ホントに恐いのは暴力でもウソでもなくそれを発する人間だ
Scene.1
「ただいまー、って、なにこの状況」
コンビニにコーヒーを買いに行って戻ってきたら、なんだかものすごい部屋が荒れてる…。端的にあらわすと、カオス。
「ニャオォォォオオ!」
「……神楽ちゃん、その猫耳、どっから拾ってきたの」
「拾ったんじゃないネ、入ってたネ」
「いやだからどこに」
「あれ」
あれ、といって神楽ちゃんが指差したのは、ケーキをむさぼる銀さんの目の前にある箱だ。っていうか、ケーキ?あんなでっかいホールケーキ朝っぱらから普通に喰ってんだけど、甘党にもほどがあんじゃね?ってかアンタ糖尿じゃないのかよ。
「どっからそんなの買ってきたんですか。お医者さんに甘いもの控えるようにって言われてるんでしょ?」
「これ、俺が買ってきたんじゃねーよ」
「は?何言って…」
箱を持ち上げると、明らかに伝票が張ってある。っていうか宛名志村新八になってるんですけど?
「ちょ、何他人宛の荷物勝手に見てんのォォォ!」
「いーんだよ、俺ら家族みてーなもんだろーが」
「家族でも荷物は見ないでしょ!中身ヘンなもんだったらどーすんの!」
「っていうかそういう心配?」
「おはようございます」
ウヲ!新八くん来ちゃったじゃないの!…あーあー、もうしーらない。普段おとなしい子ほど怒ると恐いっていうけど、私しーらない。
「あれ、さん、どうしたんですかこんな所でぼーっとしちゃって」
「……新八くん、先にいっとくけど、私は今さっきコンビニから帰って来たばっかりで、私は何も関係ありませんから」
「は?何言って…」
「ニャオォォォォ!!どうコレ銀ちゃんカッコイクね?」
「オイオイあんまり勝手にいじるんじゃねーよ。それ新八宛てだぞ 箱に戻しとけ」
「なにさ 銀ちゃんだって勝手に中に入ってたケーキ食べてるクセにさ」
「いーんだよ 食いもんは胃袋に入れば証拠隠滅できるだろ。あ ヤベ そろそろ新八来るな。戻そ」
「あっ ズルイヨ 私まだ一口も食べてないネ」
「あーお前ダメだって」
「おーぅマイルド~」
「お前よォ なんか最初からこんな感じだった的な食べ方をした俺の計画がグダグダじゃねーか。しょうがねーな もうちょっとココを削ろう お前も手伝え。丸いカンジな 丸いちっちゃいケーキをつくるカンジな」
「ウン」
「いやそーいう丸じゃなくて円柱っぽく…」
「ウン」
「…銀ちゃんヤバイヨ ポッキー並のはかなさアル」
「ポッキーが何故うまいかしってるか?それははかないからだよ」
「そうかァ だからヤクルトもオイシイアルか」
「人生もまた然りだよ。よし じゃっ 片付けるぞ」
「お前らをなァ!!」
背後から忍び寄った新八くんに頭をたたきつけられた二人。そのままどうぞ地獄に落ちたらいいと思う。
「なに人の郵便物勝手に開封してんのォォ!!人にはやっていいことと悪いことがあるでしょうがァ!!」
「新八 お前いるならいるって言えよ そうして俺達を躍らせて楽しんでたワケか」
「陰湿ネ!最低アル!」
「陰湿で最低なのはオメーらだよ!!」
なんかもう新八君よりもあの二人のほうが人間として哀れに見えるんですけど。取りあえず陰湿で最低のほかに、バカという言葉も付け加えておく。
「あの…アレだから 別に何も見てないからケーキ食べただけだから」
「ウン 別に手紙とか見てないヨ」
「バカ!!」
「手紙!?」
「っていうかお前らホントバカだろ」
「あの コレ ちょっと破けてっけど 違うよ 最初からなんかこんなんだった。別に中とか見てないから」
「ウン 別にデートとかしらないヨ」
「アホ!!」
「!!」
なんかもう、このバカどもは放っておいて。私は新八くんが広げた手紙を後ろから盗み見た。みんな見ちゃったんだしいいよね、てへ。
先日お世話になったお礼に
私なりに志村さんに似合いそうな
ものを選びお送りさせていただきました。つまらないもの
ですが身につけてくれると
嬉しいです。 よろしければ
もう一度お会いして 改めて
お礼が言いたいのですがいかがでしょうか。
気が向いたらでいいので御連絡ください。
お電話待っております。
「……デートじゃん」
っていうか新八くん、なんかものすごい衝撃受けちゃってるんですけど。別人の顔してるよ、いいのこれ。
「あああああ、あの、さん…」
「え、な、何?」
「あああああのあのあの、そそそそそうだ… …!」
もしかして、相談って言いたかったんだろうか。イヤ別に乗ってあげるのはいいんだけど、私の後ろで銀さんと神楽ちゃんがニヤニヤ笑ってる。
「そ、そんな顔をするなぁあああああああ!」
「あ、し、新八君!」
なんか良くわからないけど、ものすごい勢いで走り出してしまった新八くん。……あの、ホントよくわからないんだけど、でもまァ彼が今ものすごくかわいそうなのは分かる。新八くんって恋愛疎そうだもんね、しかも新八君の周り、って言うか私の周りでもあるけど、恋愛ダメそうな奴しか居ないもんね。
ただ新八君にコレだけは言いたい。女っていうのは二つの顔を持ってるってこと。…まァいないから意味ないんだけどね。
Scene.2
というわけで、デートの日になったみたいなんだけど…
家康像の前、親衛隊服を着込みなぜか竹刀を持って立っている新八くんは、あァ、完全に気合の入れ方を間違っている…。
「オイオイ 戦争にでもいくつもりですかアイツは?一人だけオーラが違うよ」
「…成程ね 最近様子がおかしかったのはこーいう事だったのね。っていうか、貴方はどちらさま?」
「え、あ、私、あのといいますー。貴方は新八くんのお姉さんですよね?」
「志村妙です。新しく万事屋に来た人ね?新ちゃんから話は聞いてます」
「こないだのオバケ屋敷のときチラッと見かけたんですよー」
「まぁ、なんだかお恥ずかしいところを見られてしまって…」
「っていうかお前にまだそんな恥あったワケ?」
「も姉御もそんなこと言ってる場合じゃないアル!手紙によるとそろそろ女もくる時間ネ」
「まァそーいうこった これで安心したろ 邪魔者は退散するとしよーや」
「嫌です」
あばばばば、可愛い顔して嫌ですって言っちゃったよこの子ォォ…。やっぱアレ?ブラコン?
「未来の志村家の跡取りを生むかもしれない娘ですよ この目で見定めます」
「気が早ェーんだよ いやな小姑になる匂いがプンプンするぜ」
「それにもしその娘が「けん」という名前だったらどうするんですか? 一人の偉大なコメディアンが誕生してしまうのよ」
「いねーよ!!「けん」なんて名前の女!!」
「あっ 来たアル!!」
向こう側から手を振りながら歩いてくる女の子…って、何アレ。なんか頭に付いてるよ、新八君がつけてるみたいなのがついてるよ?
「ちょっ…何アレ!猫耳じゃないのォ!!聞いてないわよあんなの!!」
「アレだよお前 愛は星をも越えるって奴?」
「冗談じゃないわ!!私 猫が大嫌いなの!!犬派なんです!」
「犬も猫も似たようなもんだろ もしかしたらアレも犬の耳かもしれんよ 実際」
「犬だったら犬だったで志村家に嫁いだ犬 志村犬の誕生だろーがァァ!!」
「何その強引な誕生のさせ方!?帝王切開!?」
いや帝王切開って、私はそのツッコミも十分強引だと思うんだけど…。
「てめーは結局弟離れできてねーんだよ!!俺ァてっきり新八の方にその気があると思ってたがとんでもねー ブラコンはオメーの方だったよ!」
「誰がブラコンよ!!私はリモコンで操作できるような都合のいい女じゃありません!」
「それラジコンだろーがァ!!」
「…ねぇ、新八くん行っちゃったけど」
「尾行しなきゃ…!」
「……やっぱそうなるのね」
まァ、予想はしてたんだけど。でも別に新八くんが誰とデートしようと勝手だと思うけどなぁ。まァあの女はなんか変な感じがするんだけどね。でもたとえだまされてたとしても、それも一つの勉強って言うか…あ、なんか恋愛に関してドライなのは自分が今恋愛してないからだよ。人は振られて大きくなるんだぞー!(痛ェ)
と、言うわけでみんなで新八くんを追いかけるのでした。
Scene.3
【前回までのあらすじ 電車で酔っぱらいにからまれている猫耳娘を助けた新八はなんやかんやで娘とデートすることになったのであった】
【………いい?こんなカンジで】
【なんやかんやってなんですか もっとちゃんと説明してください 私達が尾行している状況も含めて】
【あのアレ…俺も新八から詳しく聞いてないのでしらないのであった】
【しらないのであったってそんな無責任なあらすじ聞いたことないわ】
【もうなんかだるいのであった】
【だるいって言うな】
【姉御 こんな無気力な奴には無理ネ 私がやるアル。 ケーキがうまかったのであった】
【それお前のことだろ】
【あなた達さァ あったってつければなんでもいいと思ってるでしょ】
【確かにアレはうまかったのであった】
【もういいです私がやります。 ―――侍の国 私達の国がそう呼ばれていたのは今は昔の…】
【オイ戻りすぎだろォ!!単行本何冊分のあらすじ!?】
【順を追って説明していくのであった】
【お前は黙ってろなのであった】
【いやお前の方が黙ってろなのであった】
………馬鹿どもは放っておいて、新八くんはというと出されたお茶を口ではなく目に運んでいる。いや、動揺しすぎだから。ちなみに↑はね、本編だとね、単行本またいでるからちょっと補足説明しようってそんな感じだったのかそれともページ埋まらなくてくだらないやり取り入れたのかなんなのか知らないけど、まァ気にしなくていいです。バカには変わりないんで。
「新八さん?そこ目です新八さん」
「あつァばァァ!!」
「ああ大変!! スイマセン何か拭くものを!」
店員さんに拭くものをもらって新八君の前に回りこむ…ってなにあの女の子。ちなみに新八くんはどっきゅんやられちゃってるみたいなんだけど。あー、男ってああいうの好きだからねー。猫耳娘は席に戻ると、軽く顔を赤らめる。
「あの、新八さん。この前は本当にありがとうございました。私まさか来てくれると思ってなかったからスゴク嬉しいです。一度ちゃんと会ってお礼をと…、お礼っていうかホントはあの… …あなたに」
そういいながら猫耳娘はコーヒーを目に持っていってビチャビチャ…あァ…これは本当にヤバいかもしれない。ありゃあ同性に好かれないタイプだよ。
「そこ目ですよ」
「え? いや!私ったら何やってるのかしら!」
うわ、白々しい…と思ってしまうのは、やっぱり私が女だから?何この湧き上がるイライラは。
「ごめんなさい、どうしたのかしら。おかしいなァ、なんだか私ドキドキしてるみたい。 てへ」
ビリイィ
バリャ
バリンッ
ヤッベー、コレ来たよコレ、完全に来たよこのブリブリ女。同性に好かれないどころか超嫌われるよコレ。ちなみにさっきの擬音は上から、神楽ちゃんが女性自分を破る音、妙ちゃんが金曜日を破る音、私がコーヒーカップを砕く音。お店の人すいません…。でも!コレが平然としてられるかってんだ!とか思ってたら銀さん、新聞読みながら平然と、なにやってんの、だって。なにこの敗北感。やっぱ男にはこれがイイわけっ…!?
「私が贈った猫耳つけてくれてるんですね。うれしい、私一生懸命選んだんです」
あ、ヤベ。コイツまた余計なこというよ。耳塞ごっかな。まァ塞がないケド。っつーか猫耳一生懸命選んだってどういうセンス!?気持ち悪ッ!…と、とにかく落ち着け私。神楽ちゃんと妙ちゃんを見よう!人のフリみて我がフリ直せだ。
「私、あの、あこがれの人とペアルックで歩くのが夢だったんです。あっ、言っちゃった~」
ガシャァァン ガシャァン
ガン ガン ガン
「…何してんのちょっと、…いい加減にしてくんない」
神楽ちゃんはテーブルを殴り付け、妙ちゃんは額を打ち付けている。うん、気持ちはわかるよ。っていうか、私の中でもなんかこう、真っ黒い感情が渦巻いてるもん。…でもさ、こういうときって自分より怒ってる人がいると、妙に冷静になったりするよね。二人が凄まじすぎて、なんかそういう心境なんだよね。
「何コレ!何この気持ち!なんかイライラすんですけどあの娘!!どうしたらいいの!?私はどうしたらいいの!?」
「いだだだ!!」
「胸ん中になんか黒いものがァァ!!とってェェ!!この黒いやつとってェェ!!」
「いだだだ!!」
二人に思い切り八つ当たりされている哀れな銀さん。まァこの場にただ一人の男だから、仕方ないよね。
「一緒に歩くぐらいでそんな大げさな。じゃあ今から…いきましょうか」
「えっ、ホントに!いいんですか?」
なんか向こうは勝手に話が進行してますが…銀さんはかわいそうなくらい二人に殴られ絞められ…まァ、がんばれ。
「よかった勇気だして。アレ?なんでだろ、前がかすんで見えないや」
うわぁ…。ヤベェよあれは。ちなみに神楽ちゃんが一生何も見えなくしてやろーかァァァ!!だって。うん、そうしてあげて。っていうか、私がアイツを見たくねェ。
「あの、手をつないでもいいですか?」
「え゛っ!? ん…あ…じゃ…ハイ」
ってことで…銀さんが締め上げられている間に話はトントントントン進み…二人は手をつないでどこかに歩いていった。って、行っちゃったよオイ。いいのかよこんなバビューンとロケットのごとく進行しちゃって…。
「ちょっと、行っちゃったよ新八くん」
「っ!たすけっ…」
「ゴメンね銀さん。私も女である以上は逆らえない感情ってのがあってね。それを押さえ込むので精一杯なの」
「意味わかんねェェェ!」
「わかりたいなら性転換でもしておいで?」
「さァ!さっさと追いかけるわよあのブリブリ女!」
…ってわけで、レッツ尾行!(すでに尾行になってないよねー)銀さんは哀れだけど、まァ日頃の報いって言うか、そんな感じで!(助けるのめんどいし!)
Scene.4
トントン進みすぎじゃね?ってかトントンなんて一段ずつ登る感じじゃなくて、1からいきなり100にすっとんだ感じだよね。ピンクの看板が建ち並ぶ、まぁ…所謂ホテル街…のなかの一軒に、二人は入っていった。あぁ、ホント最近の若者は…って、ここに居る私たち全員最近の若者だよね。あ、でも銀さんは怪しいかな?実際何歳なのか知らないんだけど。
「入りましょう、銀さん」
え…ぶふェええええええ!
なんか妙ちゃんがすっげェ可愛い顔で平然とそんなことを言うから、思わずヘンな声が出ちゃったじゃないの!
「妙ちゃん!ダメよ清くカワイイ女の子の妙ちゃんがこんなとこに…!ってか銀さんなんかと入っちゃダメ!ヤられる!」
「オイ それどういう意味!?銀さんこんなヤツに手ェ出すほど盛りじゃないから!」
「盛りだったら手ェ出すのかよ!」
「あ、いや、そりゃ出すかもしれないけど…」
「つべこべ言うなや。早く入らないと見失うだろーが」
「いや、すでに見失ってるよね人の道」
「ちゃん?未来の志村家のためなの、協力して?」
「え…う、うん…」
そんなカワイイ笑顔で言われたら断れないんですけど………。ってことで、銀さんと妙ちゃんが中に入ることになった。どういうことで「ってこと」なのかわかんないんだけどね、自分でも。
二人は腕を組んで受付へ。私と神楽ちゃんはお留守番。二人でドアの隙間から中をのぞく。
…なんか銀さんって、文句言っといて一緒に入るのを嫌がるわけじゃないんだなァ、そりゃそうなんだろうケド。なんかあのブリブリ女より銀さんがムカつくんですけど。ってなんでよ!
「一番安い部屋で」
「いやだァ、私ィ、あのベッドが回る部屋がいいわん」
「冗談じゃねーよ、あんな高い部屋。お前が回ればすむことだろ」
ってどんなプレイだよ。
「それどういう意味?」
「あの、道具とかもサービスしてますけど。ろうそくとかムチとか」
「バズーカで」
「いや、バズーカなんてないから」
「バズーカであのブリブリ女を撃ち殺すんです」
「オイお前いい加減にしなさいよ。すいませんねコイツの言ってるバズーカはこっちのバズーカのことでね。まァ俺のはバズーカというより波動砲ですけどね」
んなこたどーでもいいよね。聞いてないから、うん。
「それよりもこのホテルに眼鏡と猫耳の若いカップル来ませんでした?」
「悪いけどそういうのはしゃべっちゃいけないことになってるからねェ。それよりさァアレ…なんとかしてくんない?おたくらでしょ?アレ連れてきたの。ウチ子供は入れられないからね、困るんだけど。まァ隣りのお姉ちゃんなら3Pってことで入れなくもないけど…追加料金はいただきますよ」
「え…てか私っ!?まさか!だれが入るかクソジジイが!」
「だから大人って嫌い!!不潔よ!!淫よ!!インモラルよ!!パパなんて大嫌い!!」
「どーゆう設定!?」
「あ」
「ん、アレ?」
銀さん達の後ろを、なんかすたた、と降りて来る女の子。見覚えあるよね?ってか…
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ブリブリ女!銀さんの叫び声にスタタタ、と軽やかに逃げ出すブリブリ女。
「待ちやがれェェェ!!コノヤロォォ!!」
私と銀さんは全速力で追いかける。それにしても身軽だな、さすが猫耳だけあって、猫のような身のこなし。いや猫耳関係ないんだけど。ってか妙ちゃんと神楽ちゃんはどこ行ったわけ?
「待てって言ってんだろーがァァァ!!」
銀さんが投げた木刀をヒラリとかわし、倶楽部月光の看板の上に降り立つブリブリ女。
「キャハハハハハ!!」
さっきとは別人の高笑い。…あァ、やっぱり。昔から勘は働く方なんだよね。看板に座りながら、ブリブリ女は言う。
「何、あなた、あの子の家族ですかァ!?お兄さん?バカヅラさげて何?あの子が心配でつけてたのォ?心配いらないわ、私はなんにもしちゃいない。弟さんの貞操も無事だしィ。私がほしいものは愛だけ。そう、私は愛を盗む怪盗キャッツイアー」
なにがキャッツイアーだよ、キャッ〇アイのパクリじゃねーか。キモイんだよ!ブリブリもムカつくけどこの豹変ぶりにも腹が立つ。
「この世で最も美しいもの、それは愛。お金にも宝石にも私は興味がないの。でも愛は目に見えない。ゆえに愛を奪った証に私は男の財布を拝借させてもらうの」
そう言って顔の前で財布をちらつかせる。ヤベェ、殺してェ。
「新八の財布か?何訳わかんねーこと言ってんだオメー、要するにただのもの盗りじゃねーか」
「あなたの弟傑作だったわ。今時あんな純情な子いたのね。コロリとだまされちゃって、おふざけであげた猫耳なんかつけてきちゃってさァ。おかしいったらないわ。なんだかこっちまで初恋の頃みたいにドキドキしちゃって。これがあるからやめられないのよね」
「オイオイ、ブリッコキャラはもうやめたのかい?俺、アレけっこう好きだったんけどね」
「男ってホントバカよね。表層でしか物事を判断出来ない奴ばかりでさァ。あっ本音言っちゃった、私ったらドジ。 てへっ」
「ブリブリブリブリ、うるせーなー」
ブリブリ女の上の方から、かわいらしいはずなのにドスの聞いた、なんかコワーイ声が聞こえて来る。
「ウ〇コでもたれてんのかあァァァ、てめェはァァァ!!」
「たれてんのかてめェはァァァ!!」
「妙ちゃん、神楽ちゃん…」
うわあァァァ…こりゃブリブリ女、生きて帰れないかもね。私密かにこの二人は宇宙最強タッグだと思ってるから。女を敵に回すと恐いんだよ、やっぱ。
「てへっ なんて真顔で言える女にロクな女はいないのよ」
「てへっ」
「うおらァァァァ!!」
…いや、神楽ちゃんそれ真顔じゃないからね。とつっこんでいる間に最強タッグの蹴りが炸裂。銀さんが隣りでポツリと、あ、ホントだ、と呟いた。うん、ホントだね。っていうかそんなことはどうでもいいけど、倶楽部月光の看板もう粉々だよね?あれどうすんの、誰が金出すの。
看板(だったもの)がブリブリ女の方に倒れていく。っていうか、さっきの俊足はどうしたのよ。逃げ遅れて目をつぶるブリブリ女。けどそこに間一髪、新八くんが看板(だったもの)からブリブリ女をかばう。
「みんな、もうやめてよ」
看板(だったry)をフッ飛ばしながら、新八くんはブリブリ女を振り返る。
「…恋愛はホレた方が負けって言うだろ。もういいよ。僕別にエロメスさんのこと恨んでないし。…むしろ感謝してる位なんだ」
え、何この空気。なんかいい話っぽい空気かもし出してるんだけど。でもそうは行かないのが銀魂って奴で。
「短かったけど、ホントに彼女が出来たみたいな楽しい時間が過ごせて… だから、一つ言わせてください」
そこまで言い終えると、それまで穏やかだった新八くんがゆらりとゆれる。…あ、これは。
「ウソじゃあああボケェェェェ!!」
ドゴォン とブリブリ女ことエロメスは吹っ飛ばされる。…だから私、言ったでしょ冒頭の方に。普段おとなしい子ほど怒ると恐い、って。
妙ちゃんと神楽ちゃんからは拍手が起こる。銀さんはそれを青ざめた顔で見やる。うん、どっちの気持ちも分かるよ。私は青ざめつつ新八君に拍手を送った。
哀れ、ぶりっ子。
Scene.5
万事屋に帰ってきてみんなでご飯を食べている間、私はずっとイライラしていた。何でって、それが分からないんだな。でも銀さんにムカつくってことは分かる。なんか銀さんのあの天パ見てると引きちぎってやりたくなるもん。
イライラしたときはお散歩が一番。ってことで私は飲み物かアイスかなんかを買うためにコンビニに行くことにした。ついでにちょっと遠回りしてくるもんね。
「あれ、どっか行くの?」
玄関で靴を履いていると、後ろから声をかけられた。この気の抜けた声は、もちろん。
「…別に」
「別にってこたねーだろ、こんな時間によォ」
振り返らずに答えたら、別に大して不満そうでもなく淡々とそう答える銀さん。
「飲み物買いに行くだけだから」
「マジで!俺もちょうどいちご牛乳飲みたかったんだよなー」
「別にいちご牛乳買いに行くわけじゃないから。……じゃ」
「オイオイオイオイ!待てって。こんな時間に一人で出歩いたらなァ、ヘンなおじさんとか出るんだぞ?」
「ココに一人居るから大丈夫、慣れてる」
「なにをォ!俺はまだ若いぞ!」
「はいはい。じゃーいってきます」
「あー待て待て、俺も行く」
「はっ!?」
「新八ー、神楽ー、銀さんとちゃんちょっとコンビニ行って来るからー」
「わかりましたー」
「なら酢昆布買ってくるヨロシ!」
「テメーで買え!じゃ、いってきまぁーす」
「ちょ、銀さん…!」
銀さんと離れたくてわざわざ買い物行くのに、あんたが一緒に来てどうすんのよ!そんな抵抗を見せる間もなく外に押し出されてしまった。っていうか、どんだけノリノリなわけ…。
「はァ…」
「なに、何でため息ついてんの?もっと楽しくいこーぜー、これから何買おう、アレがいいかなァん?とかさァ」
「バカ」
「んだよ、さっきからひっでーなー!銀さんないちゃうぞー!」
「勝手に泣けよ変態が」
「変態!?なんで急にそんな話になるわけ!?」
「近寄るな汚らわしい」
「オイオイ、銀さんマジ泣いちゃうって!っていうか何、俺なんかしたかァ!?」
「別に」
「別にってお前はエリカさまかッ!」
「うるさい」
「うわっ、ふてぶてしい!…つーかホント何、俺なんかヘンなこと言ったか?してたらあの、ホント謝るんで、許してください」
「…銀さんって、女の人好きだよね」
「は?」
「特に美人が好きでしょ。それにエッチなことも大好きでしょ。私たちに隠してAVとかエロ本とか持ってるの知ってるんだから」
「え、何で知ってんの!」
「隠し方が甘いんだよ。…今日だって、ホントは期待してたでしょ」
「……は?」
「妙ちゃんとラブホに入って、あわよくばいただいてしまおうとか考えてたでしょ。全くきたならしい…私の妙ちゃんにヘンなことしないでもら…
「なに…お前それ、やきもち?」
…………はい?
「や、やきもち?」
「うんだから、銀さんが他の女と仲良くしてるなんてイヤイヤ!みたいな」
「いや、どっちかって言うと妙ちゃんが他の男と仲良くしてるなんてイヤイヤ!って感じだけど」
「なんだレズかよ」
「いや違うけど」
「なんだよー、銀さんちょっとときめいちゃったじゃねーのー!」
「…はァ?なにときめくって…意味わかんない」
「だって、お前が俺のこと好きってことになるじゃん」
「……そうかな」
「そうだろ」
そうなるかもしれない。でも私、別に銀さんのこと好きじゃないよ?十四郎にふられてからは好きな人いません。…だってねェ、銀さんだよ。
「別に、好きじゃないけどね」
「残念だなー、銀さんが手取り足取り腰取りいろいろ教えてやったのにー」
「何をだよ!」
「それはまァめくるめく官能の世界っていうかー」
「下品!」
「ゴフゥッ!」
銀さんになんか教えてもらいたくないもんね!っていうか官能の世界を人に教える前にアンタはちゃんとした大人のマナーを誰かから学べ!
「もういい、ばいばい」
「アー待って待って!つーか歩くの早!おいてかないでー!」
「おいてく。さよなら」
「いやいやいや!あぶないよー、夜道危ないんだよー、銀さんと一緒に居たほうが安全だぞー」
「銀さんといたほうが危ない気がするからついてこないで」
「何それ!銀さん厄病神扱い?」
「っていうかアンタがすでに厄災」
「ちゃん今日すっげー毒舌だなオイィ」
そんなことを言いながら、たたた、と後ろをついてくる。あァ、ウザイ。っていうか銀さんってこんなキャラだったっけ?いやこんなグダグダキャラだったけど、こんな下ネタ激しかったっけ。ま、そんなこと今はどうでもいいけどね。考えてるだけで腹立つから。
「なーー」
「…」
「ちゃーん」
「…」
「ー」
「何ッ!」
「お前って帰っちゃうんだよなー」
「……え?」
銀さんの声が急に真剣になるから、思わず振り返る。ぱっと目が合ったその顔はいつもと変わらないのに、目だけが少し煌いていた。
「…なに、急に」
「いや別に。ただ思ったんだけど」
「……そりゃあ、私はもともとこの世界の人間じゃないから…いつかは帰ることになるだろうけど」
「だよなァ」
つぶやくようにそういって、私の目の前に止まる。周りは静か過ぎるほど誰もいなくて、明かりも殆んどなくて、やけに大きな半月だけが私たちを照らしだしている。
銀さんの顔がゆっくりと迫ってくる。煌いた目はそっと伏せられ、やがて唇に、月明かりのような優しい温もりが触れた。その瞬間、世界から全ての音が消えた。
…キス、されてる。そう認識してからも、離れることが出来なかった。見開いたままの目は、銀さんの長めの睫毛をしっかり捕らえているのに、…拒否することも、受け入れて目をつぶることも、何も出来ない。
やがて銀さんは、ゆっくりと離れていった。
「……わりぃ、忘れてくれ」
「……こないだも同じこと言った」
「そうだっけか?まァ、また忘れてくれや」
「わ…忘れられるわけ…」
ないじゃない。いきなりキスなんてされたら。
「よっし、コンビニ行くぞー!いちご牛乳が俺を待っているー!」
「な、ちょっ、待っ!」
ぐいっと銀さんの着物を引っ張った。後ろにつんのめった銀さんは、うォ、と小さく声を上げる。
「何っ?」
「何って!な、なんでキスなんか…!」
「そりゃーお前、銀さんエロリストですから」
「……は?」
「テロリストならぬ、エロリスト。エロ革命起こすから、いつか。そしてちゃんを目くるめく官能の世界に…」
「いっぺん死んで来いやァァァァァァ!!」
持てる力の全てを注いで銀さんをお空の彼方まで吹っ飛ばした。さようなら、自称エロリスト。ってか、アンタはエロリストじゃなくてエロオヤジだ。さようならオヤジ。
なんなの、女の子の純情もてあそんでそんなに楽しいわけ!?まァもう女の子なんていえる歳じゃないんだけど…。大体忘れてくれって何?意味わかんないから。忘れられるわけないでしょうが!
私は怒りを倍増させながらコンビニに向かった。いちご牛乳なんてゼッッッタイ!買ってあげないんだから!
2008.06.03 tuesday From aki mikami.