乱射してくる。いや表現はテキトーだけど、マジでやばいんだよ!?


「ふはははは!思い知ったか熊吉3号の力!」
「てめぇらマジぶっ殺す!」
「もう恐くないもんねー、人間の女なんかぺしゃりだもんねー」
「なんだとこのヤロォー!」
「うるさい、黙れェ!俺らをなかせた罰だァ!」


死ねェェェ!そんな声とともに、熊吉の右手が私めがけて振ってくる。ヤバイ!そう思ったけど、思ったときにはすでに遅く、私は目をつぶってその場にしゃがみこんだ。!と呼ぶみんなの声が聞こえる。


だけど、いつまでたっても衝撃はやってこなかった。おかしい。そう思ってそろそろと目を開ける。すると、どうしてか仲村さんが私の盾になって熊吉の手に捕まっていた。


「え…な、仲村さん!」
「仲村ァ!」
「ぐ、ぎぎ…」


強く締め付けられる仲村さん。どうしよう…私はその場にたたずんだまま、ただ目を見開くことしか出来なかった。…私の変わりに仲村さんは捕まったのに。


「な、仲村さっ…」
「仲村!待ってろ、今助ける!」


ヅラが刀を抜いて熊吉に切りかかる。けれど、それを阻むようにミサイルが飛んできて、一向に熊吉に近づくことが出来ない。


「ふはははは!貴様ら人間が熊吉に勝てるわけがない!これぞ財力の力よ!」
「貴様ら…今すぐ切り殺してくれる…!」
「そーんな苦しそうな顔で言われても全然恐くないもんねーん!」


四兄弟は益々調子に乗り、ミサイル攻撃はひどくなる一方で、みんな手が出せない。そんな中、仲村さんが苦しそうに叫んだ。


「桂さん!俺のことはかまわず逃げてください!」
「バカを言うな!仲間を見捨てるなんて出来るか!」


そういうと、ヅラは再び熊吉につっこんでいく。けれどやっぱりミサイルに阻まれてしまって、爆風で後ろに吹っ飛んだ。


「ヅラ!!」
「桂さん!」
「ヅラァァ!」


吹っ飛んだヅラの後ろにエリーが回りこんで、二人で地面にたたきつけられた。その衝撃で腕をやられたのか、肩ひざをついて荒く息をしている。


「…ろ」


不意に仲村さんが何かをつぶやいたのが聞こえた。


「え?」
「…桂さんを連れて逃げてくれ!」
「なっ…何を言ってるんですか!」
「桂さんにこれ以上迷惑はかけられない!いいから逃げてくれ!」
「そんなことをしたら、貴方が…」
「俺の命なんてどうでもいい!早く…!」
「…なっ… 何言ってんのよ!」


仲村さんの言葉を聞いた瞬間、かあっと頭に血がのぼって、気が付いたら叫んでいた。


「俺の命なんてどうでもいい?そんなわけないでしょ!貴方が今死じゃったら、残された人たちはどうするの…?」
…」
「どうして… 誰かが命をかけて守ろうとしている命を、どうして簡単に投げ出せるのよ!!!」
さん、落ち着いて!」
「これが落ち着いてられるかってんだ!ムキィーーー!」
「はーいストップー!」


急に間の抜けた声が上のほうから響いた。全員がそちらを振り返ると、木刀を構え、ニィ、と笑っている銀さん。いつの間にあんなところに…!


「オーイ仲村、のいうとおりだぜ?誰かのために命を投げ出すなんてことはなァ、そいつを守ることにはならねーんだよ」
「な!貴様いつの間にわれわれの背後に…!」
「そーいうのはなァ、自分の命をそいつに背負わせるってことなんだよ。背負わされた方は、重くて重くて… 仕方ねーんだよ!」


そんな言葉とともに、木刀が熊吉の頭に叩き降ろされた。ビシッ、という音がして、ピキピキピキッ、と割れ目が入り、そしてとうとう、ドォン、と半分から真っ二つに割れてしまった。その隙に仲村さんは熊吉の腕から抜け出す。ちなみに擬音四兄弟は、熊吉の中であわあわしていたけど抜け出せず、それから数秒後、熊吉ともに爆発、お空の果てへと消えていった。


「お…終わった、の?」


放心状態で煙を見つめていると、中から銀さんが仲村さんを支えながら歩いてくるのが見えて、みんなでいっせいに駆け出した。


「銀さん!仲村さん!」
「大丈夫ネ?」
「おー。ぜーんぜん大丈夫よー」
「な、仲村さん…あの、私…私の変わりにつかまっちゃったのに…あんな失礼なこと言っちゃって…」
「気にすんなよ。むしろ…ありがとな」
「え?」
「いや、なんでもない」


仲村さんは、そういってにっと笑った。…私、お礼言われるようなこと何もしてないんだけどな。むしろ足手まといになっちゃったし。


「桂さん、帰りましょう!みんなが待ってます!」
「うむ…そうだな」
「おー、俺らも帰るぞー。やっぱりヅラといるとろくな事がねぇ」


銀さんは、そうぶつぶつ言いながらさっさと歩き出してしまった。その後ろを新八君と神楽ちゃんが追いかけていく。…私は、ヅラの方を振り返った。


「…あの…」
「誰かが命をかけて守ろうとしている命を、どうして簡単に投げ出せるの、か…」
「あ、いや…それは…」
「……なるほど、銀時が気に入るはずだな」
「え?」
「もう行け。おいていかれるぞ」
「あ…うん」


その言葉に押されて歩き出す。じゃあね、と軽く手をふったら、3人で振りかえしてくれた。


…なんか、すごく恥ずかしいことをいわれた気がするんだけど。


銀さんたちの背中を追いかけながら、ヅラの言葉を思い返していた。気に入る?恐がられるの間違いじゃなくって?


「…気に入られてる、のかな」


確かにそう思えなくないこともあったような気がするけど…。でも、銀さんは忘れてくれっていってたし、普段は凶暴女とか歩く凶器とか言われてるし…。


ヅラの言うことはよくわかんない! 私はそう思い直して、向こうで私を呼ぶみんなへと駆け出した。


Scene.5


家に帰る前に夕飯の買い物をした。3人は金一封をもらい忘れた話で盛り上がっている。というか、ものすごく悔しがっている。そりゃあタダ働きだからね。後でたかりにいこうとかそんな話をしている…容赦ないね、アンタら。ちなみに私は少し後ろをとぼとぼと歩いていた。


まよい橋を渡りきったとき、私はふと醤油を買い忘れたことに気がついた。あ、というと、新八君がどうしたんですか、と振り返ったので、持っていた荷物を預けて買いに行くことにする。


「先帰ってていいから。出来れば下ごしらえしといてくれると嬉しいな!」
「わかりましたー」
「じゃ、いってくるね」


そこで3人と別れて、元来た道を引き返す。どうも安売りじゃないものは忘れる傾向があるなぁ。貧乏生活染み付いてるからなぁ…なんてどうでもいいことを考えながら、橋の終わりまでやってきたとき。


「オイ」


不意にそう呼び止められて顔を上げる。すると、そこに艶やかな赤紫の着物を着て笠を被った女が立っていた。


…違う、着物は女物だけど女じゃない。


「…オメーか、新しく銀時のところにきたってやつは」
「……高杉」
「へェ…俺のこと知ってんのか」


知ってるも何も、ラスボスじゃない。笠の隙間から、まさしく獣のような、凶暴な瞳がのぞく。


「…なんで、いるの」
「特に用はねェよ。ただ銀時が女を連れまわしてるって聞いてな。どんなもんなのか見に来ただけだ」


深く長く煙を吐き出し、高杉はこちらに近寄ってきた。口元が微かに弧を描く。漫画で読んでるのとは全然違う。…恐い。私は身動きできずに、ただ高杉をにらみつけていた。


「…オイ、そんなに怖がることねーだろ。これから仲良くしようって挨拶だ。…挨拶には、元気に返事するもんだぜ」
「あんたなんかに挨拶返したくない」
「へェ…なかなか活きのいい女だなァ…」


くくっ、と笑みをこぼす。私のすぐ目の前で立ち止まり、ゆっくりとした動作で煙管を口まで運ぶ。…煙を吐き出したその目に、微かに光が走ったのが見えた。


「…気に入ったぜ」


高杉の手が、私の頬まで伸びてくる。ぞくり、と背中に悪寒が走る。逃げたい、だけど、足がすくんで動かない。まばたきすら出来ずにじっと睨んでいると、触れる直前でぴたりと止まり、やがてその手は下に落ち、低く、やけにゆっくりした笑いが響いた。


「…そんな顔するなよ…銀時」
「え?」


振り返るとそこには、木刀を握り高杉を睨みつける銀さんがいた。


「どうして…先に帰ったんじゃ…」
、いいからこっち来い」
「え、あの…」
「来い」


言うが早いか、ぐっと腕をつかんで引っ張られ、左腕に抱きとめられる。


「何でテメーがここに居る」
「心配しなくても…今日は何かしに来たわけじゃねェ。そいつを見に来ただけだ」
「どういう意味だ」
「女を連れ歩くんなら一人にするなってことだ」
「……」
「じゃーな。次に会うときは、……いつだろうな」


高杉はそういうと、橋の向こう側へと消えていった。…どうしてか、人の声がすごく遠くに聞こえる。後には耳障りな静寂と、煙管の匂いが残る。


「…あの、銀さん……」


見上げると、銀さんは恐い顔で高杉が消えた方をにらんでいた。その顔に、少しだけぞくりとする。


「…銀さん!」
「おっ…あ、あァ…無事か、
「うん…大丈夫…だけど、どーして?先に帰ったんじゃなかったの?」
「妙な匂いがしたんでな…来てみたら…これだ」
「妙な…匂い?」


そんなの、私にはわからなかった。昔からの知り合いだったら、やっぱりそういうの、分かるんだろうか。そう思ったけど、これ以上はつっこむのをやめた。…つっこんではいけないような気がしたから。


「あの、銀さん…私、もう大丈夫だから…」
「あァ」
「あァ、って…あの、離してほしいんですけど…」
「ダメ」
「は!?」
「俺もう、オメーらのこと一人に出来ねーなァ…」


そういったかと思うと、両手で思い切り抱きしめられた。…って、え!何でそこで抱きしめられなきゃいけないの!?


「ちょっと銀さん、恥ずかしいんですけど!」
「んー、銀さん力抜けちゃったー、このまま引っ張ってって」
「無理無理!ってか醤油ー!」
「だからスーパーまで。レッツゴー」
「レッツゴーじゃねェェェェェ!」
「んだよ、ちゃん冷てーなァ」
「冷たくない!普通だから!ホラ、離れて離れて!」


そういうと、銀さんはぶつぶつ言いながら離れていった。…って言うか何、この甘えん坊、誰?さっきまでの恐い顔とは別人みたいだ。


「…もう、早く醤油かって帰ろう?ついてきてくれるんだよね?」
「えー、めんどくさいなー俺」
「さっき一人に出来ないって言ったばっかりでしょうが!」
「そうなんだけどー」


でもめんどくさいしー、疲れたしー。グダグダ言いながらもスーパーのほうへと歩き出す。その後姿は、いつものけだるい、気の抜けた銀さんだ。


…さっきの高杉のあの目。一瞬思い出して震える。あの目を見た瞬間、殺される、と思った。人を殺すことをためらわない、人の命をなんとも思わない、そういう目だった。


手が震える。背中がひやりと冷える。ヘンな汗が出る。…私は駆け出して、銀さんの着物の袖を引っ張った。


「っわっ、なんだよ」
「……」
「おーおー、恐かったのねー。恐かったんでちゅねー」
「…恐かった。殺されるかと思った」
「……」


ホントに、冗談なしに。あんな目を出来る人に、はじめて出会った。もし銀さんが来てくれなかったら…そう考えるとぞっとする。


「ごめんな」
「え?」


ぽんぽん、と頭を叩かれた。その声がなぜだか悲しそうで顔を上げたけど、表情はいつもと変わらない。目も死んだ魚のままだ。


…自分と高杉とのことに巻き込んで、ってことなんだろうか。というか、この状況ではそれしかないよね?


「…いや、それは別に…いいんだけど…」
「おっし、じゃーいくぞ」
「えっ、そ、それだけ!?」


いいって言った途端コレだよ!もうちょっとなんかないのか!そう思ったけど、着物をつかんだままの手が振り払わない優しさに気がついて、文句をいう気も失せてしまった。…ホント、この人は良くわかんない。


そのまま私の手は、スーパーにつくまでずっと銀さんの着物を握っていた(しわになったけど、気にしなーい/後でアイロンかけてあげよっ)。


2008.06.01 sunday From aki mikami.