Episode 11

ダメなやつはかっこつけてもやっぱダメ

Scene.1






私たちの行動が功を奏したらしく、大事には至らなかった。…けど、私たちは安心感を喜んで感じるようなことは無かった。


局長と、副長の命を…


その言葉が、頭の中で何度も木霊していた。


待合室の椅子に座り込んだまま、私たちは黙っていた。というか、誰も何を言っていいのかわからなかった。十四郎や近藤さんなら大丈夫、総悟もいるんだし、他にもたくさん…


だけど、真選組の動向がばれているとしたら、それを上回る人間が出てくるとか、もしかしたら人間なんて簡単に吹っ飛ばせてしまうような武器を使うかもしれない。その辺のことは聞けなかったからわからない。だけど、とにかくわかるのは、真選組が危険だってこと。


私は黙ったままの銀さんを横目で見た。斜め下を向いたまま動かない。多分銀さんも何かを考えているんだろう。どうしたらいいのか考えてるんだろう。新八くんも神楽ちゃんもそうだ。どうしていいのかわからない、そんな感じに見える。


重苦しい雰囲気の中、私はやっとの思いで口を開いた。


「あの、銀さん…」
「…」
「知らせに、行こうよ」
「…」
「今からならまだ間に合うかもしれないよ…ねぇ」
「そうですよ、銀さん。いくら僕たちは関係ないって言っても、放っておけないですよ」
「…」
「銀さん」
「銀ちゃん…」
「うっせーなァ!」


突然堰を切ったようにそういった銀さんは、勢いでその場に立ち上がった。三人で呆然と見上げると、ものすごく機嫌が悪そうな顔で頭をかいて、めんどくせーな、とひとこともらした。


「どーしてこう真選組ってやつらは毎回俺らに迷惑かけんのかねー。これじゃーおちおちジャンプも読んでられねェ」
「…銀さん!」
「行くぞオメーら!」
「…よっしゃ、さすが銀ちゃんネ!」
「うん、行きましょう!」
「あー、ちょーまて。…
「え?」


急に怖い顔で私を見るから動きを止める。いやに真剣な目に、ほんの少し光が見えた。


「オマエはどうする。行くのか」
「何言ってるの?行くに決まってるじゃない」
「……ほんのちょっと血ィ見ただけで泣き喚くやつがいけるのか?…一滴も血を見ないって保障はどこにもねェ」
「……」
「その場でわんわん泣かれたって、俺らはフォローしてやれねェ。しかもオメーは戦えるわけじゃねェ。足手まといになるようなら、来ねー方がいい」
「そんなっ」
「バッカヤロー!」


ドォン!と神楽ちゃんのとび蹴りが銀さんの背中に決まり、銀さんは新八君まで巻き込んで遥か数メートル先にぶっ飛んでいってしまった。ここ、病院なのに…。


「銀ちゃんひどいネ!女の敵アル!」
「オメー何すんだコラァ!」
「うっせーこのおバカさんがァァア!女の気持ちがわからないやつは馬にけられて死んじまえコノヤロー!」
「オメーにけられて死にそうだっつーの!」
「ってか、何で僕まで?」
「オマエはけりやすかったアル」
「サイテーなんだけど!この子サイテーなんだけど!」
「…オイ」


急に銀さんの声色が変わったかと思うと、着物に付いたほこりをほろいながらゆっくり立ち上がる。その目を見ていると、脅迫されているような気がして少し怖くなった。


「俺は別についてくんなっていってんじゃねー。オメーとしては気になるだろうよ、一番の当事者だしな」
「…うん」
「だから、来たいんならくりゃいい。ただしオメーが泣くたびに慰めてやるなんて無理だ。だからその辺はオメーで何とかしろ。そうしたら後は… 俺たちで、守ってやっからよ」
「…え」


思わず見上げた銀さんの顔は、どうしてか少し笑っていた。


涙が出そうになった。まさかそんなことを言われるとは思わなかったから。新八君も神楽ちゃんも、同じように少し笑っていて、ああ、私はなんて幸せなんだろうと思った。


「うん、私泣かない!大丈夫!」
「よっし!それじゃあ今度こそ行くぞオメ
「うるっさいよしずかにしな!!」


年配看護士さんがものすごい形相で叫んで、そしてまたどこかに言ってしまった。…完全に姿が見えなくなった後に、銀さんが小さくオメーがな、とつぶやいて、声には出さないけどその場の全員が同意した…と思う。


万事屋だから、やっぱりいいシーンもぐだぐだになってしまうわけで。…何はともあれ、私たちは取引が行われるはずの場所、セカンドビルディングに向かうのであった。


Scene.2


セカンドビルディングの周りは、気持ち悪いほど静まり返っていた。斬りあう音も、総悟お得意のバズーカの音も聞こえない。私たちはそうっと、泥棒のようにそうっとビルの中に入った。けど、正面には誰もいない。もしかしてここじゃないのかな、と不安になり始めたとき、首筋にひやりと冷たいものが当たった気がして瞬時にピタリと動きを止めた。


「そこまでだ。神妙にお縄につけ」
「っ、と… 土方さん!」
「は? ?」


首筋の刀を鞘に収めた音がして、ほっとして振り返る。そこには確かに十四郎がいて、しかもちゃんと元気そうで、私は安心して、思わず十四郎に飛びついた。


「うわっ!なんだオメー!」
「無事だったー!よかったー!」
「は?なんの話だァ」
「んだよー。骨折り損かよー」
「やってられないネ。酢昆布おごるヨロシ」
「はァ?なにわけわかんねーこと…」
「土方さん、どーかしやしたかィ?」
「総悟ー!」


向こう側からやってきた総悟にも、感動して飛びついた。一緒に床に転がり込んで、物すっごくいやそうな顔をされたけど、そんなこと関係ない。…無事でよかった、本当に!


「姐さん、どーしたんでィ?」
「あーそれがねー、かくかくしかじかでー」
「へー、そーかよ。…って、それでわかるかバカがァ!」
「痛ッ!痛いよ土方さん!ひどいよー!総悟ー、土方さんにいじめられたァー」
「女の人を泣かせるたァ、最低ですね土方さん」
「なっ、泣いてねェだろ!」
「泣いてるよーうわーん、総悟なぐさめてー」
「あーよしよし。俺が土方のバカを殺してやりやすぜ」
「殺しちゃダメだけどいっぱいいじめといてー」
「オーダーはいりまーす」
「あのー、もしもしー。俺らのことおいてかないでくれるー?」


銀さんがなんだかほうけた顔をしながらそういった。別においていったつもりはないんだけどなー。


「で、結局オメーらはなんでいるんだよ」
「それが…あの後スーパーの帰りに隊士の人が襲われてるのを見つけて…」
「なに!」
「大丈夫、ちゃんと病院に運んで、命にも別状はないって。…でもね、その人が倒れるとき…言ってたの」
「やつらにばれてる、やつらは局長と副長の命を、って。…そういえば、近藤さんはどこに行ったんですか?」
「近藤さんならさっきトイレに行きやしたぜ」
「局長なのに…緊張感の欠片もないね」
「言うな。…しかし、そりゃあ聞き逃せねェ話だな。今は他に抱えてる事件もねェ。やつらにばれてるってのは、今日のこと以外にはねェはずだ。…っつーことは、何か仕掛けてくるってことか?」
「そー思ったからこうして知らせに来てやったんだろーが!」
「ほォー、そりゃーずいぶんお優しいこったなァ。オメーの忠告なんざいらなかったけどな!」
「そーかよ!だったらおとなしく斬られて死んじまえ妖怪マヨネーズ!」
「だっれが妖怪だコラァ!つーかオメーが死ねや糖分中毒!」
「オメーがしねよ土方コノヤロー」
「オメーは入ってくんな!」
「こいつらばかね。争いが低レベルね。コレだから男ってのはいやアル」
「んだとチャイナ。オメーもう一回言ってみろ」
「何度でも言ってやるネ。男なんてサイテーアル」
「さっきといってること違ェだろーがァァァァア!」
「細けーこと気にしてんじゃねーよクソがァァァア!」
「あのー、ちょ「だまれやこのマヨネーズオタクゥゥ!」
「ちょっ…「うるせぇ天然縮れ毛ェェェ!」
「もしも「くらえェェェェ!」
「ねぇね「うおぉらァァァァ!」


「……」


「オメーらいー加減にしろやコラァァァァァ!!!」


2008.05.18 sunday From aki mikami.