Episode 25

他人のことの方がよく見える

Scene.1






あれからしばらくはそれはもうみんなに大袈裟に心配されてしまって、特に銀さんは私がスナックお登勢にバイトに呼ばれると仕事中に倒れたらどうすんだと喧嘩を売り、私が大丈夫だと言うと心配だからお店で待っているといい…っつーか、心配しすぎだっつーの!


そして今。私たちは久々に入った依頼、とある豪邸の雪掻きに来ている。かぶき町に積もるほど雪が降るのは珍しいんだそうで、当然除雪機などなく、すべてスコップの力仕事である。…で、過保護な銀さんがそんな作業を私にさせるわけもなく、私は一人庭で創作活動…だって、なんか銀さんが依頼人の目を楽しませるのも仕事だっていうから…。でも、ちょっと頑張りすぎたかな?


「うおぉぉぉ!!」


敷地内をグルッと回って帰ってきたみんなが、私の"作品"を見て唸りをあげた。


見たか、私の芸術センス!


私が作ったのは、かまくらサイズのお城。ふふーん、私、美術ずっと5だったもんねーん!


「お前…コレ一人で作ったわけ?」
「あたぼうよ!こちとら一匹狼の流浪のアーティストよ!」
「何ソレなんのキャラ!?っつーか全然流浪じゃねーじゃん!」
「細けェことグチグチ言ってんじゃねェよ。職人にゃ時に大胆さってのも必要だぜ」
「アレ!職人って言った!?職人って言ったよね今!?アーティストじゃなかったのねェ!?」
かっけー!私も作りたいアル!」
「よーしよし神楽ちゃん。弟子入りならまずはこの雪だるまからね」
「弟子ィィ!?弟子とっちゃうのコレェェェ!?」
「なんかもうキャラ変わってますね…」
「いやー、やっぱ私の才能爆発してるねコレ!」


こんな素晴らしいものオマエらにゃつくれねェだろー!ふふーん!


銀さんは私の作品を見ながら腕を組んで、あー、と唸った。


「いや、ぶっちゃけまだまだだな。俺ならもっとすげーの作れるよ」
「……………あァ?」
「ホラ、この辺とか雑じゃね?なんか模様がイマイチだしさァ」
「削るなァァァ!喧嘩売ってんのかコラァァ!」
「あとホラココにさァ、なんかこういうのついてなかった?」
「ギャアアアア!変なもんつけんなよォォォ!」
「もう、さんも銀さんもやめてくださいよ!依頼人の目を楽しませるんじゃなかったんですか!」
「だってよー、コレ俺なら100倍いいもの作ってやるぞー」
「んだとコラァァァァ!」
「やかましいわゴラァァァァ!」


Scene.2


あの後、結局商談をしていた依頼人に怒られ、でも相手方の人が私の作品を気に入ってくれたらしく給料を多めにいただいて万事屋に帰ってきた。そして、さっきから一言も口をきいていない、ききたくない。もう怒ったから!


さ~ん、仲直りしてくださいよもう」
「…しらない」
「小学生の喧嘩じゃないんですから。いつもみたいにさんが大人になればいいことじゃないですか」
「やだ。許せない。今度ばかりは絶対許せない!」
「うるせーやつだな。職人は細かいことは気にしねーんじゃねーのかよ」
「…………」
「アレェ!?ちゃんシカト!?ちょっとォォォ!」
「銀ちゃん、乙女心がわからないヤツは黙ってるヨロシ。はもう銀ちゃんとは話したくないネ」
「え、そうなの!?」
「銀さん、素直に謝ったらどうですか?」
「だって口も聞いてくれねェのにどうやって謝んだよ!」
「もうオマエらうるさい。全員夕飯抜き」
「ええええええ!!マジでェェェ!」
「なんで僕らまでェェェ!」
「謝れェェェ!謝れ天然パーマァァァァ!!頭をこすりつけて謝れェェェ!」
「オイオイ、何やってんだいアンタら」


と言う声に振り返ると、そこには呆れ顔のお登勢さん。あれェ、いつの間に。


「お登勢さん!いつからいたんですか!」
「いつからって、さっきチャイムならしたろーが」
「え、なった?」
「オメーら全員耳の穴詰まってんな。ホレ、回覧板。…にしてもなんだい、この騒ぎは」
「お登勢さん!聞いてくださいよもう!!!」


私は床に座る銀さんに膝蹴りを食らわしながらお登勢さんに駆け寄った。


「このバカがね!私が作った芸術をバカにするんですよ!挙げ句俺の方がうまく作れるとかいいだして!」
「あァ?芸術?」
「雪像です。今日雪掻きの依頼があったんで、そこで作って来たんですよ」
「ホー、雪像かィ。それいいかもねェ」
「「「「………………え?」」」」


なにが?と全員で振り返る。うわっ、銀さんと動きあっちゃったよ。


「かぶき町に雪が積もるなんて珍しいだろ?なんか祭りでもするかと思っていたところなんだが…雪像造りで雪祭ってのはどうだい?オマエたちもそこでどっちがうまく造れるかハッキリさせればいいじゃないか」
「それ、良案です!」


私よりうまく造れるってんならぜひそれを見せてもらえばいいんだ!なんでこんな簡単なこと思い付かなかったんだろう…!


「銀さん!私のお城よりうまく造れるんだよね?」
「お…オー!たりめーだろ!」
「じゃあ、どっちがグランプリとれるか勝負しようよ!」
「いやさん、どっちがって…他にも参加者…」
「上等だ!見てろよ、銀さんの芸術センスでグランプリはいただきだ!新八、神楽!の鼻をあかしてやろうぜ!」
「はー?何仲間引き込んでんのー?ちょっと卑怯なんじゃないのー?」
「うるせー!夕飯抜きの恨みだ!」
「男が細けーことでうだうだ言ってんじゃねーよ!んなだからオメーは万年金欠なんだよ!」
「バァカヤロォ!俺が金欠なのは金運の女神に見放されてるからだよ!」
「もっとダメじゃねーか!っつーか二人ともいい加減にしてくださいよ!近所迷惑ですよ!」
「…………それもそうだね」


なんかバカらしくなってきたし。…でも、ただやめるのはなんだか気が引けたので、私は和室からカバンを引っ張って来て、着替えとか歯ブラシとか財布とかを色々詰め込んだ。


「え…さん?」
ー、どこ行くアルか?」
「出てく」
「「えええええええ!」」
「おー、勝手にしろ!」
「え…出てくってどこに行くんですか…?」
「姉御のトコでも行くアルか?だったら私も行くアル!」
「いや、妙ちゃんは夜お仕事だからさァ。…そーだなー、真選組にでも泊めてもらおうかなァー」
「「「ええええええええええええ!!!」」」


銀さん以外の3人が大声をあげた。私はチラリと銀さんを見やる。…動じないフリしてるけど、汗が垂れてるよ汗が。


「ぎぎぎぎぎんさん!いいんですかちょっとォォォ!」
「大変ネ!が狼どもに食べられてしまうヨ!銀ちゃん、止めるネ!」
「…………」
「じゃ、さよーならー」


ホントは出てく気なんてまったくないんだけどね。まァホントに出てくことになったらリアルに真選組に泊めてもらうけど。…それにしても食べられるって…なんかヒドいこと言われてるよ真選組…。


扉をくぐり、階段をゆっくり降りる。時間は見て来なかったけど、たぶん6時すぎくらいだろう。さすがに冬だけあって、空は真っ暗だ。


…フラフラと、とりあえず屯所の方に向けて歩き出す。一応追いかけて来ることを期待してるんだけど…ホントに来てくれるだろうか。今さら心配になる。


銀さん、意地っ張りだからなァ。でも来てくれなかったらホントにショックだ。…こんなことする私がわるいんだけども。ってか、こんなにゆっくり歩いてるのに全然追いつかないし…ホントに、追いかけてくれないんだろうか。


空からは、フワリと雪が舞い降りる。…どうして雪って、こんなに切ないんだろうか。いつもならこんな風にならないのに、なんだかすごく泣きたくなる。


…やっぱり、帰ろうかな。


そう思ったとき、後ろからオーイ、と声が聞こえた。やっと来た!と思って振り返る…けど、それは銀さんじゃなくて…


「何してんだオイ」
「あ…十四郎…」


そこにいたのは何故か十四郎だった。他に誰がいると言うわけでもなく、煙草をふかしながら私を見下ろす。


「十四郎こそ何してんの?」
「パトロールだよ。最近ここいらで放火が流行ってやがるからな。で、オメーはなにやってんだ、んな大荷物抱えて」
「……えーっと…家出?」
「あァ?」
「オイコラ」


私達の会話を遮った感じの悪い声。二人で振り返ると、それはもう機嫌が悪そうな銀さんが立っている。


「お前らなにやってんの」
「あ?テメーこそ何しに来やがった」
「彼女迎えに来たに決まってんだろーが」
「えっ」
「帰るぞ」
「え、ちょ…!」


なんだかよくわからないけど、ものすごく強引に引っ張られる。十四郎があっけにとられた顔をしてたけど、私も結構あっけにとられてるよ。いきなり来て彼女迎えに来たって、そりゃあうれしいけど、さっきまで喧嘩してたのにさァ。


…ずんずん引っ張られて、結局万事屋まで帰って来た私達。腕がびりびりしびれている。


玄関をくぐったとき、さっきまであった新八くんと神楽ちゃんの靴が、どうしてかなくなっていた。


「…あれ、ふたり…」


そういえば、気配がしない。どうやら定春もいないみたいだ。どうして?そう思って銀さんを見上げた瞬間、ぐっと引き寄せられた。そして、乱暴に口をふさがれる。


「んっ…!」


突然のことに驚いて、銀さんを突っぱねようとするけど、強い力で抑えられて抵抗できない。それどころか身動きすら取れなくて、私はただ銀さんのされるがまま、口内を荒らす舌に黙って耐えていた。


やがて音を立てて唇が離れると、少しだけ息を乱した銀さんが目の前にいた。


「…な、なにを…」


銀さんよりずっと呼吸が整わない私は、切れ切れながらそうつぶやいた。すると、顔が私の肩にふわりと乗って、両腕が背中にまわされる。


「…俺、独占欲強いって言ったよな?」
「…」
「他の男のところいくなんて許さねーから」
「私も銀さんのこと許した覚えないんだけど」
「ソレはホントゴメン。んな怒ると思わなかったんだよ…ジョーダンのつもりだったの」
「……ジョーダンでもしていいことと悪いことがある」
「ホントゴメンって! …でもヨォ、頼むから出て行くとかそーいうの、やめてくれよ。…しかもお前真選組って…襲われたらどーすんの。アイツと一緒にいるのみて心臓止まるかと思ったぞ」
「襲わないよ十四郎は。銀さんじゃないんだから」
「いやいや、男はみんな狼だよお前。っつーかなにその言い草」
「…だって今襲ってるじゃん」
「いや、まァそれはさァ…なんつーの、俺達って…まだ一度も、ないじゃん?」
「…まァ」
「でさ、俺が頂く前に誰かに頂かれんのはいやだなー、と思って…さ」
「…なにそれ。残念ながら私処女じゃないよ」
「そーいうことじゃねーよ!つーか女の子がそういうこと言わないの!」
「だって…ホントのことだもん」
「だからさァ、そういうの関係なく…っつーか、そろそろ頂きたいんですけど!銀さん怪我治ったぞ!もういいだろ!」
「…もしかして、そのために新八君たち追い出した?」
「あ、ばれた?」
「…バカ」
「うっ…仕方ねーだろ!それに…あいつらのいる前では…謝りづらかったしな」
「……」
「ホント、ゴメン」


そういって、銀さんはかくん、と首を折った。…なんか、アレだけ怒っといて何だけど、そんな風に謝られるとちょっと申し訳ない感じがするなァ。


「…いいよ別に…謝ってくれるんなら、それで」
「よーし!じゃー仲直りな! ってことでいっただっきまーす!」
「え、ちょっと、やめっ、 ちょォォォォオオオオ!」


…そんなんで、結局頂かれてしまいました。明日仕事いけるかな…。


Scene.3


「今年の冬は異常気象だかなんだかしらないがねェ、とんでもない大雪に見舞われちまって江戸の町もどこを見ても真っ白さ。ついでに街ゆく連中どいつもこいつも青白いシケたツラして歩いてやがる。情けない話じゃないかィ。雨が降れば行水!槍が降ればバンブーダンス!どんな時も楽しむ余裕を忘れないのが江戸っ子の心意気ってもんだィ!!つーことで………第1回チキチキかぶき町雪祭り開催決定ぃぃぃぃ!!大雪なんざしゃらくせェってんでェ!江戸が一面雪に白く染まろうが私らがかぶき町のネオンで色とりどりに染め返しゃいい!喜びな、江戸にも一つ祭りが生まれたよ!」


たぶん私しか聞いてないけど、お登勢さんの開会宣言がその場に響いた。それにしても、第2回は期待出来るんだろうか?異常気象なら、このあとは二度と行われないんじゃないだろうか…。まァ何はともあれ、私は銀さんたちが作っている雪像をぼんやり眺めていた。…なんか、ろくでもないものに見えるんだけど。ちなみに私は、今回は遠慮させてもらうことにした。また喧嘩になったらイヤだな、と思って…。


「銀さーん、雪もってきました」


新八くんが、スコップで雪を押しながら戻ってきた。さァて、何を造るんだか。


「おう、そこ おいとけ」


銀さんの手の中には、雪だるまの頭的な丸い雪の塊。同じものが「万事屋銀ちゃん」と書かれた台座の上に乗っている。…ホント、何を造るんだアレ…。


「いや~みんなスゴイの作ってますよ雪像。」
「自分の店のPRも兼ねてるからな。かっこうの宣伝ってわけよ」
「でもやっぱり歓楽街ですね。いかがわしい雪像ばっか…まァかぶき町らしいっちゃらしいけど」


確かに…。何故かタオルで前を隠す女の人とか、明らかにマリリ〇モンローっぽいものとか。みんな頭ん中そんなんばっかかィ。


「僕ら万事屋は何をつく…」
「まァこんなトコか。あとは真ん中に棒を立てて…」


………………


棒?


「アニメ化飛ぶぅぅぅ!!」


新八くんが、左の玉を蹴っ飛ばした。…まァ、嫌な予感はしてたけどね。


「オイオイなにすんだお前は。俺がその左の玉つくるのにどれだけ苦労したかわかってんのかコラ」
「アンタこそ何考えてんだよ!周りのHなヤツに何も合わせなくても…」


いや、それHじゃなくて下品だから。周りのはセクシーだけど、それただの卑猥なものだから。っつーか何つーもん造ってんだよ。


「銀ちゃん棒できたヨ」
「きゃああああ!!何もってんの神楽ちゃん!」
「新八よォ、お前何?何を勘違いしてるかしらないけどよ、これアレだよ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だよ」
「アームストロング二回言ったよ!あるわけねーだろこんな卑猥な大砲!」


まったくだよ。なんだよあの形。たとえホントに実在する大砲でも完全にアレを模したとしか思えねーよ。気持ちワリーよ。


「アニメ化アニメ化って過敏になりすぎてんだよお前は、意識しすぎ。ったく思春期はエロい事ばっか考えてるから棒とか玉とかあればスグそっちに話もってくんだよ」
「マジキモイアル。しばらく私に話しかけないで」
「いや…だって明らかにおかしいよ、あれじゃないとしてさ、じゃあ一体何よソレ?」
「オイオイ何、オメーらも来てたの?」


みんなの会話を遮ったのは、煙草をくわえた長谷川さんだ。どうやら長谷川さんも参加してるのかな?


「あっ、長谷川さん、ちょっとォ、二人止めてくださいよ、とんでもないものをつくろうとしてるんです」
「なんだよオイ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか。完成度高けーなオイ」
「え゛え゛え゛え゛え゛!?なんでしってんの!?あんの?マジであんの!?僕だけしらないの!?」


いや、私も知らないよ。…まァ、私はこっちのことはあんまり知らないんだけども。


「江戸城の天守閣を吹き飛ばし江戸を開国させちまった戌威族の決戦兵器だ」
「何?こんなカッコ悪い大砲にやられたんですか僕らの国は!?」
「それよりアンタなんでこんなトコにいんだよ?」
「いや俺も個人参加で出場するんだよ。なんかグランプリとったら賞金でるらしいじゃん」


賞金かー。銀さんがやたら張り切ってると思ったら、そういうことだったのね。


…で、なんか敵状視察的な感じで長谷川さんのを見に行くことに。まァ、これ以下はないと思うんだけどね。


なんて失礼なことを思っていたら、実際に見た長谷川さんの作品に、新八くんと二人で驚いてしまった。


「うおぉぉぉぉ!!」
「なんスかコレェェェ!!なんかわかんないけどスゴイじゃないですかァァ!!」
「いやいや、そんなたいしたもんじゃねーよ。俺結構こり性だからさァ、止まらなくなっちゃって。タイトルは『飛翔』」


翼がはえた、美術の石膏像みたいな雪像。顔がマダオなのはアレだけど、でもなんかスゴイよ!これこそ完成度高けーよ!あ、でもこの体制アレだよね、グ〇コ。


ちなみに銀さんと神楽ちゃんは、しらー、みたいな目をしている。あァ、これ危険だよ、なんかやらかす目だよ。


「いやァ、スゴイですよ。これグランプリじゃないっスか?」
「へェースゲーなコレ何?アンタ自身がモデル?」
「ん?まァ愛情入れすぎて似てしまったというかなんというか」
「でもちょっとアンタにしちゃあ筋肉質すぎね?このへん削ぎ落とした方がいいな」


そういいながらどこからともなく持ってきた鉄のスコップで『飛翔』の左足の弁慶の泣き所あたりをぞりぞりそぎ落とす銀さん。あーあ。


「おいィィィ!!何してんのォォ!!ちょっとォ 勘弁してよ!スゲー微妙なバランスで立ってるからコレ!」
「あー、そういう所も似てるんだアンタに」
「オイ、マダオ。アレもマダオのと似てるアルか」


長谷川さんは無視して神楽ちゃんは雪像の前に回りこむ。そして、あの、真ん中あたりを、ええ、チョメチョメを指差しながらそんなことを言うもんだから、見ないようにしてたのに見ちゃうじゃないの。っつーかリアルにつくりすぎなんだよ。普通もっと誤魔化した感じじゃないの?


「コラァァァァ、ダメそんな所指さしたら!!」
「オイオイうちの神楽ちゃんに何汚ねーモン見せてくれてんの」
「まったくだわ」
「待て待て!あれは芸術的な意味でさ、ホラ美術の教科書とかでも裸丸出しで出てくんじゃん」
「猥褻物陳列罪以外の何物でもねーよ」
「アンタらだってさっき猥褻物つくってたでしょーが!!」
「そりゃそーだ」


なんていっていると、銀さんと神楽ちゃんがその辺の雪をかき集めて雪玉をつくり、マダオのナニにぶつけ始めた。


「クソがァァ、アニメ化の邪魔はさせねェェ!」
「おいィィィィ、どこに雪玉ぶつけてんだァァ!!」


っつーかアンタらのさっき作ってたのでもうヤバイからね。っつーかこの漫画アニメ化すんの?マジで?なーんて思っていると、ナニが雪玉でぽきんと折れてしまった。…うわっ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、俺のマダオ(まるでダンディーなおいなりさん)がァァ、もげっ…」


ドス


何の音かというと、折れたナニが悪そうなお兄さん(極悪興業と書いてある…)が作っている三味線をひいた舞妓さん雪像の頭にグッサリと刺さった音だ。…あーあー、やっちゃったよオイ。


「「刺さったァァァァ!!」」
「おんどりゃああ!!人の作品に何汚ねーモン刺してくれとんじゃああ!」


まったくだわ。頭からきのこ生えてる舞妓さんなんて気持ち悪いことこのうえない。でも悪いのは長谷川さんじゃないです、このバカ二人組みです。


「うわわっ、来たぞオイ!何とかしろオイ!」


長谷川が言うと、銀さんはマダオ雪像の足を思い切り蹴っ飛ばした。え、マジ!?なんて思ったのも束の間、そのまま足は折れ、極悪興業の方へ倒れて行く。


…これで一人、ライバルが減ったよ。そして、哀れな人が増えたよ。


取りあえず私は、みんなより一足早くそこを立ち去ることにした。だって、疲れるからね。


その後マダオの雪像がどうなったのかはわからないけど、とりあえず…


哀れ、マダオ。


Scene.4


猥褻雪像の前に戻ってくると、新八くんが飄々としている二人に言った。


「ちょっとォ、二人ともひどいっすよ、アレ、ワザとでしょ」
「ワザとじゃねーよ、アレだってほっといたらアニメ化飛ぶぜ」
「おめーらがつくってるモンもスレスレなんだよ!」
「それによォ、いくら頑張ったって結局俺達の作品がグランプリとるんだから」
「絶好の宣伝になるヨ。仕事もポイポイ入ってくるアル」


いや、どーかな。こんなもんつくってたら仕事0になるんじゃないだろうか。


「オイ、俺今スゲー事思いついた、翼つけよう翼」
「銀ちゃんスゲーな。なんでそんな発想ができるネ」
「いやなんかしらねーけどピンと来たピンと」


いや、パクリじゃん。…という突っ込みは、やめておく。めんどくさいし。っつーか、頭痛くなってきたんだけど。大丈夫なのかアンタらそれで。


「ん、貴様ら来ていたのか」


そんな声で全員振り返ると、そこには腕を組んだヅラが立っていた。…っつーか、またややこしいのが来たよ。被害者が一人増えたんじゃないのコレ。


「大方グランプリの賞金目当てというところか」
「桂さん」
「むっ、これはネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ではないか。完成度高けーなオイ」
「だからなんでしってるんだよ」
「別名「走る雷」バルカン戦役における惨劇「火の7日間」を引き起こした地獄の兵器だ」
「さっきと話違うんですけど」


新八くん、つっこむだけ無駄だ、もうやめようよ。でもツッコミ党の新八くんはつっこまずにはいられないんだよね。悲しい性だな…。


「ヅラ、お前なんでこんな所にいるアル?」
「息抜きに俺も参加していてな。どうだリーダー、ちょっと遊びに来んか」


……あれ、この流れ、いいの?なんか、破壊神GINTOKIと破壊神JrKAGURAが動き出しちゃうんじゃないのコレ。


なんて心配する私を無視して、みんなでヅラの雪像を見に行くことに。…なんだか、更に頭痛が増したような。っつーか気のせいじゃねーよ。わかりやすいよこの流れ!


ヅラの雪像は、エリーの形をしていて口から滑り台が出ている、公園の遊具みたいな雪像だった。


「うおおおおお!!スゴイ!!アミューズメント化してる!!」


という新八くんの反応とは裏腹に、破壊神二人はまた、しらー、って感じの目をしている。…ハーイ、スイッチ入りましたよー。


「こういうものは自己の創作欲を満たすため存在するのではない。子供達を楽しませるためにあると思わんか。いや、雪像だけではない。世の中というのは明日を生きる子供達のためにあるべきだ。俺達は未来を彼らにつなぐためにこの腐った世の中を正さねばなら…」
「なんですべり台から攘夷活動の話なんですか」
「とにかく俺は未来の鍵を握るおぬし達に期待している。ぜひ遊んでいってくれ」


その言葉と同時に、なんだかザク、ザク、と聞こえたと思ったら、神楽ちゃんがすべり台をロッククライミングの靴とスキーストックを持ってのぼっていく。


「リーダー遊び方違う」
「ロッククライミング的な」
「すべり台だぞそれは」


というヅラの言葉も聞かず、すべり台を上から滑り降りる。しかも、あの靴で。


「それですべるなァァ!!」
「オイ、ヅラ。これ階段どこにあんの?」


銀さんも負けじと、エリーの頭をロッククライミングでのぼっていく。…バカみたい。


「貴様等あくまでロッククライミング!?明らかに階段途中まであがった形跡があるだろーが!!」


かわいそうなヅラ。でもヅラがつっこむところなんてなかなか見れないから、ソレはそれでおっけー。


「あーあ、すべり台がキズだらけ スグにみがくんだ、急…ん!?」


まるでタイミングを計ったように(測ったんだろうけど)、銀さんが神楽ちゃんをひざに乗せながら滑り台を滑り降りてくる。うわ、あっぶねェ、と思ったけど、その辺は流石狂乱の貴公子と言ったところか。片手をすべり台の縁について飛びのいた。


「貴様らァァ!!さてはグランプリを狙うため俺を蹴落とす気か!!そう簡単にいくかァァ!!」


いや、気づくのおせーよ。私は最初から気づいてたよ。こいつら賞金のことしか頭にないからね。


ヅラがひらりとすべり台の上に舞い降りる。…けど、その瞬間。


ピシシ ゴドン ドォン


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


すべり台、折れました。


…アレ?コレヅラがやったんだよね?自業自得っぽいよね?確かに原因は破壊神が作ったけど、コレ直接壊したのは自分だよね?いいのコレ?こんな流れでいいの?


「…ま、いっか」


考えるのめんどくさいし。銀魂だからなんでもありなんだよー。はい、しゅーりょー。…ってことで、私はまたさっさと戻ることにした。だって考えるのめんどくさいからね。


その後ヅラの雪像がどうなったのかはわからないけど、とりあえず…


哀れ、ヅラ。


Scene.5


「…オイ、コレスゴクね?」


と銀さんが言ったネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲には、明らかにどこかからパクって来た翼とすべり台がついていた。っつーか、いいものといいものあわせたらもっといいものになるって言うバカの考えだよ、それ。お前の問題は技術力ではなくそのセンスのなさだよ。


「お前もしかして天才じゃね?普通すべり台つけようなんて思いつく?」
「よくわかんないけどフッと降りてきたネ。インポテーションネ」
「インスピレーションね。こりゃもうアニメ化完璧ないな」
「アラ」


全く誰だよこのタイミングに。…と思って振り返ると、そこにはさっちゃんが。あらまァ。次の餌食はさっちゃんかな?


「銀さん来てたの、奇遇ね。言っとくけど私知らなかったから。別に追いかけて来たとかじゃなくてたまたま」
「誰も聞いてませんよさっちゃんさん」


ちょ、新八くん、その目はダメだよ。破壊神の目だよソレは。


「アラ?ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃない。完成度高けーなオイ」
「もう原型ねーのになんでわかるんだよ!」
「惑星ツェーザンとキャーシャーンの星間戦争においてツェーザン側を勝利に導いたメソッド砲とは裏腹にずっと倉庫に入れられっぱなしだった悲しき兵器よ」
「どーでもいいし長げーよ!!」


確かに。っつーか色々やべーよその話。そこでアニメ化とぶって、マジで。


「…ひょっとしてさっちゃんさんもなんかつくってんですか?」


という新八くんは、やっぱり破壊神の目をしている。というか、新八くん、さっちゃん苦手なのかな?


「いや、別にたいしたものは」
「…なんかあそこに明らかにアンタがつくったとしか思えない代物があるんですけど」


といった先には、なんか明らかにさっちゃんがつくった、どう見ても銀さんとしか思えない雪像。っつーか、なにアレ。足長ッ!


「違うの、ア…アレは銀さんじゃないの。あの、集英社並びに作者とは一切関係ない代物なの」
「なんか異様に足長いアル。銀ちゃんもっと短いヨ」
「ああ、ちょっと幻想入っちゃってますね。幻想っつーか長過ぎてキモいんですけど」
「いやこんなモンだろ、スゲーなオイそっくりじゃねーか。コレグランプリいったんじゃね?さすがに俺もコレは壊せねーわ」


いやバカじゃねーの?どんだけ自分好きなんだよ。…それとも好きなのはさっちゃんか?彼女差し置いてさっちゃんが好きってかコノヤロー!!と思っていたら、新八くんに怖い、といわれた。…そうかなァ?


「え?ウソ、ほめてくれるの?」
「ほめるも何も俺は思った事を言ったまでよ」
「私としてはもう15センチ位足のばしたかったんだけど」
「いや逆にこれ位おさえてた方が逆にリアルだろ」
「逆にって2回言って元に戻ってますけど。 この不自然な手は何なんですか?」


なんか、微妙に広げて、…なんだこの格好は。雪でも待ってんのか?あー、なんかもう頭も痛いし、イライラしてきたぞコノヤロー!


「あ、コレはアレ」


そういって、さっちゃんは雪像の腕に乗っかった。その、なんてーの、お姫様だっこ的な?


「こうやって、コレで完せ…」


ドゴッ ドン ゴロゴロ げぶっ


「ぎゃああ!!何してんのお前ェ!」


さっちゃんが乗っかったせいで雪像の腕がぽっきり折れてしまった。そしてさっちゃんはその衝撃でゴロゴロ転がり、私の目の前に眼鏡が転がってきた。…銀さんは直せ、とか言ってるけど…


この眼鏡がないと、きっと直せないよね?(ニヤリ)


「銀さんの手がァァ!早く直して!早く直して!」
「ごめんなさい、あっ、眼鏡が…」


さっちゃんはそういうと、折れた銀さんの手を持って走り出す。


「早くつけなきゃ!」


いや、どっちに向かってるんだよ。やっぱりさっちゃんは眼鏡がないと、色々とダメですね。うん。そして走っていった先には人が…って、アレはもしや…!


ムニ


と、銀さんの腕(雪)が当たったのは、なんと歩いていた妙ちゃんの胸だった。…コレって、とてもまずくない?


「なに」


にっこり、妙ちゃんが笑った。ありゃりゃ、コレはヤバイヨちょっと…


「すんだこのスケベ野郎ォォ!!」
「なんで俺ェェェ!!」
「アラ変…なんだか銀さんにさわられた気がしたから~ゴメンナサイ」


…やっぱ、妙ちゃん強いなァ。吹っ飛ばされた銀さんは完全に伸びてしまっている。ちなみにさっちゃんはなんか違う雪像を銀さんと勘違いしているみたいだ。

「姉上、なんでここに?」
「ええ、私の店も作品を出すって言うからお手伝いに」


というと、妙ちゃんはさっちゃんの銀さん雪像に視線をやった。


「アラ、コレネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃない。完成度高けーなオイ」
「違うから!明らかに違うよねコレ!」
「バカヅラさげてホントしょーもないアームストロングね」
「何!?結局なんなのアームストロング砲!!」
「それよりせっかくだから見ていって新ちゃん。私達の作品けっこうこってるのよ~」


いや結局それだよね。アームストロングはそこに行き着くまでの前フリだよね。まァ、いいけどね。妙ちゃんたちが作った雪像なら私もぜひ見たいし。


…てことで見せられたスナックすまいるの雪像は、それはもう巨大な、なんかこう、お城的なものだった。っつーかこれもう雪像じゃないよ。


流石の銀さんと神楽ちゃんもコレには真っ青。新八くんもスゴク変な顔でびっくりしている。


「どォ?けっこうスゴイでしょ。女の子ばかりだけどみんな結構前からお勤めが終わった後に集まってコツコツつくってたの~。すべり台もあるし氷像なんかもあるのよ~。あ、でもアレはあまり出来が良くないんだけどね。でもグランプリは無理そうね。みんなスゴイこった物をつくっていたもの。どうやってつくったのかしら。あっ、そうだ。万事屋は一体どんなものをつくったの~?」
「ん?あの…アレだよ」
「マ…マスコットキャラ的な」


妙ちゃんの質問に、なんかごもごも答える二人。…うん、わかるよ、恥ずかしくなったんだよね、言いたくないよね。


「あ、じゃあ定春くん?」
「違いますよ。なんか猥褻物陳列してました」
「え?何?部屋とYシャツと私?」
「(俺達今まで何をやってたの!?ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲って何!?あんなもんただの猥褻物じゃねーか)」
「あ、本音言っちゃったよついに」
「つーか心の声じゃないの?聞こえてるよバッチリ」
「(あれじゃあグランプリどころか参加賞も… ………帰ろう。恥をかく前にこんな所…)」
「いやだから聞こえてるっつーの」
「アラどこいくの?ちょっとアレ、あの雪像見て、とっても苦労してつくっ… きゃああ!!」


逃げる銀さんたちを振り返った妙ちゃんが、叫び声をあげた。その声にみんなで振り返ると、そこにはアハン、な雪像があって、頭に明らかになんかおかしなものが刺さっている。


「何アレ!?雪像に変なモノが!」


変なものっつーか、アレは明らかにアレだよね、マダオ。


「フハハハハハ、なーにがグランプリだァ!!そんなもんなァ、雪像壊しちまえば元も子もなくなっちまうんだよ!」


黒い布を頭に被ったマダオが、たくさんのマダオを荷車に積んでやってきた。っつーかなにあれ。もうなんか完全におかしくなっちゃったよ。


「どーせ雪なんて時間がたてばとけちまうんだよ!!だったら今消えろォォ!!全て消えろォォ!」
「キャアアアア、何アレ変態よ!!」


雪像という雪像全てにマダオを投げつけるマダオ。いやいや、猥褻物陳列罪だよアレこそ。最低だよ!


「みんなァァ、雪像を護ってェ!!私達の汗と涙の結晶をを!!」


と誰かが言った瞬間、近くの雪像がドォン、と爆発した。えェ、爆発!?


「何を無駄なことを!すべり台なんてつくったってなァ、そんなモン誰がすべるかァァ!!」


そういって現れたのは、巨大ハンマーを振り回したヅラだった。同じように黒い布を頭から被っている。っつーかお前ら、示し合わせたのか?


「この街にいるのはすれた大人にひねたガキだけではないかァ!!すべり台なんてなくなってしまえばいいんだ!世界中のすべり台全部折れろォ!!」


いやアンタが今破壊してるのはすべり台じゃないからね。普通の雪像だからねソレ。


バカの乱入で、会場はもうめちゃくちゃ。祭りどころじゃないなコレは。と思ったら、今度はなんと妙ちゃんが、亀の氷像を持ち上げながら怒り狂っている。


「ふざけんじゃないわよォォ!絶対グランプリはとる!!ハーゲンダッツ100個みんなで山分けって約束したじゃないィィィィ!!」
「絶対グランプリとるってそれ私達がつくった氷像…」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


え、それ投げるの!?投げちゃうのソレ!?っつーか持ち上げられるのソレスゴクね!?なんて思っていると、私の後ろで、銀さんが小さく「………ハーゲンダッツ」とつぶやいた。…あ、コレヤバイ。非難しよーっと。


「グランプリ?…ハーゲンダッツ?オイオイオイ冗談だろ。こっちはお前賞金がたんまり出るっつーから寒い中あくせく働いてたっつーのに」


自分達が作っていた棒(神楽ちゃんが)と玉(銀さんが)を持って走り出す。そして私はお登勢さんの隣まで非難。これでよし!取りあえず目先の危険は回避した!


「腐れババアァァァァ!!人のことたぶらかしやがってェェェェ!!」
「なめんのも大概にせーよ!!」


全然関係ない人たちにつっこんでいく破壊神もといバカ二人。そして、会場は私の予想通り、大喧嘩大会になるのでした。…まったく、期待を裏切らなくてうれしーわ。ウソ、全然うれしくねーよこのバカどもが!!あー、頭が痛いわァ。


「お…お登勢さん…こ…これって…みんな何やってたんでしたっけ。ゆ…雪合戦大会とかでしたっけ?」


雪に埋もれた新八くんが、そうお登勢さんに言った。お登勢さんは煙を吐き出しながら、楽しそうに笑う。


「んにゃ。 …祭りだよ」


祭り、ねェ。コレもう喧嘩祭りだよね。まァなんかみんな楽しそうだし、いいけどね。かぶき町らしいといえばらしいし。


…それにしても、さっきから頭がガンガンする。普段より頭痛がヒドイ。しかも頭がくらくらする。頭が痛くなると体の調子まで悪くなるってのはよくあることなんだけど…。


「…さん?」


雪の中から起き上がった新八くんが、私の異変に気がついたらしく、心配そうに声をかけた。私は大丈夫と答えて立ち上がる。ココよりも、むこうの方が静かだと思ったから。


…けど、そこまでいくことはかなわなかった。


立ち上がった瞬間に、足の力が抜けるのを感じた。そこからどうなるのかわかっていても、身体に力が入らなくて、止めることが出来なかった。


さん!!」
!」


新八くんとお登勢さんが叫んだのが聞こえる。…すぐ近くにいるはずなのに、声が遠い。


「っ、!!」


銀さん。


銀さんが私を呼ぶ声を聞きながら、私は意識を手放した。


2008.07.05 saturday From aki mikami.