Episode 24

略してもあんま縮まってないなら意味がない

Scene.1






「メリクリー」
「…なにメリクリって」
「メリークリスマスだよォ、Bo○の歌にもあるでしょー」
「知らねーよ!っつーかなんで略すんだよ!ちゃんと言え!」
「いいじゃん別にー。口うるさいのは嫌われるんだよー」
「うるせーよ!そんな間違った日本語、お父さんは許しませんよ!」
「お父さんじゃないじゃんアンタ。っつーかメリクリ日本語じゃないし」
「黙らっしゃい!とにかくそんなチャラついた言葉使い許しません!言い直せ!」
「………メリークリスマス」
「はいおっけー」


そういうと、ポンポンと頭をたたかれる。なんだか子供扱いされてるようで腹が立ったので、お腹に思い切りストレートを食らわした。


「ぐふぉ! いってーなお前!血ィ吐いたらどーしてくれんだ!」
「知らねーよ。勝手に吐けば?」
「冷たッ!それが恋人に対する態度?」
「ええええええ、恋人ォォォォォォォ!?」


驚いた声をあげたのは近藤さんだ。…なんでかっていうと、私たちは今、真選組の屯所にお邪魔しているからだ。


「あ…はは…実はそうなんです…はい」
「よよよよ万事屋に恋人ォォォ!!」
「ヘェ…旦那、ようやく姐さんを仕留めたんですねィ」


そう言ったのは総悟だ。私の正面に座ってニヤニヤ笑っている。…このドSがァァァァァ!


「オゥ、長い道のりだったぜ。土方のヤローを忘れさせんのは…」
「ちょ、銀さんそういうこと…」
「オイ、俺のいねーところで俺の話をすんじゃねェ」


そう言って入って来たのはなんと、十四郎だ。…っつーか、こいつらそろって私に嫌がらせでもしてんのか?


私が今日ここに来たのは、買い物途中で迷子の子供を見つけて四苦八苦しているところで総悟に出会い、二人で母親を見つけてかえしてあげたら総悟がお茶でも飲んでいかないかって言ったからなのに。つまりまったくの偶然でこういう話をしにきたわけじゃなくて、それどころか銀さんなんてまったく呼んでないはずなのに。


総悟、コノヤロー!オマエ確信犯だろ!さっきトイレとか言ってたのは銀さんに電話しに行ってたんだろ!


、オメー…万事屋と付き合ってんのか?」
「え…あ、その ……………うん」
「へェ?万事屋ァ、オメーなんかがのこと、幸せに出来んのかねェ?」
「はィ?」
「あァ?んーだとコラァ。俺と付き合ったら毎日がハッピーに決まってんだろーが」
「いいやがったなコラァ。じゃあコイツ泣かせたら切腹しろよ」
「あァ?なんの権利があってテメーがんなこと命令してんだよ」
「うるせー。テメー今すぐコイツを泣かせねーって誓え!」
「言われなくてもこちとらとっくの前に誓ってんだよ!」
「ちょ、やめてよ二人とも!」


なんかわけわかんない言い争いを始めた二人に声を張り上げる。するとぐっと黙り込んだので、とりあえず場を整えようと、十四郎を総悟の隣りに座らせた。


「土方さん、みっともねェですぜ。今さらふった女を取り戻そうなんざ…」
「ちげーよ!俺ァただ…」
「あー、ヤダヤダ、男の嫉妬は醜いねェー」
「だからちげーって言ってんだろ!」
「わかってるって。…心配してくれてるんだよね?」
「………まァ」


そういうと、十四郎はそっぽを向いた。…照れてるのかな、この反応は。かわいいぞコノヤロー!


「心配ねェ…散々を泣かせた張本人が何言ってんだか」
「あァ?んだとコラァ」
「ちょ、もうやめてよ銀
「…………でもま、それもそーだな」


また言い合いになる!そう思って早々に割り込もうとしたけど、今回は言い合いにならなかった。…十四郎の、意外な肯定によって。あまりに意外すぎて、近藤さんですら十四郎を振り返っている。


「え…なに?認めちゃうわけ土方くん?別にいいけど気持ち悪いよ土方くん?」
「トシ…お前どうした?オメーが万事屋相手にそんな言葉をいうなんざ…」
「土方さん、ふざけんのは顔だけにしてくだせェ」
「そうだよ…なんかの冗談でしょ?」
「オメーら…そろって俺にいやがらせしよーって腹か?よーしわかった。そこに全員なおれ、たたっ斬ったらァ!」
「あーあ、これだから短気なヤツァいけねーや。冗談がまったく通じねェ」
「冗談じゃねーだろ今の100%本気だったろ!」


いやだって、マジでビックリしたんだよ…。十四郎と銀さんと言えばもう犬猿の仲って言うか、似てるからこそ喧嘩するんだけど、一生相容れない中で相手の言葉に肯定するなんて絶対無いと思っていたから。


「…別に万事屋に肯定したわけじゃねェ。ずっと前から思ってたことだ。俺にァ女の心配なんてする資格はねェ」
「……」


そういって、加えていた煙草を灰皿に押し付ける。それと同時に、その場に気まずい空気が下りてきた。…心なしか、十四郎だけじゃなくて総悟の機嫌が悪くなったような…。近藤さんも、なんか戸惑ってる風に見える。


「………あーあ、なんかつまんなくなってきた。…俺、トイレ行ってきまさァ」


そう言って立ち上がる総悟。…いや、つーか私を気まずさで押しつぶす気か。


「あー胸糞わりィ。俺も便所」
「え!銀さ…」
「ちょー待って総悟!万事屋!この空間に俺を置いてかないでくれるゥゥゥ!?」


「「…………」」


…結局、私と十四郎だけ残されてしまった…。


しんと静まった室内に、なんだか気まずい空気が流れた。


…だって、フラれた相手に新しい彼氏紹介するのっておかしいでしょ!?おかしいよね!?そんな気まずいこと普通しないでしょ!でも今まさにそんな状況で、しかもいきなり二人きりにされたんですけどォォォ!?っつーか恋人と昔の恋敵二人きりで残してトイレ行ったりするかァァァ!?ありえないんですけどォォォ!


「………お前」


重い沈黙をやぶったのは、十四郎だった。


「な、なに?」
「ホントに万事屋のことが好きなのか」
「え…えと… ………うん」
「そーか」


そう淡泊に答えると、懐から煙草を取り出して火をつける。…あれ、それだけ?私があっけにとられていると、吸った煙をゆっくり吐き出して、再び十四郎が口を開いた。


「オメー、趣味悪くなったな」
「あ…はは、そーかな…」
「そーだろ。…でもま、オメーが幸せなら、それでいいけどな」
「………うん」


そんなことを言われるとは思わなくて、ただうんと答えた。なんだか、発言がお父さんがお兄ちゃんみたいだ。
…それにしても、女の人を泣かせた経験が、やっぱりあるんだろうか。それに、さっきの総悟や近藤さんの反応も、ちょっと気になる。


「…あの」
「あ?」
「さっきの…って、どういう意味?」
「さっきのってどれだよ」
「俺にァ女の心配なんてする資格はねェ、ってやつ」
「…」


十四郎は黙って煙を一度吸い、ゆっくり吐き出すと、それを口にくわえたまま空を仰いだ。…やけに曇っていて、今にも雪が降り出しそうだ。


「…俺達真選組は」


そんな語り口で、十四郎は話し始めた。


「戦うための組織、…常に、死とは隣り合わせの生活だ。今日、明日、…十年後、いや、もっと先かもしれねェ。それでも、毎日死ぬ覚悟をしなきゃならねェ生活をしてる。…そんな俺が、女を幸せに出来ると思うか?」
「…」
「他の連中にそれを押し付けるつもりはねェ。だが…俺ァ俺と一緒にいることで惚れた女を不幸にはしたくねェ。…女をそばにおけねェなら、心配なんてこともする資格はねェだろ」
「……なんか、よくわかんない」
「だろーな。お前らとは無縁の話だろーし。…けど、なんでだろうな。オメーには話しといてもいいかと思ったんだ」
「………全く、理解できないわけじゃないよ。…でも、…納得は出来ない」


好きな人を不幸にしたくないから、突き放す。そういう考えもあるんだってことなんでしょ?だけど…


「…私は、たとえば銀さんが十四郎みたいに、いつ死んでしまうかわからない人でも…一番そばにおいてほしいと思う」
「…」
「だって、…銀さんが感じるうれしさも楽しさも、悲しみも怒りも全部、一番近くで感じたいから。…銀さんが死んでしまっても、その悲しみを、できるなら一番近いところで…悲しませてほしいから」


悲しくて、泣きたいのに…傍で泣けないなんて、辛いよ。毎日が死と隣り合わせでも、傍で支えさせてほしいと思う。…戦いをサポートとかは、私には無理だよ。だけど、きっと辛い気持ちをやわらげるくらいは、出来るから。


「…やっぱ、似てねェな」
「え?」
「あー、なんだ。そーいう恥ずかしいことは万事屋に直接言ってやれ」
「そ、そんな、いえるわけ…!」
「もう聞いちゃったもんねー」
「!!!」


ガラガラ、とふすまが開いたと思ったら、ニヤリと笑った銀さん。と、その後ろにニヤニヤ笑った総悟。と、ニヤニヤではないけど笑っている近藤さん。…んだよお前ら!トイレ言ったんじゃないのかよ!


「俺、ちゃんにそんな愛されてたんだなァー。ま、心配すんなよ。俺はホイホイ死んだりしねーからよ!」
「心配なんてしてません!アンタは殺しても死なないゴキブリでしょ!」
「いや、ゴキブリ死ぬし!っつーかまた恋人に向かってそーいうことをォォォ!」
「ことあるごとに恋人って言うのやめろや!恥ずかしいだろーが!」
「うるせー!アピールしてんだよ、悪い虫がつかねーように!」
「なっ…!」
「…うわー」


銀さんの発言に、総悟がニヤニヤしながらそういった。…つーか、言われたほうもものっそい恥ずかしいんですけど…!


「旦那ァ、言いますねィ」
「うるせー!ちょっと、今のはあれだ…流れ上言ってしまったというか!」
「いやー、バカップルですねィ」
「ちげーよ!つーか何、この流れ!俺がぞっこん的な流れ!違うからね!」
「違うの?」
「違う違うよ断じて違う! …あ」
「ふーん、違うんだー」
「や、ちょま、ちょまってちゃん!今のは言葉の綾!綾だから!」
「もうしーらない」
ちゃァァァァァァん!」
「……あーあ、やっぱ姐さんの方が一枚上手ですねィ」
「…そう?」
「そーですぜ。あー、あわててる旦那は見てておもしれーや」
「……総悟の言葉って感情こもってないよね」
「そうですかィ?なら… あっはっは!旦那、すっげェおもしれーや!あっはっは!」
「棒読みじゃねェかァァァ!!つーか笑うなこのドS王子がァァァ!!」


「……アホらし。俺ァ戻るぞ」
「あ、私もー」
「待て、俺も戻る」


ドSコンビのグダグダやり取りを横目に、さっさと部屋を立ち去る私達。…ま、ドS同士そのうち意気投合するでしょう。


そして、原田さん(だったかな?)に呼ばれて先に戻っていった近藤さんの変わりに、十四郎が門まで見送りに来てくれた。取りあえず二人でボーっとたたずんで、銀さんが来るのを待っている。


…聞いてみたい。


「…やっぱ、似てねェな」


誰に?と。でも、聞いていいことなんだろうか。…隣を盗み見ると、正面を見たまま煙を吸い込んでいる。…なんだか、聞いてはいけないことのような気もする。それに、ここで聞いたらタイミングおかしくない?


「…なんだよ」
「っ!!」


じっと見ていたら、十四郎が振り向かないままそういった。っつーか、ビックリしたァァ!


「言いたいことがあんならはっきり言え」
「あ…うん… えと…」


とは言ったものの、うまく言葉にまとめられなくて詰まっていると、十四郎がふぅ、とため息をついた。灰をとんとんと落として、遠くを見つめたまま口を開く。


「前にもいたんだよ、お前みたいな女が」
「…え?」
「泣きてェくせに我慢して…結局最後の最後まで笑ってた奴が。…でもま、オメーとは似ても似つかねーけどな」
「……好きだったの?その人のこと」
「…」
「今でも……好き?」
「……さァな」


そっけなくそういった瞳が、一瞬揺らめいた気がした。


…ああ、きっとまだ、その人を好きなんだ。目を見てそう直感する。思いを跳ねのけてしまったその人を、今でもまだ思ってるんだ。


「オイー!」


この空気をぶち壊すような気の抜けた声が聞こえて、振り返ると、銀さんがバイクに跨って不機嫌オーラを発している。普段は新八くんが使うメットを投げてよこして、早く来い、と叫んだ。


「はーい」


そう答えて、もう一度十四郎の方を見た。…その目は、もう揺らめいてはいなかった。


「オラ、いけよ」
「うん。…あの、十四郎」
「あ?」
「……なんか、ごめんね」
「何がだよ」
「なんでもない!…ありがとう」


頭を下げて、歩きだす。ケッ、と言ったのが聞こえたけど、私は振り返らなかった。


私を思って、受け入れなかったこと。
受け入れなくても、私を遠ざけたりしなかったこと。
それどころか、たくさん心配してくれていること。
…いろんなことを、教えてくれたこと。


…一つでもかけたら、…十四郎がいなかったら、今のこの幸せな時間はきっとなかったから。


バイクの後ろに跨って、銀さんの腰にしがみつく。屯所を通り過ぎる一瞬十四郎と目があって、出来るだけ思い切り、バイバイ、と声を張り上げた。そうしたら、声でけーよバカ!と返って来る。


「……へへ」
「あー?なに笑ってんだ、気持ちワリーよ!」
「いーじゃん別にー!」
「よくねーよ!人の後ろでほくそ笑んでんじゃねーよ!それとも何か!土方のヤローと話せたのがそんなうれしいか!?」
「…そりゃあ、うれしいよ!」


だって、十四郎はいつまでも、私の憧れなんだから。


ありがとう。


Scene.2


万事屋に帰る前に、夕飯とケーキの材料を買った。…まァ、あの、そのケーキというのがまた尋常じゃない量でね…普通のホールケーキ三つ分くらいの量でね。…しかもその一個の大きさも尋常じゃないんだよ?つーか、コレ一日でつくれって無理じゃね?って思うんだけど。しかもこれ、銀さん一人分だ、とか言い出して…アンタ糖尿になるぞいい加減にしねーと。


「ったく…早死するよ?」
「甘いもん食って死ぬなんて最高の死に方じゃねーか」
「……バカ」
「心配しなくてもちゃんを一人ぼっちにはしませんよ~」
「…キモ」
「いやでも実際マジで!死んでも化けて出てやるからさァ」
「いらないからちゃんと成仏して」
「ヒデーなァ」


そんなやり取りをしながら歩き出す。


まァ、ちゃんと計画してこれだけ買ったんだけどね。
まず神楽ちゃんでホール一個消費するでしょー、で、たぶん銀さんと新八くんと私で一個でしょー、で、後の一個は半分がお登勢さんとキャサリンにいって、残った分は妙ちゃんとこに持って行ってもらう。ホラ、コレでぴったり3つだ!


そんな感じで、大量の材料を持ったままバイクに乗れるはずもなく、銀さんに荷物を任せて私はバイクを押している…と言うのが今の状況である。


この時間なら、二人とも帰っているだろうから、ご飯作るの手伝ってもらおう。ちなみに今日は(豚)焼肉とフライドポテト、春雨サラダと、前に神楽ちゃんが食べたいって言ってたローストチキン(特大)だ。コレはさすがに作れないので既製品だけど、他はこれから作るのでちょっと手間である(特にフライドポテト!)。


クリスマス、なんてのもやっぱり始めてで、ちょっとだけ奮発(ケーキ分はちょっとじゃないけど…)してしまった。みんな、喜んでくれるといいんだけど…。


「にしてもおっもいなァー。こんだけ買ってほとんどが神楽の腹ん中かァ」
「ま、育ち盛りだから仕方ないよ。それより銀さん、明日昼から仕事なんだから飲み過ぎないでよね?」
「出来るだけ努力しまーす」
「………絶対明日二日酔いだな」
「オメー、悪いのは俺じゃねェよ?酒がうまいのがワリィの」
「なんだよその言い訳!」
「っつーか、今日はお前も付き合えよ?」
「そのために多めに買ったんでしょうが」


私だってお酒好きなんだから。…でも、二人で熱燗飲むのはいいけど、銀さんはお金がかかるんだってことをイマイチわかってない気がする。いや、わかってるのかもしれないけど、飲んで飲んで、なくなってからあーやっちゃったなーって後悔するんだから。


「……なァ


急にトーンが変わった気がして、驚いて振り返る。…正面を見据えていた目が、うす暗く澱んだ空を仰ぐと、あのさ、と口を開いた。


「ちょっと…寄り道してくか」
「え?」
「今日はクリスマスだぞ?せーっかくの恋人たちの時間!なのに帰っちまったらアイツらに邪魔されちまうだろーが」
「そうだけど…」
「………いやか?」


そう言って向けられた瞳。…だから、私その目に弱いんだってば。きっとこの人は確信犯だ。私が弱いことわかっててわざとやってるんだから。


「………いいよ」


そうとだけ答えると、銀さんはニッと軽快に笑った。


Scene.3


「うわっ…降って来たよォ」


公園のベンチに座って、空を見上げながら思わず呟いた。だって、ただでさえ寒いのにさァ…。


「オメーはよォ、『わァ、雪だあ!』とかかわいく言えねーのかよ」
「何それ。今さら私にかわいさ求める?」
「……ま、そーだな。お前にかわいさなんて期待出来ねーよな」
「自分で言ったことだけど言われるとムカつくわ」
「あァ?んだよお前、メンドクセーやつだなー」


そう言いながらも、銀さんの腕が肩に回って、引き寄せられる。アンタこそ、いちいち余計な一言メンドクセーよ、ホント。


「………で?」
「あ?」
「こんなところまで連れ出して、何の話さ」
「え?何のこと?」
「とぼけても無駄だっつーの。…銀さんがあの目をするときは、なんか特別な話があるときでしょ?」
「あの目ってなに」
「きらめいた目」
「きらめいてるなんてそんな、照れるじゃねーの」
「今はきらめいてないよ。死んでるよ」
「アレー」
「もういいからさ。…早く帰らないと、新八くんも神楽ちゃんもおなかすかせてるよ。定春も」


ちなみに定春にはいつもよりちょっと高めのドッグフードを一袋買った。…ホラ、そんななん袋も買ってられないからさ。バカにならないからね、ホント。


「何、銀さんといちゃいちゃしたくないわけ?」
「そういうわけじゃないけど…っつーか今現在進行形でいちゃいちゃしてるじゃん。っつーかそういうこと男が言うと気持ちワリィ!」
「なんでそういうこというかなー。銀さん傷ついちゃうよー」
「ハイハイ。…で、どーしたのサ」


そういうと、肩にまわされた腕に微かに力がこもった。…言いづらいことなんだろうか。それとも、何か考えているんだろうか。良くわからないけれど、あまり急かすのもよくないだろうと思って黙っていた。


「…雪ってよォ」


そんな風に話し始めた銀さん。私は、うん、とだけ答えて続きに耳を傾けた。


「色々思い出すんだよな。…あ、色々が何か、なんて野暮なことは聞くなよ?…でもま、なんか思い出してよォ」
「それはいい思い出?悪い思い出?…言いたくないなら悪いことか」
「…さー、どーだろーな。…けどなァ、まァ柄にもなくしんみりモードっつーか…」
「柄にもなくって…自分で言ってるよ」
「いやでもホント柄じゃねーだろ。…けどなァ。なんか思い出しちまってよォ」
「…で、ちょっとブルーなの?」
「ブルーってほどでもねーけどな」
「…でも、ちょっと思った」
「あ?」
「今日、なんか元気ないなって」


真選組屯所にいたとき。いつもなら何があっても十四郎に食って掛かる銀さんが、総悟と一緒にトイレに立ったから、おかしいな、とは思っていたんだけど、なるほど、そういうことで元気なかったのか。


「おー、コレってアレか?以心伝心ってやつ?銀さんって基本ポーカーフェイスなのに」
「……自分で言うか。っつーかアンタのはそんないいものじゃない」
「なにその言い草!」
「だって……銀さんのポーカーフェイスは、余計なときに出るんだもん」


苦しいとか、辛いとか、そういうことをひた隠しにする。私は少しでも銀さんを支えられたらって思うのに、銀さんはそれを全部隠してしまうから。


…そういうのは、ずるい。


「…私、もっと銀さんに頼ってほしい」
「……やっぱ俺たち、以心伝心だな」
「え?」
「俺もそーいう話をしたかったわけだよ」
「…そーなの?」
「そ。…おまえ言ってたろ、さっき。俺が感じるうれしさも楽しさも、悲しみも怒りも、一番近くで感じたい、って。…俺はお前の一番近くでお前を守る。だから、お前にも、俺の一番近くで俺を見ててほしい…と、思ったわけだ」
「…キザ」
「うるせーよ!俺だって恥ずかしいの!でもいっとかねーと伝わんねーだろ!」
「…まぁ」
「それに、そういうことですれ違ったりすんのはいやだろ。…ずっと一緒にいられるとはかぎらねーんだし」


その言葉に、心臓がどくんと跳ねた。


…ずっと一緒にいられるとはかぎらねーんだし


そうだ。…私はいつかいなくなるんだ。だって本来は、ここにいないはずなんだから。


「俺にもいえねーことがねーわけじゃねェよ。けどな、伝えとかねー方が後悔するってこともあるかもしれねーだろ。…だから、言えることは全部お前に言ってくからな。そりゃー文句も然り、説教も然りだぞ?」
「うわーいらねー」
「お前、銀さんからのありがてー言葉だぞ!人間怒られてるうちが花ってな」
「この年になって説教なんていらないわ」
「人間っつーのは死ぬまで勉強なんだよ」
「銀さんの言葉が勉強になるとは思えませんけどねー」
「んだとコラァッ」
「あっはは!ジョーダンだよジョーダン!」
「うそつけよ。 …ま、なんにせよ、覚悟しとけよな。今日からビシビシ言ってくからよォ。長年連れ添った夫婦並にビシビシ言うからな!」
「うーん、覚悟しとく」


そういうと、頭をべしべし叩かれる。なんだか最後はこんな良くわからない感じになるんだけど、銀さんは言ったことはちゃんと守ってくれる人だ。…多分。


…でも、ね。


説教とか、文句とか、そういうことを言ってくれるのは勿論いいよ。長年連れ添った夫婦波に言ってくれて全然いいけど…


私は、もっと銀さんの…内面に溜め込んだものですらも見抜けるようになりたい。銀さんが教えてくれたことだけじゃなくて、言わなくても、何かあったとか、わかるようになりたい。…誰の目にもわかるようなことじゃなくて、もっと些細な変化もつかめるようになりたい。…銀さんが、私にそうしてくれるように。


銀さん、私は誰よりも、銀さんを理解していたいよ。


銀さんは立ち上がると大きく伸びをして、よしいくかァ、と振り返った。うんと答えて立ち上がると、肩をつかまれて、ぐっと引き寄せられる。


そして、温かい唇が触れた。反対に冷たい雪が、頬をひんやりと染め上げる。


銀さんに近づきたくて、出来るだけの背伸びをして首に絡みついたら、倍以上の力で抱きしめられる。その腕の温かさが心地よくて、私達はしばらくの間、そうしていた。


Scene.4


万事屋に帰ると、怒った神楽ちゃんと呆れた新八くんにつらつらと文句を言われた。いちゃつくのもいいけどもっと早く帰って来い!って…ごもっともです。


で、結局夕飯は私と銀さんの二人で作ることに。まァ、サラダとフライドポテトとケーキだけだからね。ってことで、サラダとフライドポテトは銀さんに任せることにする。大丈夫、銀さん料理うまいから、それくらいちょちょいのちょい!…と思ったら、俺野菜いらねーからサラダ作んねー、だって。ガキかオメーはァァァ!と一喝して無理やり作らせたら、…コレがまた悔しいことに、私より上手に作るんだな。…ホント、ムカつく。


食卓に並んだいつもより豪華な料理。神楽ちゃんが目をキラキラさせている。ちなみに定春も、お皿の前で目をキラキラさせている。新八くんも喜んでくれているようだ。うん、奮発してよかった!ちなみにケーキはまだ出さない。だって出したら銀さん、最初にケーキ食べるでしょ。


「じゃ、…メリークリスマス!!カンパーイ」
「「「カンパァイ!」」」「ワン!」


みんなの手が料理に飛びついた。うん、コレだけ喜んで食べてくれると、こっちも作った甲斐が…って、今日作ってないけど、でもやっぱうれしいな。


「食後にはケーキもあるからね。ほどほどに…って、ケーキは別腹か」
「そーアル!だからもいっぱい食べるネ!」
「そうですよ!早く食べないとなくなりますよ!」
「つーかもっと肉焼こうぜ」


そう言って銀さんが焼肉のパックを開けると、神楽ちゃんからキャッホゥゥゥ!と反応が。開けるのはいいけどおかず少ないんだからご飯たくさん食べようね。なんて思っているそばから神楽ちゃんはローストチキン(特大)にかぶりつく。豪快な食べっぷりだわ…。


坂田家の食卓では仕切る人がいないので、必ず私がひっくり返す人になる。私がいなかったら新八がやるのでは?と思うかもしれないけど、肉なんて滅多に食べられない万事屋で、食べ盛りの男の子が肉を我慢するなんて出来るはずなく、他の二人と共に肉争奪戦に参加してしまう。…万事屋の良心も、肉には勝てないらしい。


というわけで、みんなで全部のご飯を残らず平らげるのにそんなに時間はかからなかった。っていうか、食卓は戦場だ、なんてこと銀さんが言ってたけど、ホント、戦場だったよ。


すべてのお皿がすっかり空になったところで、私はさっき作っておいたケーキを出すことにした。まァ、まだトッピングはしてないんだけどね。こういうのは自分の好きなようにするのがいいだろうと思ったから。
とりあえずスポンジの間に生クリームといちごを挟んで周りをコーティングするところまでは終わっている。それを二皿持って行く。そのとき神楽ちゃんが銀さんに、にくまんにくまんー、といっているのが聞こえた。…え、にくまん?けど、ケーキの姿を捉えた瞬間目をきらめかせてぱっと笑顔になる。


「ケーキィィ!…あれ?なんか味気ないケーキアルな」
「これはねー、これからこれでトッピングするんだよー」


トッピング材料は、とにかくいろんなものを用意した。男連中は別にしても、神楽ちゃんはやっぱり女の子だし、こういうの好きだろうな、と思って。


「はい、コレ」
「え?私やっていいアルか?」
「うん!好きなものを好きなだけ乗せていいよ」
「ウワッホゥ!!」


張り切って生クリームを手に取った神楽ちゃんは、自分のほうのケーキになにやら絵を描き始めた。…多分、定春なのかな。そして目はマーブルチョコをのっけて…と、楽しそうだ。よかった、喜んでもらえた!


「さーて、こっちはどーする?銀さんやりたい?」
「おー。全部乗っけてくれ全部」
「…全部って、コレ全部?」
「甘いものはなァ、いくらのっててもいいんだよ!」
「糖尿になっても知らねーぞ…」
「いーんだよ、甘いものに殺されるなら本望なの!」


そういって、私の手からアポ○チョコを奪い取った銀さんは、それはもう楽しそうに全部をケーキの上にぶちまけた。ちょっと、美的センスのかけらもねーなアンタは。


…それにしても。


さっきから頭が痛い。最近随分頭痛が多いのだが、それにしてもヒドい。元々よく頭痛になる私は常に薬を携帯しているけれど、こんなに楽しい雰囲気をぶち壊すようなことはしたくない。…でも……


うだうだしていると、銀さんがじろりと視線をよこした。…あ、ばれた?


「頭いてーのか」
「…うん」
「え!、調子悪いアルか?」
「ま、まァ…ちょっと頭痛いだけだから」
「大丈夫ですか?薬は?」
「うん、あるよ。飲んだらすぐ楽になると思うから」
さん…無理しないでくださいね」
「そうアル!銀ちゃんにこき使われてつらかったら私に言うネ!ぶっ飛ばしてやるアル!」
「え、俺何もしてねーけど!」
「うるさいネ!銀ちゃんがぐーたらだからが苦労するアル!」
「ホント…さんよくこんなのと付き合う気になりましたよね。僕なら絶対無理だな」
「無理だなってひどくない?いやだな、よりひどくない?銀さん傷ついたんですけど!」
「あー、もうわかったからさ。頭に響くからもうやめてくれる?」
「ごめんアル!ホンットオメーら空気読めねーな」
「オメーに言われたくねっつの。…オイ、大丈夫か?水持ってきてやろうか」
「あ、…うん、お願いします。薬…どこにあったかな…」


確かポーチの中に突っ込んだような…。そう思いながら和室へ向かう。


頭痛って言うのは一度気になりだすと本当につらいもので、大丈夫とは言ったものの正直立っているのも億劫だ。けどせっかくのクリスマスだし、みんなに気を使わせるのもいやだ。


和室の戸棚の中をあさって、私のポーチを取り出した。中にはいろいろ詰まっているけど、薬はいつも使っているのですぐに取り出せた。銀さんがおーい、と呼んだので、リビングに戻ろうと振り返る。


そのとき、足元がぐらりと崩れた。体が、ドタン、と大きな音を立ててへたり込む。


「っ」
「…オイ、どーした!」
?」
さん…!」


しりもちをついた私に、みんなが駆け寄ってきた。…私今、倒れかけた?


「オイ!」
「あ…」
「あ、じゃねーよ、びっくりすんだろーが。…んな体調わりーのか」
「いや、今のはちょっとふらついただけ…ホントに頭痛いだけだよ」
さん、もしかして僕たちに気使ってませんか?気にしないで休んでください、ケーキはちゃんと取っておきますから」
「いや…そういうことじゃないよ、ホントに大丈夫。薬飲んだら治るから…」
、私のケーキわけてあげるから元気だすアル!」
「いやいや神楽ちゃん、ホントに違うからね!」
「とにかく!オメーはちょっと寝てろ!片付けは俺たちがやっとくからよ」
「…でも」
「酒なら明日に取っといてやるよ。…っつーか、オメーに倒れられると俺たち明日から生活出来ねーって」
「そうですよ。さんには元気でいてもらわないと。…とりあえず、水持ってくるんで薬飲んでください」
「私布団敷くアル!銀ちゃんちょっとどけるネ!」
「おー。…オラ、ちょっとたて」


そういって抱き起こされる。や、ホントに大丈夫なんだけどな…でも、銀さんも新八くんも神楽ちゃんもまったく話を聞いてくれない。


…でも、正直心配されてるのがうれしかったりして。


そんなわけで、その日私は神楽ちゃんが敷いてくれた布団で、新八君の持ってきてくれた水と薬を飲んで、銀さんになでられながら眠った。きっとこういうのが幸せなんだろうと思ったら、今までで一番安らかな気持ちになった。


こんな気持ちを、ずっと味わっていられたらいいと思った。


2008.07.01 tuesday From aki mikami.