Episode 9

お勉強ってやっぱり大事

Scene.1






「あったよとお…じゃなくて、土方さん!」
「あんだと!」
「なにーィ!そんなバカな!」
「さっきの慌てぶりはなんだったんだよォォォ!」
「ぇ…ちょ、みんな…?」


なんか喜ぶどころかすっげ怒られてるんですけど。なんで?手掛かり見つかったのになんで怒られるわけ…?


「へっへっへー!」
「…銀さん?」
「ホーラホラみなさん!出すもの出してねー!」
「…チッ」


なんかよくわかんないけどみんな銀さんに千円ずつ渡して…って、なんで?


「ったく。オメーは紛らわしいんだよ反応が!」
「え…え!?」
「そうですよ。あんな顔面蒼白だったら誰だって嘘だと思います!」
「それともなにか?万事屋と共謀して嘘の紙持ってきたってのか?」
「でもさっきの嬉しそうな表情はマジで今まさに見つけてきた顔ネ。アレも嘘だったら私人間不信になるヨ」
「案外銀さんが仕組んだんじゃないですか?さりげなくポケット探らせて、お、なんか落ちたぜ、的な」
「ししし、新八くん!この銀さんがそんなことを企んでいたと?」
「わっかりやすいなオメーも」
「旦那ァ、そういうズルはなしにしやしょーってあれほど言ったじゃねーですか」
「そうだぞ万事屋!卑怯だ!千円返せ!」
「いやぶっちゃけそのつもり満々だったんだけどこれがまた違うんだわ!なー?オマエのポケットに入ってたよな?」
「う…うん…そうだけど…」


…もしかしてコイツら。


私がホントにメモ持ってるか掛 け て た の か ?


「………………」
「アレェ?喋んなくなっちゃった。オーイちゃーん?心配すんなって分け前は7:3で…」
「………ゃ」
「え?」
「オメーらみんな死ねやボケェェェェェェ!!!」


Scene.2


「…ってことで」


十四郎のひとことで仕切り直し。私以外の全員血祭りだけど気にしなーい(ちなみに千円は私がいただいた!)。


「開くぞ」


テーブルの上に乗せられた一枚の紙。四つ折りにされていて中は見えない。…その紙に、十四郎が手をかけた。


カサリと紙を開く。恐らくB5サイズのその紙に一体何が書いてあるのか…誰もが息を呑んだ瞬間。


「…………………」


おニャン娘倶楽部。


「なんじゃコリャァァァァァ!」


なにこれっッ!これただのデートクラブのチラシじゃん!


「…………オイ」


ズゥン、と心臓に響くドスの聞いた声。恐る恐る顔をあげると、なんかもうくっきり青筋な十四郎の顔が…


「なにがおニャン娘倶楽部だァ…?」
「え!あ…やァ…」
「そんなにデートがしてェんなら万事屋に依頼して付き合ってもらえやァァァァァ!」
「ち、ちが…!ってか銀さんじゃやだ!役不足!」
「んだとコラァァァァァァ!ってか貴重な千円返せェェェ!」
「そんないかがわしいことしてたなんて!不潔ネ!不潔すぎるネ!」
「見損ないましたよさん!」
「えェェェ!ちょっと待ってェェェ!」
「俺は薄々勘づいてやしたぜ」
「うるせェェェ!だからちがうんだって!ホントにこれがポケットに…!」
「だーからあとで使おうと思ったんだろ!」
ちゃん!そうかキミはそんな欲求を抱えていたなんて…!仕方ない、俺が一肌脱ごう!市民を救うのも真選組のしご…」
「黙ってろやゴリラァァァァァァ!」
「! ちょっと待って!」


わいわい沸き立つ中新八くんの声が響いた。全員がピタリと言葉を止める。


「…これ!」


おニャン娘倶楽部を持ち上げた新八くんは、何故かそれを空に翳した。え、なに?そんなに興味あるわけ?やっぱ男はそういうの好きですよねー。


「じゃなくって!これ…この穴!」
「穴ってそんな下品な…」
「違ェェェ!ホラ見ろコレ!」


ずい、と目の前に押しつけられる。なんだよー近すぎるんだよー。少しだけチラシを顔から離すと、…アレ、穴。


「…針の穴?」
「そうですよ!なんかいっぱい開いてるじゃないですか!」
「っ!ちょっ、貸せ!」


ものすごい勢いで横から割り込んで来てチラシを奪い取る十四郎。わっ、近い近い!…ってそーじゃなくって!


「……第2ビル」
「第2ビル…?」
「そう書いてあんだよ」
「え…でもそれだけじゃ…」
「ああ。第2ビルなんてつく建物は探しゃ十数件はある。…コレもどうやら決定的な手掛かりにはならなそうだな」
「…………ゴメンナサイ」
「オメーのせいじゃねーよ」
「そうでさァ、万事屋の姉御。悪いのは全部土方でさァ」
「なんっでそうなんだ!」
「っつーか万事屋の姉御って何!その言い方だと私万事屋に嫁いだみたいじゃない!?」
「ちげーんですかィ?」
「ちげーよ!」
「オイオイ、俺がこんな破壊神を妻に迎えるわけ…」
「銀さんは黙ってて?」
「………はい」


くっそー!どいつもこいつも人のことおちょくって!特に銀さんは私への扱いがひどすぎるっ!もっと十四郎ばりに優しくしてくれないと…!


…それにしても、せっかくの手掛かりだったのに。なんか私結局力になれなかったな。そんな風に思っていたら、真選組の別の隊士の人がわざわざ建物の名前と住所が入ったリストを持って来てくれた。その一番上をチラリと視界に入れただけで、第2ビルの文字が二つも見える。


「とりあえずすべての第2ビルに人員配備するしかねェな」
「っつっても…こんだけいっぱいだと…人手足りる…?」
「足りさせるしかねェだろ」
「もう少し絞り込めるんじゃ…」


だって、悔しいじゃない。十四郎やみんなはもういいだろって言うけど、よくないよ。だって私まだ役にたってないもん。


リストを上から目で追っていく。用紙は十数枚に渡っていて、【あ】から順番に並んでいる。第2ビルってつく建物は、やっぱりというか、たくさんあった。ってか、なんでこんなにいっぱいあるの!ありえないから!


絞り込みなんて、出来るわけない…


「…オイ、もういいぞ。こっからは俺たちの仕事だ。………ってオイお前、泣い…
「あっ…」
「あァ?」
「セカンドビルディング!」
「…は?」
「これ!」


リストの5枚目、上から4番目にある文字。


「第2ビル!英語で、Second building!」
「…………そうなのか?」
「あ、わからない、そうですか」


英語、わからないんだ…ま、いいけど…。よく学のない俺たちにゃ、って言ってるしね。


「きっとこれだよ!ホラ、ピッタリ第2ビルだよ!それにここは今テナント募集中だから、取引には絶好の場所だよ!」
「よっし!そうとわかりゃ人員配備だ!ヤツの話しによりゃ取引は今晩らしいから、今から張り込みゃ尻尾掴めっかもしんねェ!」
「うん!さっそくいっちゃおう!」
「オーイちゃん?」


私たちの会話を遮ったのは銀さん。死んだ魚の目には一筋の光すらなくて、なんかもうホントに死んだ人に見える。


「別に俺ら手伝わなくてもいいんじゃねーのー?」
「そうですよさん。なんで僕らが真選組の人達にわざわざ協力しなきゃいけないんですか」
「そうネ!まァコイツらが協力してくださいって頭さげるんなら考えないでもないけどな!」
「誰がテメーなんかに頭下げるか。オメーが下げろ」
「なんだとォォォオ!このクソガキがァァァァァァア!」
「うっせェチャイナ!表出ろ!」
「上等だ!かかってこいやコラァ!」
「あのー…」
「ほっとけ。……まァしかし、こればっかりは万事屋の言う通りだな。オメーにはこれ以上協力させられねェ」
「どうして…?」
ちゃん。これは俺たちの仕事だ。一般市民を巻き込むわけには行かないんだ」
「俺たちが必ず、ヤツらを根絶やしにしてやっからよ」
「………でも」
「心配ありやせんぜ姐さん。そこの土方はバカですがやるときゃやるヤツでさぁ。姐さんとの約束は俺がきっちり守らせやすぜ」
「総悟オメー誰がバカだ!」
「オメーだよ」
「どこ見てるネクソガキィィィイ!」


総悟の顔面に神楽ちゃんのケリがクリティカルヒット!再びケンカスイッチが入った二人はあれよあれよと言う間に大乱闘になっていった。


「っつーことだ。帰んぞ」
「…はい」


だるそうに立ち上がった銀さんについで立ち上がる。正直納得なんていかないけど、銀さんが帰るっていってるんだし…私なんかがいても足手まといだもんね。立ち上がった私に続いて近藤さんと十四郎も見送りについて来てくれた。


頓所を出る直前、十四郎が私の頭をポンと叩いて励ましてくれた。それは嬉しいんだけど、せっかくだからもう少し話していたかったな。


何かあれば知らせに来てくれるという十四郎の言葉を信じて、私たちはその場を後にした。


2008.05.11 sunday From aki mikami.