Episode 18

思い込みの激しい奴が一番幸せ

Scene.1






昔々あるところに…じゃない、普通にあるところに、さっちゃんと言うカワイイくの一がいました。さっちゃんには銀さんという、とってもカッコいい彼氏がいました。


「獲物は?」
「大江戸病院医師黒田平八郎。最近江戸で急成長している病院だがね。臓器売買に手をつけているようだ。イキのいい患者を見つけては腹をかっさばいて臓器を取り出している外道よ」
「―――外道。本当の外道は人を殺めて金を得る私達のことだわ」
「ちげーねーや。民を苦しめる悪党を討つとうたったところで俺達のやっていることはしょせん人殺し。俺達も奴等と同類だ、ロクな死に方はできまいよ。 …弱き民を救うため、また外道になってくれるか?」
「外道にしか絶てぬ外道というものもある。私が汚れて誰かが救われるというなら喜んでこの手、血に染めましょう」
「うむ、頼んだぞ。…ところでお前さんに一つ聞きたいことがあるんだが、さっちゃんお前さん最近…いい人でもできたか?」
「!! なっ…何を」
「いや どうにも最近お前さんから女の匂いがしてならねーんでな」
「勘違いよそんな人いないわセクハラ?」
「まァ、それならいいんだが、心あたりがあるなら気をつけるこった。俺も長年おめーらみてーな連中とつき合ってきたがね、どいつもこいつも女ができた所帯をもったという連中から死んでいく。人間に情なんて持ってる奴がやっていける程この商売甘かねェんだ。お前さんも一時の情にほだされて足すくわれねーように気をつけるこった」

Scene.2


ある日さっちゃんは、携帯で彼氏の写真を見ながら検診用具を運んでいました。あ、でも仕事ってナースじゃないのよ、ナースってのも燃えるけど、さっちゃんは始末屋なのです。


【…銀サン、私は大丈夫よね。だって私のこの感情は一時のものなんかじゃないもの。だって最近は四六時中銀さんのことばかり考えて仕事も手につかないし、一時のものなんかじゃないわ。大丈夫よコレは…アレ?大丈夫なのか コレ。いや大丈夫よ。大切なのは切り替えよ。仕事をやる時は死ぬ気で仕事を、恋をする時は死ぬ気で恋を。そういう姿勢が生活を豊かにするのよ】


「オイぃ 新入り 病院では携帯の電源切っとくのが常識だろーが!バカかてめーは!てめーの電源切 ってやろうか!!」
「すいませんナース長」


このババアが、てめーの電源切ってやるぞコラ…じゃなくって、怒られちゃった、てへっ!ってことでさっちゃんは「メス豚さっちゃんモード」をOFFにして、「殺し屋さっちゃんモード」をONにしました。ですが、病室に入るとそこに…


「坂田さ~ん、アンタ一体何回入院すれば気がすむの~、ええ?記憶喪失に食中毒… 今度は一体何?」
「バイクが爆発して地上30メートルから川に落下しました」
「バカは死んでも治らんと言うけれど、アンタはまた死ねないね~」
「先生、医者の仕事は患者を心身共にケアすることじゃないんスカ?心も体もボロボロです」
「人間はバランスが大事だから。身体がボロボロの時は心もボロボロの方がいいんだよ」


メス豚モードON!


「銀さァァァん!!」
「ぎゃああああああ 足踏んでる足踏んでる足踏んでるぅぅぅ!!」
「銀さん、どうしてこんな…ひどい!一体何があったの 大丈夫なの!!先生ェ大丈夫ですよね!コレ銀さん大丈夫なんですよね!?治りますよね!? 頭」
「頭のことかいィィィ!!」
「これはね、ドリフ爆発ヘアーといって、2~3コマたてば何もなかったように元に戻るから安心しなさい」
「いやです、1コマ後にスグ治して下さい!!」
「どうでもいいから仕事しろ新入りィィ!!オメーの担当はこっち!ハーイ お薬の時間ですよー。ホラッ、早く猿飛さん薬ぬってあげて」


そういってナース長が開けたカーテンの先にいたのは…


「あっすいません、お願いします。もう昨日から痛くて痛くて仕方ないんですよ。痔」


ZE☆N☆ZO☆U


殺し屋モードON!


悪い虫はさっちゃんに始末されました!


そしてさっちゃんと彼氏の銀さんはラブラブな時間を過ごします。


「で、なんでお前がこんな所にいんだ?どーいうことだコレは」
「私の事が知りたいの坊や?だったら焦っちゃダメ。女を知りたいんならじっくり、そして優しく一枚一枚…」
「あー、じゃあもういいわ」
「いや、あの、もうちょっと続きあんだけど」
「いやもういいってメンドくせーから」


銀さんは素直じゃないのですぐこういうことを言ってしまうのです。ところでさっちゃんは仕事と銀さんの狭間でぐらぐら揺らいでいました。


【何やってるのかしら私。気持ちの切り替えが大事とか言っておきながら銀さんを前にしたらただのメス豚になってしまう。こんな事をしてる暇はないはずよ。早く殺し屋モードに切り替えるのよ!考えたらこんな男のどこがいいのよ。私はガンガン攻めてくるSな男が好きなの。こんな弱った銀さんなんて… 弱っ… そういえば男は弱ってる時に優しくされるとコロッといくって脇さんが前に言ってたわ。あとタ〇チの南ちゃんにも弱いって言ってた】


メス豚モードON!


「も~ぎっちゃんたらァ、いっつもそんな無愛想なんだからァ」
「あ?」
「そんなんじゃさっちゃん、別の人の所にいっちゃうゾv」
「どこにでもいけよ。あ、ついでに売店でジャンプ買ってきて」
「モスクワにいっちゃうゾ。南ちゃんなのに北にいっちゃうゾ」
「モスクワジャンプ売ってねーだろ」
「実はァ、病院のご飯はおいしくないと思って南…じゃねーやさっちゃん手料理をつくってきたのでした~。食べたい?どうしよっかな~あげよっかな~」
「なんかわかんないけどブッ飛ばしたいんだけどコイツ」
「じゃーん、なんとオデンなのでした~」


さっちゃんこう見えても家庭的なんだゾ。じゃねぇや、さっちゃんはこうみえても実は家庭的でした。そしてさっちゃんは銀さんにふーふーあーんをしてあげるのです。


「あづァづァづァづァづァ!!なんでよりによって動けねーときにアツアツのオデン!?それもガンモ!?」
「家庭的な味にうえてると思ったんだゾv」
「ゾの使い方おかしくなってきてんぞ!」
「他の患者さんには内緒だゾv」
「あ~あ、見~ちゃった、ナース長に言っちゃおっかな~」


ZE☆N☆ZO☆U


うるさい虫はア〇ルにアツアツのちくわをぶっこまれるんだゾv


と言うわけでさっちゃんは再び彼氏とラブラブな時間を過ごすのです。


「それじゃぎっちゃん、ちょっと横になってくれる?包帯を新しいのに代えるんだゾ」
「いや、いいって。さっきナース長にやってもらったから」
「照れなくてもいいんだゾv」
「いいっつってんだろいだだだだ!!」
「ああ、もォ~ぎっちゃん動かないでゾ」


彼氏の銀さんはカーテンの裏側でそーんなことやこーんなことやあーんなことをさっちゃんに施し…


「もォ~。ぎっちゃんが動くからこんなになっちまったゾv」


縛られてしまいました!きゃあーん!!


「どう動いたらそういう事になんだ!!っていうか自分で縛ったのそれスゴクね!?」
「さっちゃんはぎっちゃんのそーいう何者にも縛られないところけっこう好きだゾ。でもやっぱりケガが心配だから…ちゃんと縛るんだゾ!!」
「いだだだだだだ!!何しやがるんだァァァァ ナース長ォォ助けてくれェェェ!!」
「う゛う゛ 待ってろ今スグナース長を…」


ZE☆N☆ZO☆U


クソうるせー虫はア〇ルにろうそくぶっさされるんだゾv


「それじゃあ私ちょっと売店いってくるけど、なんだっけ、サンデー買ってくればいいのよね。じゃ、待ってて」


そしてさっちゃんは愛する彼氏のためにサンデーを買いに行くのでした。でもその前に検診用具置きに行かなきゃ…めんどくせ。じゃないやめんどくさかったんだゾv


【ああ、楽しい。もうなんか仕事のことなんかどうでもよくなってきたわ。やっぱり女は仕事より愛に生きるべきなのよ。始末屋なんて血なまぐさい仕事は引退して、ホントにナースになろうかしら。銀さんだけのナースだけど】


そんなさっちゃんの耳に、愚民ども…じゃない、ナースたちの噂話が聞こえてきました。さっちゃんはそれを盗み聞きすることにしました。


「ちょっときいた?黒田先生が アレ本当なの?臓器売買に手を出してるって噂…」
「院長は気付いてないの?」
「院長も黒田先生には頭が上がらないらしいわ。なんか弱味握られてるらしくて」
「そんなこと言ったってとんでもない犯罪よ」
「で、アレ、こないだから入院してるうるさい人達いるじゃない」
「あー、坂田サンと服部サン!」
「次はどうもアイツらが目をつけられているらしいわよ」
「あーそりゃ静かになっていいんじゃない?」
「ちょっとアンタァ!」


そんなっ、銀さんが…!!


さっちゃんは愛する彼氏のために走り出しました。


【私のせいだわ。私が仕事をなまけて】


   一時の情にほだされて足元すくわれねーように気をつけるこった


【何やってるの私…愛だの恋だのくだらないことばかり言って】


   『せっかく入院したんで全身検査させてもらったんだけどね。
    君達の身体の中はもうボロボロなわけ』


【なんにも護ることが出来ないの】


   『まず坂田サン。あなた日頃から糖尿の気があるよね。
    なのに以前と変わらず甘いものをとり続けている』
   『あー、もう俺そのへん割り切ってるんで。好きなモン食って太く短く生きるって』
   『コレ見て下さい」
   『あーもういいっスって。ビビんないっスよ。俺そういうの言われ慣れてるからビビんないよ』
   『このままいったら糖と尿が超反応を起こして睾丸が爆発します』


【一番大切なものも 護れないっていうの】


   『で、服部さんね。アナタ今日痔を本格的に治しにきたみたいだけど』
   『ハイ。恥ずかしいけど頑張ろうと思います』
   『ああ、それなんだけどね。このままいったらなんか…爆発します』


【全蔵は どうでもいい】


さっちゃんは走り続けます。愛する彼氏のために。ですが…


「ああ!」


ドシャァァァァア


なんとさっちゃんは階段から転げ落ちてしまいました。その衝撃でメガネを落としてしまいます。


【これじゃあ私、まるで本当になんにもできないただの…メス豚じゃない。こんなのただのメス豚…じゃない…メス豚なんかじゃ… 私は… メス豚なんかじゃない。 私は…  私は!!】


殺し屋モードON!


Scene.3


「ククク、バカどもめ。あんな説明にだまされるとはホントッ、バカ。」


銀さんは手術室に寝かされていました。黒田医師が怪しく笑います。


「あの調子じゃ脳は使いものにならんな。アッハッハッ。しかしその他は実に素晴らしい。これ程丈夫な身体はそう見ない。君達の頭には勿体ないよその身体は。だからもっと有効に活用してくれる人に譲るのが世の中のためってもんだ。君達の死は無駄にはならん。よかったじゃないか役に立ててクックックッ。それではそろそろ始めようか。用意はできたか?」
「はい」
「メス」
「ハイ」


ドスン


「ぎゃああああああ!ちょっ何してんのォォ!?」
「先生ェェェ!君ィィィ!一体何をしてるんだァ!?」
「スイマセン。眼鏡落としちゃって」


そう言いながら、美人ナースは手術用帽子を颯爽と脱ぎ捨てました。


「もうメスだかオスだかドスだか わからなくなっちゃって」


それはなんと!美少女戦…じゃない、美人始末屋のさっちゃんだったのです!


「ぬっ!!誰だ貴様ァ!!何者だァ!?」
「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」
「なっ、なんだコレ!?」
「沙羅双樹の花の色」
「包帯!?」


「鬼畜外道必殺の理をあらはす。 お大事に 始末屋さっちゃん見参!!」


ドゴシャ


さっちゃんの華麗なる攻撃で、敵は一掃されました。そしてさっちゃんは愛する彼の姿を探します。


「銀さん!!銀さん!銀さん!!どこなの!無事なの!?」


必死に彼の名を呼ぶさっちゃん。するとそれに答えるように、シーツに埋もれた彼の姿。眼鏡がなくても心は通じているのです。


「よかった無事なの!!眼鏡がなくてなんにも見えないけど無事なのよね!?」


弱った彼に優しく手を添えるさっちゃん。


「よかった。ごめんなさい…私…全部私のせいなの。私のせいでこんな目にあわせちゃって。…ごめんなさい私…男に懸想なんてしてる奴が仕事なんてできるワケないっていわれて。でもやっぱり銀さんのこと忘れられなくて、こんな…。でも私想うの。護るものもなにもない人より誰か大切な人がいる方がそれを護るために力を発揮できるんじゃないかって。だから私今までと変わらずこれからもずっと銀さんのこと…」


感極まって、さっちゃんは銀さんに抱きつきました。これからも銀さんを愛し続ける、そうかたく心に誓いました。ちゃんちゃん。


ちゃんちゃん、じゃねェェェ!えー鬱陶しい始末屋のさっちゃんが抱きついたのは、実はかわいそうなストーカー被害者銀さんではありませんでした。(語り:銀さん)


「アレ」


それは実は、この事件のもう一人の被害者、忍者の服部全蔵だったのです。そしてストーカーさっちゃんが抱きついたところは全蔵のケツだったのです。(語り:銀ry)


ブッ


ZE☆N☆ZO☆U


殺し屋モードON!


「ぎゃああああ!!」


Scene.4


「…ってことがあったのよ!そりゃあ最後はちょっとあれだったけど…でも、私の銀さんへの愛は貴方なんかに負けないの!」
「そう…よかったねさっちゃん」
「軽々しくさっちゃんなんて呼ばないでくれる?」
「はいはい。それよりお仕事じゃなかったの?」
「ハァァァァァ!しまったァァァァァ!!」
「…はぁ」
「銀さん!仕事が終わったらゼッッッタイ!会いにくるわ!」
「もう二度とくんなこのメス豚が!」
「やだ…照れてるのね!わかってるわ…!さっちゃんそんな銀さんもす・き!」
「ウッセェェェェ!」
「あぁ…もっといじめてェん」
「さっちゃん、仕事…」
「うるさいわね!…じゃあね、銀さん!そこの女に襲われたらいつでも呼んでね!」


…………そう言って、さっちゃんは窓から飛び降りて仕事に向った。ああ…なんかもうホント、嵐って感じ。


「あー、やっと行ったぜ。ったくうるせーやつだな」
「愛されてんだからいいんじゃないの?」
「バッカ!ありゃストーカーだろ!キモチワリィんだよ毎回毎回!」
「銀さんってば贅沢ですね」
「ホントネ。女の気持ちを弄ぶなんて最低ヨ」
「…オメーら俺の言い分は一切聞かねェのな」
「日頃の行動のせいじゃない?」
「怪我人にダメだし?アレ、前が霞んで見えねーよ」
「疲れ目?目薬貸そうか」
「別の汁がこぼれ落ちそうだよ」
「汁なんて、銀ちゃん卑猥ネ。気持ち悪いアル」
「ちょ、ねえホントに泣くよ?つか泣いていい?」
「男の子は泣いちゃいけません!…っと、はいリンゴ」
「ウサギさ~ん、銀ちゃんを癒してくれんのはウサギさんだけだわ~」
「キモいっつーの」
「ヒドッ!もうみんな知らない!明日から給料あげないんだからっ!」
「一度ももらったことないけどね」


ってことで、魔破のり子さんなる人の手伝いをしていてどういう経緯か地上30メートルで爆発、スクーターごと川に転落するというなんとも間抜けな所業をやってのけ、入院したら↑のような経緯(語り部:さっちゃん)で更にボロボロになった銀さんのお見舞いに来た私たち。入院費ムダに増やしてんじゃないよこの天然パーマがァァァ!と言う文句は心の奥にしまいつつ、ウサギさんリンゴを皿に並べていく。切ったそばから食べられてくんだけどね。


「これに懲りてスクーター乗るのやめたら?何回も免停くらってんでしょ?」
「いや、それは認めるけど今回は俺の運転技術とか注意力とか一切関係ないよね?」
「銀さんってきっと疫病神なんだよ。よく物壊すしさァ」
「何ヒドいことさらりと言ってくれちゃってんのォォォ!ってかそれって免停と全然関係ないよねェェェ!?」
「じゃあ前世のおじいちゃんとかの思し召しだよ。キミは疫病神だからスクーターはやめなさい~って」
「だから関係ねーし意味分かんねーよ!っつーか誰の真似?」
「あき〇ろさんだよォ知らないのォ?」
「似てねェよ!」
「はい~ウサギさんはリンゴの国へと帰って行きました~めでたしめでたし~」
「ァァァァァ!俺の癒しー!」
「銀ちゃんばっか食べてずるいネ!私もウサギちゃん食べたいアル!」
「ダメですぅ~!ウサギちゃんは銀さんだけのものですぅ~!」
「大人気ないから。わけてあげたら?」
「無理ですぅ~。全部銀さんが食べますぅ~」
ー!銀ちゃんがいじめるヨー!」
「はいはい、帰ったら神楽ちゃんにも切ってあげるから」
「私今食べたいアル!お家まで我慢出来ないネ!」
「じゃあ今新しいの切ってあげるから」
「それ銀さんのお見舞いじゃないのー!」
「大人だろ?ちったァ我慢せェや」
「…ハイ」
「あーあ、調子に乗るからですよ銀さん」
「…なんだよ…やっぱ俺が悪くなんのかよ」
「拗ねない拗ねない。銀さんにももう一個切ってあげるから」
「マジか!、お前将来いいお嫁さんになれる予感!」
「リンゴ切るだけでお嫁さんなら全国の女の子みんなお嫁さんだわ」
「わからんよ?リンゴも切れない女の子もいるかもよ?」
「いるかもしれないけど割りと希少種だよね。それにリンゴなんてやれば誰でも切れるし」
「そうでしょうか…姉上にかかったらリンゴですらかわいそうな卵になる気が…っていうか今そう言う話してましたっけ?」
「いや、してなかった気がする」


万事屋はどうしても話がそれる傾向があるからなぁ…。まァそこが楽しいところでもあるけど。


「で?何の話だっけ?」
「だから!辻斬りの話ですよ!もう被害者が3人も出てるって言うじゃないですか!」
「夜遊びなんてすっから悪ィんだろ。よいこはお家で寝てなさいっと」
「まァ、究極言うとそうなんですけど…」
「新八はなんでも心配しすぎネ。将来ハゲ決定アル」
「なんで将来のこと決定されなきゃいけないんだよ!」
「まーまー。ハゲるかどうかは別としても、心配性は悪いことじゃないからさ。逆にどこぞの白髪で天然パーマでパチンコ好きでいつまでたっても中2の夏で苗字の上に"アホの"つけたらコメディアンになる人みたいに心配って言葉をまっっっったく知らないより全ッ然いいよ」
「それどこぞじゃないよね?俺しかいないよね?」
「まァ、とにかくあまり一人で出歩かないようにしようよ。買い物も日が高いうちに行く」
「アレ、シカト?オーイ」
「じゃ、帰ろっかァ~」
「えェェェェェェ!」
「これから買い物してお家帰って依頼された内職やらなくちゃいけないの!銀さん一人いないだけでも大変なのに入院費まで…ホントダメな大人」
「なんか、身体より心がボロボロなんだけど」
「まァいい機会ですから自分の振る舞い反省してください」
「反省しろよ銀ちゃん」
「オメーもな」
「新八テメーずいぶんデケェ口たたくようになったじゃねーの!」
「ってか神楽ちゃんはいつもいつも…」
「ちょ、ここ病院だから!ホラ、帰るよ!じゃあね銀さん」
「あああああ、ちょっとォ~!」
「バイバ~イ」


新八くんと神楽ちゃんを押しながら病室を出る。役にたたない銀さんなんか知らないもんね~。…なんてのは実は嘘で。


私は神楽ちゃんと新八くんに先に出口に行っててと告げて病室に戻った。まったく銀さんは世話が焼けるんだから。


(隣りのベッドの)カーテンの影からのぞくと、銀さんはなんだよぅ、とかいいながら本気で落ち込んでいるらしい。普段はSっ気満載なのに、身体が弱ると心も一緒に弱るものなんだろうか?


「…なぁ~に落ち込んでんの」
「っ!わ…なんだ、かよ」
「なんだってなによ、せっかくいいもの届けにきたってのに」
「え、いいものってなに?もしかしてエロほ…
「ちげーよ」


ったく、すぐそういうことをいう。っつーか女にそういう気使われてうれしいか?お互い気まずいだけじゃね?


「はい、これ今週のジャンプね。あと今日の新聞と、ギン肉マンの総集編があったから」
「え、マジ!俺のために買ってきてくれたわけ!?」
「これだけあれば落ち着いてベッドの上で一日過ごせるでしょ。あんまり動き回ってまた入院費増やしたらマジでぶん殴るからね?」
「なんか、ありがたみ半減なんだけど」
「そんなこというんならあげないよ?」
「いやほしいっす!っつーかくださいお願いしますっ!」
「はいはい。じゃ、また明日来るから。洗濯物とかちゃんとまとめといてね?あと病院食がおいしくなくても糖分ばっかとってちゃダメだよ?」
「あーはいはい、わかりましたよー」
「じゃーねー」


最後に寂しくても泣くんじゃないぞ、と一言付け足してやると、泣かねーよ!と元気な返事が返ってきた。まァそうだろうけどね。ということで、今日の夕飯のメニューを考えながら、下で待っているはずの二人の元へ急ぐのでした。アレ、さっちゃん語りうつってね?


Scene.5


買い物を済ませて万事屋に帰ると、ちょうどお登勢さんがお店をあけたところだった。


「あ、お登勢さん!これから営業ですか?」
じゃないか。そーさ、最近は物騒だから早めにあけて早めに閉めようってね」
「あァ、辻斬りの話ですか」
「そうさ、まったくこっちはいい迷惑だよ」
「あはは、みんな夜は恐がって外に出たがらないもんなァ」
「笑えたもんじゃないよ。おかげでしばらくアンタに手伝ってもらう必要はなさそうだ」
「実は手伝いたくても手伝えないんですけどね。内職の依頼来てて」
「ホォ、あんたらがまじめに仕事してるとは珍しいじゃないか」
「率先して仕事をサボる堕落の元が居なくて、真面目派とだらだら派が二対一ですからね」
「なるほど。ようするにあんたと新八が小娘を無理やり従わせてるって図式かい」
「ええ。普段なら向こう側にもう一人手におえない大きな子供がいるんですけどね」
「…あのー、さん、話し長くなるんだったら僕ら先に中に入ってもいいですか?」
「え…ああ、ごめんごめん!いいよー。じゃ、これもって上がってて」


私は持っていた荷物を新八君に預けた。夕飯当番だけど、ちょっとくらいならいいよね。


「アンタすっかり母親みたいだねェ」
「ええ。おかげでもらった買い物カゴもちょっと傷ついちゃって。居候だから当然なのかもしれないですけどね」
「居候って、アンタもうすっかり奴らの仲間入りじゃないのさ。今アンタが居なくなったら奴ら多分死ぬね」
「そんなおおげさなァ」
「大げさなんかじゃないさ。っと…そういえば、今日アンタらの所に変なのが来てたよ」
「え?」
「赤紫の派手な着物に笠かぶってねェ。万事屋の方じっと睨んでやがったからなんか用かと思ったんだが、声かける前にすごい形相で睨んでどっか行っちまった。…ありゃあ普通の奴じゃないね。平気で何人も殺してきた顔さね」
「え…それって」


私がそういいかけたとき背後に気配を感じて思わず振り返る。まさか! 背筋がひやりとしたけど、後ろに居たのはもっとなじんだ顔だった。


「こんばんはー、また来ちゃったよ」
「あ、…ムーさん、こんばんは」
ちゃん恐い顔で振り向くからびっくりしちゃったよ。最近お店に居ないねェ」
「あはは、ちょっといろいろありまして、キビキビ働いてます」
「こんなところで立ち話もなんだ。入んな。、アンタも寄ってくかい?」
「あー、寄ってきたいけど、私今日夕飯当番なんで遠慮しときます」
「えらいねェちゃんは。働いてご飯も作って買い物もして。将来いいお嫁さんになれるよ」
「そ、そうですか?えへへ…」
「えへへ、じゃねーよ。気持ち悪いから早く帰りな。辻斬りにでも襲われちまうよ」
「そりゃー大変。じゃ、失礼しますね」
「はいよ」


ガラガラと戸を閉める。平静を装ったつもりだったけど、扉に添えられた手は小さく震えている。


私の身の回りで、赤紫の着物に笠をかぶった奴なんてひとりしかいない。そいつは出来るなら今は会いたくない奴ナンバーワンだ。…だって、今は銀さんがいない。私一人でアイツに抵抗なんて…


「おい」


その声にひやりとした。それは、今一番聞きたくないと、たった今そう願った人物の声。…私はゆっくりと、音を立てずに振り返った。


「―――……高杉」
「よォ。元気そうだな」


高杉晋助。
足が凍ったように動かなくなった。


「…オメー、こないだ誕生日だったらしいな」


ざり。
一歩、近づいてくる。あたりに人の気配はない。


「連れねェじゃねーか。俺に知らせねーとは」
「何でアンタに知らせなきゃいけないのよ。第一なんで知ってるわけ?」
「そんなことはオメーが知る必要はねェ。…それより、俺にも一つプレゼントさせろよ」
「なっ、 …っ!」


一瞬で間を詰められる。体を引き寄せられる。抵抗する間もなく口付けられて、強引に舌が挿しいれられる。
銀さんとは違う、強引で性急で冷たいキスに寒気が走って、私は伸ばされる舌に思い切り噛み付いた。


「ッ…! テメェ…!」
「はっ、あ、は…」
「オーイ、喧嘩ならよそで… オイ、どうしたんだい!」


お店からお登勢さんが出てきて、こちらに駆け寄ってきた。高杉は小さく舌打ちをして私たちを睨む。


「…もう二度と私たちに近寄らないで」
「ずいぶんじゃねーか。…くく、まァいい。そのうちそんなこと行ってられなくなるぜ」
「…は?何言って…」
「俺はお前の秘密を握ってる。…お前はいずれ俺のところに来ることになる」
「私の、秘密?」
「今のお前はそれが何かも分からないだろうけどな。…いつかそれがわかるときが来たら、お前は必ず俺の元にやってくる。そのときは…」


砂埃が舞った。高杉の擦るような足音が、やけに大きな音に聞こえる。煙管を取り出して火をつけ、一度すうと、ゆっくりと吐き出す。一つ一つの動きがやけにはっきり見えた。


「そのときは、お前は俺の所有物になる」
「!」
「それまでせいぜい銀時に守ってもらえ」


低く笑いながら、高杉は去っていく。出来るならその後姿を追いかけて思い切りひっぱたいてやりたかったけど、全身から力が抜けて、立ち上がることも出来なくて、ただ見送ることしか出来なかった。


「…オイオイ、アイツよく見りゃ高杉晋助じゃないか。アンタあんなのとかかわってたのかィ?大体あんたの秘密って…いったいなんだィ?」
「わかんない…今の私に秘密にしてることなんてないもん…でも、アイツが言ってることがウソとは思えない…」
「ホラ、立てるかィ?それにしても…銀時ともなんか因縁があるのかねェ」
「…銀、さん」


そうだ。頭が茫然として忘れていたけど、前にアイツは言ったんだ。


   女を連れ歩くんなら一人にするなってことだ


高杉は、私を手に入れたいからこんなことをしたんじゃない。"私が銀さんの女だと思ったから"こんなことをしてるんだ。…銀さんを、苦しめたいんだ。でも、それはどうして?二人の間に何があったの?…そんなこと、私が考えても分かるはずがない。高杉は、銀さんを恨んでるの?それとも、もっと別の理由が…?なんにせよ、その理由を直接聞くような権利は、今の私にはないような気がした。


「お登勢さん…このこと、銀さんには言わないで」
「あァ?なんでだい」
「今は心配かけたくないの。…いつか、私から話しておくから」
「それはいいけど…あんたまさか、"今は"じゃなくてずっと言わないつもりじゃないだろうね」
「……わかんない。でも、とにかく今はダメ。…お願いします」
「……」


お登勢さんは私を離して、少し空を仰いだ。懐からタバコを取り出して火をつける。ゆっくりと一度すって、それを小さく、細く吐き出す。


「…わかった。ケドね、アイツにもいろいろ背負わしてやんなよ」
「? …えと…はい」


いろいろ背負わしてやんなよ、という意味が良くわからなかったけど、取りあえず頷いた。お登勢さんは納得していないようだったけど、じゃあね、といってお店に戻っていった。


万事屋への階段を上がる。見下ろしたかぶき町の道に、当然高杉の姿はない。


けど私の頭には、ずっと高杉の言葉がまとわり付いていた。









オマケ
「…オイ、あの女の子、いい子だったなァ。顔が可愛いのがちょっとアレだが、気ィきくし」
「そーかァ?あんなんただの歩く凶器女だよ」
ちゃんだっけ…お前の彼女か」
「…ちげーよ」
「じゃ、俺狙っちゃおっかなー」
「ダメ!絶対ダメ!これから彼女になるんだもーん!」
「オメーらうるせェんだよいい加減にしろコラァァァァ!!」


2008.06.10.tuesday From aki mikami.