Episode 17

いくつになっても祝ってほしい

Scene.1






せっかく仲良くなったんだからと妙ちゃんの家に遊びに行って、しばらく談笑をしていたとき。不意に妙ちゃんがカレンダーを見ながら、今年ももうこんなにすぎたのねェ、と言うから思い出してしまった。


「あ…明日私、誕生日だ…」
「あら、そうなの!?というかちゃん、自分の誕生日を今思い出したみたいに…」
「いや、事実今思い出した…。こっち来てから日にちとか気にしてなかったからねェ」
「それにしたって…」
「ウチってさ、誕生日祝う習慣なかったんだ。だから尚更なんだけど」
「じゃあパーティしましょう!」
「………はい?」
「明日!ウチのお店を借り切って!ね?」
「いや、ね?って…スナック貸し切れるようなお金ないけど…」
「大丈夫、金蔓ならいるわ」


そういうと妙ちゃんはテーブルの上の来客用のごっつい灰皿をひょいと持ち上げ庭の方へ放り投げる。すると、ぐあァ、とうめき声。


「お金ならあのゴリラがなんとかするわ」
「いやいや…妙ちゃん、それはいくらなんでも…」
「僕はお妙さんのためならなんでもします!なんなりと申し付けてください!」
「じゃあ生命保険、入ってくれる?」
「…ハイ?」
「受取人は私にしてね。で、すぐに砂袋背負って海に飛び込んで来てちょうだい」
「あの…」
「なんでもするんでしょう?」
「イヤ妙ちゃん…その辺にしてあげよう?」
「ちっ… ヤダァちゃん、今のはほんの冗談よ」
「今…舌打ちしませんでした?」
「気のせいだろ 殺すぞゴリラ」


ホント妙ちゃんは、男(特に近藤さん)相手だと辛辣だなァ。まァそれがみてて面白いんだけどね。


「ねェ妙ちゃん、パーティはうれしいんだけど…私スナック貸し切るよりお家でパーティする方がいいなァ…したことないしさァ」
「じゃあ、ウチでやればいいんじゃないですか?」


お茶のおかわりを運んで来てくれた新八くんが、そう言って割り込んで来た。


「でもせっかくの誕生日なのに…」
「パーティしてくれるだけで充分うれしいから」
「…そう?」
「そうよ」
「それに姉上、こういうのは気持ちが問題ですよ!ウチだって飾り付ければ結構キレイになりますって 」
「飾り付けなんていいのに…そこまでしてもらうと悪い気が…」
「よォし!こうなったら今からメンバー集めよォォォ!!行くわよ新ちゃん!!」


そう言って、妙ちゃんは新八くんをズルズル引きずっていってしまった。え、ってか私、人ん家で置いてけぼりくらってんだけど。放置プレイ?とか思っていたら、襖の方から妙ちゃんが顔を出して、まずは万事屋に行くから一緒にいきましょう、だって。よかった放置されなくて。


ってことで、3人で万事屋に帰ることになりました。


Scene.2


「金出しやがれ、コラァ」


万事屋について銀さんの顔を見るなり、妙ちゃんはデスクに右手をたたきつけて左手を差し出した。いやいやいや、違うでしょ妙ちゃん。


「あァ?んだよ急に」
さんが明日誕生日だって言うんで、ウチの道場でパーティしようってことになったんですよ」
「パーティだァ?オメーいい歳してんなガキくせェこと…」
「企画者は私よ?文句あるわけ?」
「イエ…なにも…」
「あのね、私今まで一度もパーティってしたことなくてね。って言ったら妙ちゃんがしようって言ってくれたんだァ」
ちゃんったら自分の誕生日忘れてたんだから」
「誕生日忘れるってスゲーな」
「銀さんなら全ての記憶がなくなっても覚えててプレゼント集りに来そうですよね」
「ちょっと新八くん!銀さんのことなんだと思っちゃってるわけ!?」
「まったくダメな親父」
「マダオじゃん!」
「そうだわ、長谷川さんも呼びましょう!ついでに真選組の人たちにも声かけてきましょう。ってワケで銀さんは新ちゃんと一緒に道場の飾りつけ、よろしくね」
「姉御ォ、私はァ?」
「神楽ちゃんは私と一緒にみんなを誘いに行きましょう」
「え、私は?」
ちゃんはおうちでお留守番よ。主役なんだから」
「え、でも」
「いいわよね?」
「……はい」


私より年下のはずなのに…妙ちゃん恐いから…。全く抵抗できずに素直に返事をすると、妙ちゃんは銀さんと新八くんにギロリと睨みを聞かせて神楽ちゃんと二人で出て行った。出て行く前に、プレゼント買っとけよコノヤロー、って、それはもうすんげぇ黒い笑みを浮かべて。


その黒い笑みに押されてなのか、それとも後々の鉄拳を恐れてなのか、男二人はいそいそと部屋を出て行った。


さっきまではあんなにやかましかったのになァ。すっかり静かになった万事屋に、私は一人ぽつんと立っていた。


誕生日かァ。生まれてから一度もおめでとうなんていわれたことがない気がする。パーティなんてやったことないし、プレゼントだってもらったことがなかった。親からも友達からもスルーされていた。ってか私に友達なんていたかな。いたような気もするし、いなかったような気もする。人間の付き合いなんて微妙だし。


考えていたら頭が痛くなってソファに寝転がった。ってか、最近頭痛が増えた気がする。まァ今日のはたぶん昨日銀さんに無理やり付き合わされてお酒飲んだからだけど。あまりにひどくなって来たので、少しだけ寝ることにする。今日夕飯当番じゃないし。あァ…今日はふりかけご飯の日だなァ…。


そんなとりとめのないことを考えながら、私の意識はゆっくりと沈んでいった。


Scene.3


翌日。パーティ会場である恒道館道場に連れて来られた私を出迎えたのは、それはそれはキャラの濃い面々だった。


銀さん、新八くん、神楽ちゃん、妙ちゃん、近藤さん、十四郎、総悟、ザキ、お登勢さん、キャサリン、ヅラ(キャプテンカツーラ)、エリー(エリゴ13と書いてある…)、長谷川さん…そして私の、総勢14名。ちなみに定春もいれたら14人と一匹。あ、エリーも匹かな?てか、定春は何故か私に冷たいんだよね…一度も振り向いてくれたことがない…ちょっとかなしい。


それにしてもずいぶん集めたなァ、と、来てくれたみんなを眺めながら思う。


「さァちゃん、こっちへどうぞ!」


そう言って妙ちゃんに引っ張られ、みんなの前に連れられる。うれしい反面はずかしく思っていたら、新八くんがみんなに飲み物を配り始めた。ちなみに大人はお酒…私含め。あ、総悟も何故かお酒。ってか未成年じゃないのか?ザキ…は、どうなの?歳しらないや…。神楽ちゃんと新八くんと妙ちゃんはオレンジジュース、定春は水。こうして見ると大人率高いなァ…。


「それではみなさん、飲み物を持ってくださーい!」


妙ちゃんの声かけでみんなが一斉にグラスを持ち上げる。それに習って、私も慌ててグラスを掲げる。


「では乾杯の音頭を、ちゃんにとっていただきましょーう!」
「え゛!私っ!?」
「おーぅ、今日の主役!」
「大丈夫ですぜ姐さん。笑ったりしやせんから」


いや、すでにニヤニヤしてるだろドSコンビ!ってか他のみんなも若干笑ってるんですが…。温かく見守ろうって気はアンタらにはないのかっ!


ー、早く乾杯するネ!私お腹ペコペコヨ!」
「早クシロ コッチハサッキカラ ズット 我慢シテンダヨ!」
「え…えっと…じゃあ…」


私はグラスを左手に持ち替えて、ゴホンとひとつ咳払いをした。


「えーっと、今日は私のためにわざわざありがとうございます…!あの…私こういうのはじめてなんで…何言っていいかわかんないんだけど…ま、まァ、とにかく楽しみましょー!乾杯!!」
『カンパーーイ!!!』


みんなの声でグラスに口をつけ一口飲み干す。私の好みに合うようにとわざわざ甘いお酒を選んできてくれたらしい。


グラスを置いた瞬間神楽ちゃんが光速の如く料理に手をのばした。よっぽどお腹が空いてたらしい。っていうか、私がぼんやりしていた間みんな用意しててくれたんだもんね。つまみ食い禁止!とかいわれてお預け状態だったに違いない…。ゴメンネ神楽ちゃん。


神楽ちゃんの光速食いを目の当たりにしたみんなは、負けじと(?)料理にかぶりついた。


なんか並んでるものが、普通のオードブルとかお菓子とか以外に、明らかにおかしいものがあるんだけど…(酢昆布とかかわいそうな卵とかマヨネーズとか…)。ま、まァ、気のせいだよね!


「今日はいつもよりうまくできたのよ、卵焼き。たくさん食べてね」


やっぱりィィィィイ!!


「あ…あはは…ありがとォ、妙ちゃん…」
ちゃん、全部食べてね、全部♪」
「ぜ…全部は流石に…多いんじゃないかな…」
ちゃんのために作ったのに…!」
「うぐっ…!そ、それは…!」
「お妙さんが作った料理なら僕が全部食べます!」


そう言って近藤さんはかわいそうな卵をぺろり。うわァァァ、助かったァァァ!


「オイ、何やってんだよゴリラ」
「〇△+&×÷¥&*※#」


妙ちゃんに胸倉をつかまれつつぶくぶく泡をふく近藤さん。うわァ…ゴメンナサイホント…。


「た、妙ちゃん…離してあげようか…」
「だってせっかく… 仕方ないわ、今もう一度作って…
「たたたたたた妙ちゃん!私それより妙ちゃんとご飯食べたいなァ!卵焼きはこ、今度また…!」
「………………ちゃんがそういうなら…」


よかったァァァ!一応ピンチは切り抜けたらしい…でもいつか来る"今度"に明日から怯えなきゃいけないのか…あァ、恐ろしい…。


「じゃあ妙ちゃん、私なんか取ってあげるね!ホラ、さっき若鶏の唐揚げが…って十四郎!なにやってんのォォォ!!」
「あ?マヨネーズかけてんだよ見りゃわかんだろ」
「わわわわわかるけど…!」
「土方さん…せっかくのご馳走を犬の餌にするたァ…最低ですねィ」
「そう言いつつ海老の殻キレイに残して皿に戻してる総悟も最低だよね」
「っつーかオメーら行儀悪いんだよ!」
「とか言いつつお菓子ばっか引き寄せて食べてる銀さんも行儀悪いよ」
「まったくダメなだなァオマエら!これだからマナーのなってないお子ちゃまは… "ガシャン" あああああ!」
「あー、マダオがこぼしたアル」
「流石ですねマダオさん」
「妙ちゃん…そんな辛辣な…」
「あーあ…僕ここにいるの辛くなってきた…ね、山崎さん」
「ホント…なんで俺たちの回りにはダメな大人ばっかりなんだろ…」
「ホレ さっさとテーブル拭きな!」
「お登勢さん…すいません…」
「マダオガ カッコツケヨウト スルカラ コウナルンダヨ!」
「すいませ~ん!」


開始から10分もたってないのにもはやぐたぐだに…。やっぱりこのメンバーじゃこうなる運命らしい。ホント長谷川さんのことマダオマダオ言ってるけど、みんな準マダオみたいなもんだもんね。


「ところでよォ…」


啜っていたマヨネーズから口を離すと、十四郎がそう言った。


「さっきから気になっていたんだが…コイツ、桂に似てねェか?」
「奇遇ですねェ、俺もそう思ってたとこでさァ」


うそォん。気付いてなかったわけ?


「桂じゃない、通りすがりのキャプテンカツーラだ」
「でもこっちの生き物は桂が連れてる変な生き物にそっくりだ」
『変な生き物じゃない。エリゴ13だ』
「トシ!総悟!とんだ勘違いだぞ!ヤツらはこんなに凛々しい顔しとらんだろう!いやー、すいませんねーキャプテンカツーラさん!」


……近藤さん、アンタ、やっぱダメだよ。って、真選組以外の誰もが思ったに違いない。


そんな感じで、楽しい時間は過ぎていきましたとさ。


Scene.4


「それじゃあ、今日のメインイベントね!」


料理をあらかた食べてしまってから、妙ちゃんがポン、と手を叩いてそういった。


「メインイベント?」
「プレゼントよプレゼント!」
「プレゼントって」
「じゃじゃーん!私からはコレよ!」


そういって取り出したのは、小さな紙の箱だ。よかった、かわいそうな卵じゃなさそう!


「…いいの?」
「もちろんよ!さァあけてみて!」


期待に満ちた目で妙ちゃんが見つめてくる。ってことで箱を開ける。


「髪留めだァ!」
ちゃんにきっと似合うと思ったの!どう?」
「嬉しい!ありがとう!」
「じゃあこれはアタシたちから」


今度はお登勢さんとキャサリンからだ。ラッピングされた袋を開けると、中からうさぎの絵がついた買い物カゴが出て来る。


「アンタよく買い物いかされてるだろ。だからね」
「ウサギ!カワイイ!」
「アタシが選んだんだから当たり前だろ?」
「オマエニハ 全然似合ッテナイケドナ」
「いや、アンタらよりマシでしょ」
「新八くん、マシって…」
「あ!いや!これは言葉の綾ってやつで…!」
「まったく、新八は乙女心がわかってないネ!~、これ私からのプレゼント!受け取れコノヤロー!」
「コノヤローって…コレ…」


明らかに見たことある形状だけど、まァ一応包装紙を開ける(ってかどこで包んでもらったんだろう?)。


「…やっぱ、酢昆布、なんだァ」
「気に食わないアルか?」
「ううん!そういうわけじゃないよ!酢昆布おいしいしね!でも…これって神楽ちゃんのほしいものじゃ…?」
「銀ちゃんが自分の好きなもんあげりゃいーんだよって言ってたアル」
「そ、そうなんだ~!」


…銀さんはあとで締め上げよう。まったくろくなこと教えないんだから。


「どきなチャイナ。今度は俺からでィ」
「ぁ?テメーなんかのプレゼントが喜ぶと思ってんのかよ」
「あーあー、喧嘩はやめて!…で、総悟はなにをくれるの?」
「これ、でさァ」


………………なに今の、"これ"と"でさァ"の間の微妙な間。なんか嫌な予感がするんですけど。


渡されたのはいかにも怪しい黒いプラスチックの箱。総悟がニヤニヤしているのを片目で見つつ、そっと箱をオープンする。


「ギャアァァァァア!」


思わず箱を落としてしまった…だだだだだだだだって!かえるがっ!かえるがっ!!(しかもデカい!かなり!)


「ハハハ、やっぱ姐さんは反応が面白ェや。よく見てくだせェ、作りもんですぜィ」
「ぇ…あ、ホントだ…」
「ホントのプレゼントはこっちでさァ」


そう言って、作り物のかえるの口をパカッと開ける。


「あ…ぬいぐるみ…?」


手のひらサイズの、あのいつもくまさんと一緒にいるきいろいやつのぬいぐるみだ。


「女性はこういうカワイイもんが好きだと思いましてね。まァホント言うと、俺の姉上の好きなもんなんですが…」
「総悟ってお姉さんいるんだ?どんな人?」
「そりゃあもう!姐さんの何倍も優しい人でさァ!」
「うん、よぉくわかった。アンタは私に喧嘩売ってるんだね?」
「違げーますよ、俺は人をからかうのが好きなんでさァ」
「最低だなホント」
「オイ、コレは俺からだ」


総悟との間に割り込んできたのは十四郎だ。ピンク色の和紙できれいにラッピングされたそれは、これまた見覚えのある形状をしている。


「ホラ、あけてみろよ」
「う、うん…」


開けなくても中身が分かってる場合って、どうしたらいいんだろう。とりあえず、適当に喜んどけばいいかな。


「やっぱ、マヨネーズなんだ…」
「なんだ、気にくわねェのか?」
「いや、私マヨネーズ好きだよ。サラダには必ずマヨネーズかけるし…」
「やっぱそーだと思ったぜ!始めてあったときから同じマヨラーの匂いが…」
「や、マヨラーじゃないけど」
「土方さん、仮にも女性にそんなカロリーの高いもんプレゼントするなんてアンタホント最低ですぜィ」
「いや、仮にもって、総悟も十分最低だよ」
「だから気ィ使ってカロリーハーフにしてやってんじゃねーか」
「って、やっぱアンタも最低だわ」
「じゃあ俺からはコレだ!」
「ちょっと待った!俺、じゃなくて俺たちからでしょ!」
「え、俺たち?」


近藤さんと長谷川さんが、どうして?ってか、この二人のくれるものって…うわっ、期待できないなぁ…と思ったら、手渡されたのはなんか明らかに上物の袋に入った、明らかに上物の着物。…え、着物ッ!?


「えええええ!なななな、何で!?」
「そりゃあ、せっかくの誕生日だから…なァ?」
「そーだよ!…ねェ?」
「その着物ね、私が選んだのよ!」
「あ…なるほど」


妙ちゃんに指示されて(脅されて)買ったってワケだ。哀れな大人…。


「でも、こんな上物もらっていいのかなァ…私より妙ちゃんのほうが似合うだろうし…」
「何言ってるのよ!そりゃあ私が似合うのは当たり前だけど、ちゃんにきっと似合うだろうと思ってせっかく選んできたのに…!」
「姉上、今とんでもないことさらりと言いませんでした?」
「あ、ありがとう!あの、受け取る!受け取るから、肩つかむのやめて、ヤメテクダサイ!」
「あらやだ私ったら!ごめんなさいねちゃん」


ごめんなさいって、いやいや、肩痛いから!腕とれるかと思ったから!とかいったらまたなんかされそうなきがするのでやめておこう。


「じゃあ、これは俺から!」


そういって、今度はザキが小さめの包みを差し出した。…シルエット的に、ストラップ的な何かだと思われる。と思って包みを開けると、案の定ストラップだ。まァ、可愛いんだけどさァ…。


「チョイスが地味なんだよジミーが」
「ちょ、神楽ちゃん!」
「ホント山崎はジミ過ぎてしかたねェや。一緒に居たらジミがうつりそうでィ」
「なんでそこまで!?っていうかストラップのなにが悪いんですか!可愛いでしょ!?可愛いですよね姐さん!?」
「うん、可愛いよ、ありがとう」
「ホラァァァァア!姐さん可愛いっていってるじゃないですか」
「渡し方が平凡なんだヨ。もっと演出考えろヨ」
「そーだぞ山崎。オメーミントンばっかやってっから」
「そうですよ山崎さん。ストラップなんてそんなありきたりな。はい、さん。コレは僕からです」
「…あ、ありがとう」


そういって、今度は新八くんが小さめの包みを差し出した。…シルエット的に、キーホルダー的な何かだと思われる。と思って包みを開けると、案の定キーホルダーだ。まァ、可愛いんだけどさァ…。って、なんかデジャヴ。


「ジミィィィィィィイ!ジミ!マジジミ!地味すぎる!流石ジミーズゥゥゥゥ!」
「新八ィィィ!お前だって十分ありきたりだろーがァァァァ!」
「そんなことねーよ!っつーかプレゼント渡すのにちょっとひねったもん上げようとかそういう考えが間違ってんだよ!」
「あぁ…あの、喧嘩しないで…」
「ジミの何が悪いんじゃァァァァァァァァァア!」
「あああああ…」
、俺たちからはコレだ、受け取ってくれ」


…なんか、コレまでの流れ一切無視してるんですけど。ちなみにヅラとエリーからだ。………なんか、裸のままのカセットテープ渡されたんですけど。


「…これ、なぁに?」
「カセットテープを知らんのか!なんと時代遅れな!」
「いや、カセットは知ってるけど…コレ、中身なんなの?」
「カツラップだ」
「……はい?」
「コレを聞けばお前も今日から攘夷志士の仲間入りだ!あ、」


「……攘夷志士だァ?」


攘夷志士、の一言を聞き逃さなかった十四郎が、こわーい顔してこちらを振り向いた。…ってか、ヅラってやっぱバカだよね、バカ、だよね。


「…てめぇ、やっぱ桂か!」
「チッ、ばれてしまっては仕方がない」
「桂ァ!!!」


ドカーン!!


ヅラが持っていた閃光弾が炸裂!あたりが一瞬光に包まれたすきに、ヅラとエリーはその場から逃げ出した。真選組の三人はそれを追いかけて…って、パーティめちゃくちゃなんだけど…!まァ、見てて楽しいからいいんだけど…。


それより、私まだ銀さんからなんにももらってないんだけどなァ…。そう思ってちらりと銀さんを見やると、どうしてか、ふらりと道場から出て行ってしまった。みんなは真選組の三人とかヅラに対してキレまくっているのであまり気づいてない様子。…私は銀さんを追いかけて道場を出た。トイレにでも行くのかとも思ったけど、とてもそんな感じには見えなかったから。


「…銀さん?」


心なしかしょんぼりしている背中に声をかけると、驚いたように振り返る。あら、珍しい。私なんていつも驚かされてばっかりなのに。


「どうしたの?トイレ?」
「いや…その」
「私まだ銀さんからもらってないから。トイレなら渡してからいってね」
「…いや、……あの」
「? 何?」
「……プレゼント、ねェ」
「え!」


妙ちゃんがあんな恐い顔で、プレゼント買っとけよっていってたのに!プレゼントかってもらえなかったショックより、銀さんの勇気に感心する。


「実はよォ…おとといコレで負けちまってよォ…」


そういって座り込んだ銀さんは、手首をくい、くい、っと……あァ、じゃらじゃらね、じゃらじゃら。呆れながらも、隣に座る。


「…ダメな大人」
「あー、まァ、まるっきし何にもねェワケじゃねんだけど…」
「え、そうなの?」
「…でも、すっげーしょぼいぞ」
「いまさら気にしないって」
「何その、普段からしょぼいですみたいな言い方」
「そうじゃないの?」
「オイィ!銀さん普段だったらちゃんとしてるんだよ!?プレゼントだってスッゲーこったもんあげるんだよ!?」
「ヘェー、ま、全然期待してなかったから」
「ヒデェ!」
「いいから、ちょーだいよー」
「え…だから、しょぼいんだって」
「いいってば。プレゼントって気持ちの問題でしょ?」
「……文句言うなよ?」
「いわないよ」


まァ総悟みたいなカンジだったら多分いうけど…。でも銀さんの落胆ぶり見てたらそんな小細工するお金もなかったんだろうな。


「ホレ」


といってこぶしを見せられたので、おとなしく手のひらを差し出した。そうすると手のひらに置かれた、ひんやりと冷たいもの。


「…ピアス」
「お前確か穴開いてたよな?」
「開いてるよ。悪い子だったから。ってか、このピアスってさ、パチンコ屋近くの雑貨屋さんに売ってた奴じゃない?」
「…まァ」


この間、牛乳と油の特売があって荷物が重いから、パチンコやってる銀さんに荷物持ちできてもらおうと思って、その雑貨屋さんで銀さんを待っていたことがあった。そのとき、それはもう可愛くて可愛くて仕方ないピアスがあったんだけど、いつものごとく生活費カツカツでまさか買えるわけがなく、今月から生活費切り詰めよう、と思っていた矢先、銀さんがやってきて…


「あん時、スッゲーほしそうな顔してたから…」
「よ、よく見てるね…」
「っつーか、あの後のお前の視線がすげー恐かったから」
「あれ、私もしかして睨んでた?ゴメンそれ無意識」
「無意識であの視線はこえーよ!極道も逃げ出すって!」
「そんなことないし。…ってか、あれ結構高かった気がするんですけど…?」
「あそこの店長と顔なじみでさ、まけてもらったんだ。っつーかプレゼントだって言ったら急にお代は半分でいいとかいってニヤニヤしやがって…」
「そう、なんだ…」


なんか、普通に嬉しいんですけど。全然しょぼくないんですけど。


「ありがと…」
「おー。え、ってか何!ちゃん何!どーした!何で涙目?」
「…うん、私、幸せものだなァって思って」


プレゼントなんかに、こんなに頭悩ませてもらって。私なんかのために、たくさんの人が気を使ってくれて。


「…あのね、私、…一度もプレゼントもらったことなかったし、パーティだって…一度もしてもらったことなかったんだ」
「なんで?仏教だったとか?」
「そうじゃなくて…うちは、親と仲悪かったから」
「友達は?」
「いなかったわけじゃない…と思うんだけどね。うわべだけっていうか…」
「…」
「だから、一度もそういうのなかったんだ。だから…すごい嬉しい」


この関係は本物なんだなって、思えるから。


「…その、なんだ…向こうの世界のことはよく知らねーけどさ。今は、万事屋の仲間だろ?」
「…うん」
「だから、こんな当たり前のことで泣くなよ。涙もったいねーだろ」
「はは、もったいない、かな?」
「もったいねーよ。女の涙は武器って言うだろ?いざって時のためにとっとけ」
「それって男が言うのおかしいよね」
「それもそーだな…。まァ、銀さん的には泣かれると逆に燃えるっつーか」
「ドS。気持ち悪っ、近寄らないでっ」
「え、いや、冗談だったんだけど…」
「キモイよー!犯されるー!」
「ちょォォォォオ!ちょーまって!何にもしないよ!?俺なんにもしないってねーちゃん!」
「何やってんじゃこのド変態がァァァァァア!!!」


私の声を聞きつけて道場のほうから妙ちゃんが走ってきて、強力なとび蹴りがクリーンヒット!あれま。コレは予想外だったわ。ゴメンネ銀さん。


その後はなんかもうグダグダで、真選組が戻ってきたと思ったら神楽ちゃんvs総悟のよくわかんないじゃんけんバトルが始まるし、妙ちゃんと近藤さんのいつものやり取りが始まるし、銀さんと十四郎の糖分vsマヨネーズの戦いが始まるし、ジミーズは意気投合してるし…。片付けは残ったメンバーでやる、とかいうことになった。ってか主役が片付けってどうなの?とちょっと思ったけど、みんなわたしのためにいろいろしてくれたんだから、片付けぐらい手伝わないとね、と思い返して、ゴミ投げとかせかせかがんばった。


みんなにもらったプレゼントは、一生の宝物にしよう。


Scene.5


その日、万事屋に帰って来たのは深夜2時過ぎで、銀さんは酔っ払ってべろべろだし、神楽ちゃんは向こうで寝ちゃってるからおんぶしなきゃいけないしでそれはもう大変で、神楽ちゃんを布団に寝かせて和室に入ってやっと座った瞬間にだるさがドッと肩にのしかかってきて、それはもうババくさくあーつかれた、なんていってしまった。イヤ疲れるでしょ、女の子とは言え人間一人担いで、しかも酔っ払い誘導しながら帰ってきたら。ってことで、さっさと布団を引いてさっさと寝ようと思った…けど、なんとなくさっきもらったピアスをつけてみたくて、眠気をこらえて鏡の前に座った。


それにしても、銀さんは見てないようでよく見てるなァ。私だったら絶対気づかないことにもちゃんと気づいてるんだから。それだけ他人のことを気にしていて、疲れてしまうときってないんだろうか、なんてちょっと失礼なことを考えたりして。


ピアスをつけた鏡の中の自分は、…まァ、パジャマ姿だし、すっごくにあってる、とはいえないような気がする。ケド自分がコレをつけてるってだけで嬉しくなれるものだ。それにアクセサリーっていうのはコーディネートによって全然印象が変わるものだし。


そーだ、銀さんに見せておこっかな。そう思って立ち上がる。リビングはもう電気が消えているけど、テレビがついているらしく障子が青白く照らされている。多分歯でも磨いているんだろう。そう思って戸を開ける。


「銀さーん」
「ん?」
「あっ…ごめん」


あけてびっくり。銀さんは着替え中だったらしく上半身裸で…って、実はあんまりびっくりしてないんだけどね。


「あ、ごめんって…もっときゃーとかないわけ?」
「だって上でしょ?そりゃあ下だったらきゃーの一声も上げたかもしれないけど」
「かわいくねーなァ」
「…何その言い草。もらったピアスを見せに行くとか可愛いことしてるってーのに」
「あ? …あー、ホントだ、似合うじゃん」
「軽いなァ…もっと感動してよ」
「そーいわれてもなァ…お前パジャマだし。っつーか女のコーディネートにはあんま口はさまねーことにしてんの」
「何それ教訓?」
「だって口出したらうるせーじゃん。自分からどう?って聞くわりには、こっちのほうがいいっつーと、でも私はこっちの方がいいの!とかいってさァ」
「……まァ、否定はしないけど」


でもなんか、もうちょっと気持ち込めてくれたって…。とは悔しいからいわないで、台所に向かう。コップに半分水を注いで、イッキに飲み干した。


「…でもよ」
「っ、わ!」


いきなり後ろから声が聞こえたから、びっくりして振り返る。ってか、コップ落すとこだったじゃない!この天パが!しかもいつの間にか銀さんの腕でシンクとの間に閉じ込められている。


「やっぱこーいうのしてるとサ、首がきれーに見えるよな」
「えっ」
「なーんか、噛み付きたくなるっつーか」


そういって、右手で私の髪の毛を少しかきあげる。その瞬間、ぞくりとした感覚が走る。


「ね、食べていー?」
「ド変態…!」
「正常な男の反応だと思うけどな」


耳元で低くささやく。首筋に温かい舌が這う。いつの間にか両腕が腰に回されて、身動きが取れない。ってか、なにこの状況!


「ちょ、ちょっと!」
「何」
「何、じゃねーよ!何すんの!」
「何って…まァ、夜の営みっつーか」
「アンタはバカか!私許した覚えないっつーの」
「えー、ちゃんだって気持ちよさそーにしてたじゃーん」
「……銀さん、酔ってる?」
「酔ってねーよ?」
「いや、酔ってるよね。普段こんなこと…あ、ごめんしてるけど、してるけど、やっぱなんか変だもん」
「変じゃねーよ。ってことで続きー」
「ちょ、バカ!やめてってば!」
「…なんだよ連れねーな。銀さん泣いちゃうぞ」
「勝手に泣けよ。ってか離して!」
「…仕方ねーな。じゃ、今はコレで我慢してやるよ」


そういって、銀さんは私にキスを…って、キス!?


「ぎ、銀さん!」
「んー、もう一回」
「ちょ、やめっ…んっ…!」


唇を割って、ざらついた舌が入ってくる。その舌が、内壁を、歯を、舌を、ゆっくりと侵していくのが分かる。酔っ払ってる所為か、荒い息遣いがすぐそばで聞こえる。体温がぐんと上がるのが分かる。腰に回された腕に力がこもって、体が密着する。苦しい、けどそれ以上に心地よさを感じる自分が居て、どんどん深まる動きにいつの間にか身を任せた。


ようやく離れたときには、すっかり息が上がっていた。


「っ、はっ、も…!」
「んー、ごちそーさん」
「な、にが!ごちそ、さんよ!」
「息あがってんなー。初々しいねー」
「だって、あんないきなりっ!」
「ノリノリだったくせにー。ま、今日はコレで勘弁してやるから、おこちゃまは早く寝なさい」
「…分かった、さよなら。もう銀さんなんて知らない。一生口利かないから」
「え、ちょ、それはちょっと困るんだけど!落ち込むんだけど!」
「知らない!じゃ、おやすみ!」
「あ、ちょ…!」


銀さんを突っぱねてさっさと和室に戻る。ってか何!?酔った勢いで襲うとか最低なんだけど!それをあっさり受け入れてる私も最低なんだけど…。でも、襲うほうが悪いでしょ!?男の人の力に抵抗なんて、出来るわけないじゃん!まぁしなかったけど…あ、なんか考えれば考えるほど自爆してく気がする…もういいや、寝よう。


鏡の前に座って、ピアスをはずす。ああ、もう、いらいらする!


「あのー、ちゃーん」


戸が静かにあけられて、隙間から銀さんが顔を出す。でも知らない。シカトシカト。


「あの、ホントごめん、銀さんちょっと調子乗ってて。その、なんつーの、きもちよーく酔っててさ、だからその、ホントゴメン」
「…」
ちゃーん、ホント機嫌直して。反省してますから!」
「…」
「マジ銀さん泣いちゃうから。ね、ちゃん」
「知らない」
「うわああああ、マジゴメンって!ホン… ?」
「は?」


急に真剣な声になるから、何かと思って思わず振り返る。そうしたら、やっぱり真剣な顔でいきなり入ってきて、隣にしゃがみこんで、私の腕をぐっとつかむ。


「ちょ、痛いんだけど」
、お前今…」
「は…何?」
「…………いや、なんでもねー」


そういって私を離した銀さん。軽く目頭を押さえたあと、早く寝ろよ、といって頭をぽんと叩いてくる。…いや、早く寝るけど、今のはなんなの?


「…あの、銀さん……」
「じゃーおやすみー」


お前今なんだったのか聞こうとしたけど、その前に銀さんは出て行ってしまった。…なんか、消化不良なんですけど。そんな変な顔してた?へんなこといったかな。ってか、銀さんがなんか青い顔してた気がしたんだけど、気のせいだろうか。


「……変なの」


思わずつぶやいたけど、当然返事は返ってこなかった。私は仕方なく、ざわざわした気持ちのまま布団に入った。その後は、何分もしないうちに眠気が襲ってきたけれど、あの言葉は最後まで頭に引っかかっていた。


2008.06.07 saturday From aki mikami.