Episode 12

お見舞いのメロンってやたらおいしい

Scene.1






全員その場に正座させて、取りあえず話を先に進めましょう。新八君は参加してなかったけど、流れ上やっぱり正座で。


「さて、静かになったところで…取りあえず今ここにいる隊士は何人?」
「俺らを含めて十二人だ」
「その隊士は今どこに?」
「各班三人ずつ分かれて二階と三階、あと屋上から侵入者を見張ってまさァ。で近藤さんはクソです」
「そういえば、近藤さん遅いよねェ。どこまで行ったのかな…」
「ここは電気が通ってないんで、外でしてくるっていってやしたぜ」
「トイレ探してさまよってるのかなァ…」
「ガキじゃねーんだからそのうち戻ってくんだろ」
「そうかもしれないけど…ちょっと心配」
「オメーに心配されたら終わりだな」
「なんだとコノヤロー」
「おいトシ…」


そんな声が聞こえてみんなで一斉に振り返ると、そこにはなんだか沈んだ様子の近藤さんが立っていた。よかった、なんともなかったみたいだ。


「おぅ、やっと戻ったか」
「ずいぶん長かったですねェ」
「…コレ……」


青ざめた表情で手のひらを差し出した近藤さん。なんだかこう、棒状のものがいくつかくっついた、すごく見覚えのあるものが乗ってる気がするんだけど…あの、赤くって、時計みたいなのが付いてる、あれ…


「こ、近藤さん、それ…」
「もしかして…」
「ば、爆弾アル!」
「うわあァァァァ!!」


神楽ちゃんの声を合図にその場にいた全員が一目散に建物から逃げ出した…けど、近藤さんは助けてェェェ、と叫びながら私たちを追いかけてくる。ってか、来るなよォォォォ!


「局長ォ!今までありがとうございやした!あの世でもどうぞお元気で!」
「総悟ォォォ、見捨てないでねェ!」
「ってかアンタは何でそんなもん持ってきてんだよォ!」
「だってトイレがないからさァ!もうその辺でしちゃえと思って裏手まで言ったら変なゴミ箱見つけてェ、そこにしちゃおうと思って開けたら…!」
「何でそんなところで用足そうとしてるんですか!ほんっと迷惑な人ですね!」
「全くだ!オメーらは俺らにどれだけ迷惑かけりゃ気が済むんだよ!」
「もういい加減にするアル!この三バカがァァァ!」
「三バカだとォォ!?」
「もーいいから!いー加減にしてよね!近藤さん、それ時間あと何分なの!」
「え、えええ、あと、あと… あと、8分んんん!!」
「8分!?」


8分ってホントに後ちょっとしかないじゃん!なにやってんのあの人はァァァァ!


「こんな街中で爆発したらシャレになりませんよ!」
「つーか今の状況もシャレになってないからね新八君!」
「近藤さん!どっかに捨てろォ!」
「捨てちゃダメでしょうが!どっか人がいないところに持っていかないと…!」
「そうだ…海は!?海に捨てちゃえばいいんじゃないの!?」
「こっから海ってどんだけかかると思ってんだよ!」
「じゃー川!川ならいーじゃん!」
「川つったって、周りに人がいたらだめだろーが!」
「いや…待て!」


キキィィッ、と銀さんがスクーターをとめたのに合わせて、みんなが急ブレーキをかけた。


「空中で爆発させりゃいいんじゃねーか?そっちのほうが危険がすくねーだろ!」
「空中って…」
「いやぁホラ、バズーカで…」
「打った瞬間爆発するわボケェェェ!」
「ダメか…よし、逃げるぞ!」
「いやいやいや、ちょっと待って銀さん!」


私は逃げようとする銀さんの首根っこを捕まえて、近藤さんの手の中の爆弾を見た。もしかしたら時限装置を解除できるかもしれないし…。


「なんかボタンが3つついてるよね」
「あーこれ。これねー。レッツプッシュって書いてあったから押したらこうなったっていうかー」
「バカヤロォォォ!このゴリラァァァァ!」
「全部押したの?」
「いや、一番右のやつだけだ」
「…もしかして、この中のどれかに解除ボタンがあるかも…」
「えェ!?」
「大体近藤さん!レッツプッシュってどこに書いてあったわけ!?」
「い、一緒に紙が入ってて…」
「紙って!その紙は!?」
「それが、う○この時に拭くものがないから…」
「バッカヤロォォォ!」


銀ちゃんと十四郎のけりがきれいに決まって近藤さんはノックアウト!ってそんなことしてる暇ないんだけどー!


「その紙、ほかになんか書いてなかった!?」
「いや、他には特になにも…あ、ででも、なんか矢印が三つひっぱってあったような…」
「矢印…?」
「↑レッツ↑プッシュ↑ みたいな感じで」
「ってことは…」
「どれ押しても一緒じゃねぇかァァァァ!」
「くっそ、貸せ!」


銀さんが近藤さんの手から爆弾を奪い取って、スクーターに跨った。そのまま急発進させて、ものすごいスピードで走っていく。


「銀ちゃんどこ行くアル!」
「どっかに捨てに行くしかねーだろーが!」


爆弾を脇に抱えたままそう返す銀さん。


「って、なに後ろで当たり前のように解説してんだよオメーはァァァ!!」
「あは」
「あは、じゃねェェェェ!いつの間に乗ってんだよ!」
「それは企業秘密でー」
「意味わかんねー秘密作ってんじゃねー!あぶねーんだぞ、降りろ!」
「このスピードじゃ降りられないよ。それに危険なのは銀さんも一緒でしょ」
「っ、このバカがァ!」
「いーから今は運転に集中して!あと3分しかないよ!」


私は銀さんの脇から爆弾を取り上げて右手でしっかり抱えた。反対の手は何とか振り落とされないように銀さんの腰にしがみつく。


「どっかあてあるの!?」
「一箇所だけな!だがコレも賭けだ!」
「誰かいたらどーするの!」
「どーするって…どーしようもねーだろ」
「……」


どうしようもないってことは、つまり死ぬしかないってことだ。…私は一度爆弾を見て、それからゆっくりと息を吐き出した。残り2分30秒。


「もーちょいだ!、準備しとけ!」
「うん!」


対向車をギリギリで交わして角を曲がって、人気のない路地に入り込む。野良猫があわてて逃げ出すのを視界の端にいれながら銀さんの肩から前を覗き込む。角を二つ曲がったところで、残り時間がちょうど三十秒を示した。向こう側に廃ビルに囲まれた空き地がある。


「あそこだ、放り投げろォォ!」
「うぉりゃあァァァァァ!!!」


前を通り過ぎる瞬間、抱えた爆弾を思い切り空き地に向かって放り投げる。私たちはそのままのスピードでそこを通り抜ける。それから数秒後に、爆音とともに後ろからものすごい熱風が襲った。私たちはその爆風に押されて、二人でスクーターから振り落とされた。その瞬間、銀さんが私をかばってくれた気がしたけど、私はすぐに気を失ってしまった。


Scene.2


目が覚めたとき、私は病院のベッドの上にいた。頭がぼうっとするけど、体が痛いとか、そういうのはない。


「お、目ェ覚めたか」


そんな声に振り返ると、そこにはいつものようにタバコをふかした十四郎が座っていた。他には誰もいないみたいだ。


「オメーも無茶するな。気分はどうだ」
「ん…まぁまぁいいです…あの、爆弾はっ…!」
「オメーのおかげで大事には至らなかった。あそこは普段は不良の溜まり場でなァ。昨日はたまたま人がいなかったからよかったぜ」
「そっか…よかった…。 あ、銀さんは!」
「あいつなら大丈夫だ。ピンピンしてるぞ」
「よかったァ…なんか、銀さんがかばってくれた気がしたから…」
「…そーみてぇだなァ」


十四郎がそう答えると、何も言うことがなくなってしまって、気まずい沈黙が降りてきた。よく考えたら二人きりって始めてだ。っていうか、出会ってまだ二日だし…。


「ありがとな」


そっぽを向いたままの十四郎が、ぽつんとそういった。逆光で顔はよく見えない。私は思わずえ、とつぶやいてしまった。


「いや、べ、別にそんなお礼を言われるようなことは…なにも…」
「いや…今回のことはオメーらがいなかったら解決しなかった」
「私じゃなくて…銀さんにお礼いってあげてよ」
「アイツにはいいたくねぇ。オメーがいっとけ」
「はは、仲悪いもんね、似たもの同士だから」
「似てねェ!」


似てるよ、と心の中で言い返しながら、私は小さく笑った。その反応、銀さんにそっくりだよ、ホント。


すねたように怒る十四郎。その顔を見ていたら、すごくほっとした。何事もなく、ちゃんとそこにいる。私、ちゃんと十四郎の役に立てたよね?


「…オィ、どーした?」
「うん…嬉しくて」
「は?」
「みんなが…土方さんが無事で」
「…オマエ」
「私、土方さんが好きなんだぁ」


自分の口からさらりとそんな言葉が出たことに、少しだけ驚いた。あって二日の人なのにそんなこといわれるなんて、十四郎はもっとびっくりしてるに違いない。…でも私にとっては、二日じゃないもん。ずっと大好きだったもん。


「…私ね、昨日初めて会ったときよりずっと前から…土方さんのこと知ってたの。そのときからずっと好きだったんだぁ」
「…」
「ごめんね、こんなこといきなりいって…」


でもほんとに、無事でよかったって思う。涙が出そうなほどに、思う。十四郎はゆっくりと、長く煙を吐き出した。


「…わりぃ」
「…」
「俺は答えてやれねェ」
「……うん」
「でも、気持ちだけ受け取っとく。…ありがとな」
「お礼なんてやめてよ…ただの自己満足なんだから」
「自己満足?」
「私もね、ホントは受け入れられても困るんだァ。…私この世界の人間じゃなくって、いつかは自分の世界に帰らなきゃいけないから…」
「オマエ…天人か?」
「ちょっと違うけど…でも、いつまでいれるかわからないから…気持ちだけでも伝えたいって、ずっと思ってたの」


嘘。そんなの嘘だよ。きれいごとに決まってる。ホントは、思いが通じればどんなにいいかって思ってた。十四郎と一緒に街を歩けたらって、乙女みたいな妄想抱いたりもした。初めて会えたときは、そのまま死んでもいいくらい嬉しかった。


「ごめんね」


涙をこらえるのに必死だった。ここで泣いたら十四郎が困るから。困らせたくなんてないから。泣きたくない、泣きたくないよ。十四郎はやっぱり少し困ったように、私の頭をなでてくれた。


そのとき、コンコン、とノックの音が聞こえた。後から明るい声で、新八でーす、と聞こえてくる。


「あ、はーい、どうぞー」


そう答えると、万事屋のみんながメロンを片手にぞろぞろと入ってきた。その中には、頭に包帯を巻いた銀さんの姿もある。…十四郎は立ち上がって、ドアのほうへと歩いていった。


「…じゃあな」
「うん、来てくれてありがと」
「お大事にな」
「うん…」


パタンとドアを閉めて出て行った十四郎。その背中には少しの気まずさが浮かんでいた。…当然だ、たった今女を振ったんだから。


さん、コレお見舞いのメロンですー」
「うん、ありがとう」
「今食べれます?僕きりますけど」
「じゃーお願いしようかな」


という私の言葉に、なぜか銀さんと神楽ちゃんが喜んだ。ってか、自分たち食べる気満々ですか。…でも、今回はみんなに、特に銀さんに助けられたし…それもいいかもね。私はメロンを切り分ける新八君をボーっと見ていた。


、調子はどうネ?」
「うん、だいぶいいよ。…それより、銀さんは…」
「銀ちゃんなら石頭だから全然平気ネ!」
「オメーが言うなよ。ま、今回は俺もオマエもかすり傷程度だってよ。明日には退院できんだろ」
「え、今日一日入院しなきゃいけないの?」
「いーだろー、タダで入院できんだから」
「え、…タダ?」
「真選組の金だよ。じゃねーとこんな個室はいれるわけねーだろーが」
「…そう、だよね」


真選組。そう聞いた瞬間、十四郎の背中がちらついた。また目の奥が熱くなる。…でも、今泣いたらみんなに心配かけちゃう。


「はい、メロンどうぞ」


新八くんが差し出してくれたメロンを受け取って、かぶりついた。食べてれば、ほかのことを考えずにすむから。


からからと響く万事屋の笑い声を聞きながら、私はメロンを口いっぱい頬張った。


2008.05.18 sunday From aki mikami.