思うことが大切なこともある
Scene.1
潮のにおいがする無気味に静かな漁港に、一層の船が停まっていた。…見たこともない、真っ黒く大きな船。
「この中に、高杉が…」
無意識に、拳に力が入る。これから私が戦うのは、銀さんをあそこまで傷つけた高杉、そして自分自身。…不安がない、と言ったら嘘になる。
それでも。
「緊張してんですかィ、姐さん?らしくねェ」
「おめーは少しは緊張感を持ったほうがいいぞ」
「土方は少しは空気を読めるようになったほうがいいですぜィ」
「んだとォォォ!」
「やめろトシ、総悟!ったくお前らは本当に緊張感がないな!」
「こんなときにお妙さんの写真見てるあんたに言われたくないんだけどォォォ!!」
「これはあれだ、誓いの儀式だ!俺はお妙さんのために頑張ってきます!っていう」
「姉御的にはいらねェ誓いでしょうけどねィ」
「んだとォォォ!!」
「はいはーい、漫才はそのへんにしようねー」
誰かが一緒にいるってだけで、こんなに心強い。頑張ろうっていう気になれる。
「よし、乗り込むぞ。一番隊と二番隊は俺らについて来い。三番隊と四番隊は入り口を、五番隊六番隊は周囲を固めろ。残ったやつは俺らの援護だ」
「全員持ち場に着け!」
近藤さんの一言で全員が行動を開始する。…流石局長というべきか。普段はゴリラとか言われていても、みんなが彼を慕って集まってるってのがよくわかる。
先陣を切る総悟たち一番隊より少し下がって、私と近藤さんと十四郎がついていく。普段と打って変わって物々しい雰囲気が、これから私達がする事の大きさを実感させる。
たとえ刀を握っていても私は無力なんだと痛感する。でも、無力でも何でもやらなきゃいけないんだ。
これからのために。
総悟が十四郎と近藤さんを振り返って、小さく頷いた。…いよいよ突入だ。場の空気がピンと張り詰める。
総悟が入り口を蹴飛ばしたのを合図に、全員で中に雪崩込む。私も震える手でなんとか刀を握って、俯きそうになる顔を上げる。
その瞬間、思わず呼吸を止めた。
「っ…何、これ…」
そこは、信じられないほどがらんとしていた。
普通、船って言うのは廊下があって、小部屋があって、動力部があって、とにかく、いくつもの部屋に分かれているものじゃないの?私の記憶にある船というものを覆すような光景。
まったく、何もない。
部屋も、廊下も、窓も。あるのは真っ暗な天井だけ。ぽっかりと吸い込まれそうな闇が、頭上で口をあけている。光は私達が入ってきたドアからだけ。
「…どーいうこった…こりゃ」
十四郎がそうつぶやいた。状況がのみこめない。何が起こってるの?大体…
高杉は、どこ?
「――――――遅かったなァ」
暗闇に、よく通る声が響いた。
「待ちくたびれたぜ…」
「高杉ッ!」
暗い闇の中に、ただ声だけが響く。前から聞こえるのはわかったけど、正確な距離までは測れなかった。
「高杉晋助、真選組だ!神妙にお縄につけェ!」
「今日はお前らに用はねェ。…をここまで連れてきてくれたのには、一応感謝しておくがな」
「残念だったなァ高杉。姐さんには指一本触れさせねェ」
そういって、私の前に立った総悟。すると他のみんなも、同じようにして私を囲んでくれる。…そんな中で、高杉の低い笑い声がやけに近くで響いた。
「…、触れさせねェってよォ…いいのか?返してほしいんだろ…お前の記憶を」
「ッ!やっぱり!」
「ああ、期待通り、俺が持ってる。…だが、お前はこれを、本当に取り戻したいのか…?」
高杉の言葉に、思わず言い返す言葉が止まった。…そうだ。高杉は、私の過去がどんなものかを知っている。……急に、怖くなった。
「…お前がどうしても取り戻したいと言うなら…俺が教えてやらんでもないがなァ」
その言葉と共に、静かに近づいてくる足音。私は精一杯、刀を握る手に力を込めた。
「…お前は親に嫌われていた。それはお前が女だったからだ。家を継ぐことができない女のお前は、生まれたときから邪険に扱われてきた」
闇の中から現れた高杉は、不適に笑みを浮かべていた。総悟が刀を構えなおしたけど、思わず腕をつかんで引き止める。
手が、震える。
「お前は気に入られるために必死になった。だが受け入れられることはなかった。…家を追い出され、縁も切られた。そしてお前はショックのあまり自ら命を絶った」
「ッ…」
「つまりお前は、親を…世界を恨みながら死んでいった」
「うそ……」
「…嘘だと思うか?」
高杉が、笑みを濃くして私を見据えた。
「ちゃん…奴の言うことに惑わされるな」
「そうだ、しっかりしやがれッ」
みんなの言葉が、右から左へと抜けていく。高杉の言葉が頭に木霊する。
親を…世界を…
恨みながら?
「………違う」
そうじゃない。
「…そんなことない」
「姐さん?」
「…」
十四郎が覗き込んでくる。私は高杉に視線を合わせて、声を張り上げた。
「違う!絶対違う!」
「随分自信がありそうだな」
「……自信なんかないけど…そんな気がするの」
「曖昧な話だ。…まァ、記憶がないならそんなもんか」
そういって、懐から煙管を取り出した高杉。そのゆっくりした動作を見つめながら、出来るだけ静かに深呼吸を繰り返す。…動揺を、高杉に悟られないように。
「お前の言うとおり、今のは嘘だ」
「……は?」
「軽い冗談だ」
「じょ、冗談って…!」
「高杉テメェ、俺らをおちょくってんのか」
「おちょくってるか。半分はそうかもなァ。…だが今のでよくわかった」
「…え」
「動揺するってことは、思い当たるところもあるってことだ」
「ッ!」
「記憶がねェって言っても…完全に全てがなくなったわけじゃねーからなァ。漠然と、お前がずっと一人だったってことくらいは覚えてるだろ」
「それは…」
「教えてやろうか?お前のホントの過去をよォ…」
そういって、高杉がまた一歩前へ踏み出す。…その目は、まるで私を追い詰めるのを楽しんでいるような、好奇の目。
「…ッ」
何でも受け入れる覚悟で来たはずなのに。
ここまで来て、身体が震える。
何かを恨むなんて気持ち、私は知らない。でも、もしそれを知ってしまって、私は私のままでいられる?今までどおりでいられるの?
「これが、お前の記憶だ」
高杉の手の中には、淡く光る小さな水晶球。
「前に俺が言った言葉…覚えてるか?」
「え?」
「お前は俺の所有物になる。…お前は俺の苦しみを知っている。世界を恨む気持ちを持っている。…だからお前は、俺の元にやってくる」
「…そんな、こと……」
「あるわけない、と思うか?」
「そ、それは…」
あるわけがないと、否定しきれればよかったのに。…そうできないのは、さっきの話を聞いてしまったから?
怖い。
怖いよ銀さん。
せっかくここまで来たのに。
銀さんの所に帰るために、頑張ったのに。
銀さん。
「…今さらアイツに助けを求めるか?」
「ッ!!」
私の心を読み取ったように高杉が言った。顔を上げると、さっきまでの余裕の笑みを少しだけ崩した高杉。…アイツと言うのはやっぱり、銀さんのことだ。
「。お前がアイツを連れてこないのは計算のうちだ。…あんなことがあった後だ。俺とアイツを会わせたくないと思うのが普通だろうからな。…なのに、今さらアイツを頼るなんざ…随分と都合がいいじゃねーか」
「ッ…うるさい!」
「まァ人間なんてのはどいつも自分のことしか考えちゃいねェがな。…お前だってそうだろ?アイツを巻き込みたくないってのは建前で…本当は自分が死んだ理由を知られたくなかったんだろう。だからアイツを突き放した」
「違ッ」
「親に嫌われてたなんて知られたくねーわなァ。…結局テメーのためだってわけだ」
「違う!!」
ドォンッ!!
私の声に被せるように天井から大きな破壊音がした。瓦礫が私と高杉の間に落下してきて、白い煙がもくもくと上がる。咳き込みながら上を見ると、そこには青い空が広がっている。
「オイオイ、言葉攻めは結構だがな。あんま責めすぎると嫌われるぜ」
ピィンと張り詰めた空間に、気の抜けた声が響いた。…その声は、この場にあっちゃいけない声。でも、私がずっと聞きたかった声。求めていた声。
「…なァ、高杉よォ」
「っ…銀、さん…!」
白い煙の中から現れた銀さん。その目はまっすぐに高杉を見据えている。
「ホアチャァァアアアア!!!」
「うわァァァァァ!!!」
そんな大声と共に、天井の穴から降りてくる神楽ちゃんと、それにしがみついている新八くん。…ものすごい音を立てて着地すると、真選組のみんなも呆気に取られて何もいえなくなった。
…どうして。
どうしてここにいるの?だってこの時間、銀さんなんてまだ寝てる時間じゃないの?ってそうじゃなくて。
銀さんが急にこっちを振りかえる。ずかずかと歩み寄ってきて、周りを固める真選組の人を突き飛ばして、私の正面に立つ。…その目は、まっすぐに私を見据えている。
何か言おうと思うのに、声が出ない。銀さんも何も言わない。…あたりが静寂に包まれたとき、銀さんがゆっくりと右手を上げた。
その手が、私の頬をピシリと叩いた。
「ッ、万事屋!」
「旦那ッ…」
「銀ちゃん…!!!」
「銀さん何をッ…!」
みんなが口々に言うのを聞きながら、私は自分の手を叩かれた頬に添えた。
「……な」
なんで。そんな簡単な言葉も出てこなかった。
状況が飲み込めなくて。頭が混乱して。
「…ずっと思ってた。会ったら一発殴ってやろうって」
静かな声でそういった銀さんの目は、どこかきらめいていた。
「お妙に聞いた。お前の覚悟は相当なもんだって。…んなことはわかってんだよ。お前は泣き虫で、一人になるのが大嫌いで…そんなんだから、お前が出ていくなんて相当なことだってな」
何もない空間のせいだろうか。静かな言葉はやけに響いて、私の心に届く。…そのたびに、ちくりと胸が痛んだ。
「お前が何を考えたのかはわかる。…俺とアイツをあわせたくないってそう思ったんだろ。俺を…傷つけたくないって思ったんだろ。…けどな、んなことは余計なお世話なんだよ」
「ッ、そんな!」
「お前が俺を傷つけたくないと思うように、俺だってお前を傷つけたかねーんだよ!!」
「ッ…!」
「お前だけが俺のことを考えてると思ったら大間違いなんだよ!大体俺を傷つけたくないと思うんなら、記憶がなくなろうが傷つこうが天変地異が起ころうが何しようが、どんなことがあっても俺のそばにいやがれってんだ!」
「…銀さん」
「もう誰かを失うのは御免なんだよ…」
いつも気丈な銀さんの声が、頼りなげに震えている。さっき私を殴った手が、優しく身体を包み込む。
「……ゴメン、ネ」
ごめんね。ごめんね銀さん。
「ごめんなさい」
銀さんをこんなに追い詰めて、苦しめて。銀さんのためにって思ってしたことなのに、全然銀さんのためになってなかったんだ。
「…お前を信じてないわけじゃねェ。お前がいってきますって言ったってことは、必ず帰ってくるってことだ。……だからこれは、俺のわがままだ。…一人じゃいかせねェ」
「銀さん」
「お前の行くところならどこへだってついてってやる。お前が苦しいなら俺も一緒に苦しんでやらァ」
温もりが離れて、私に背を向けた。…その視線の先には、不敵に笑う高杉。
「…っつーわけだ。ラブラブカップルの邪魔するオメーみてェな奴は、この俺が退治してやらァ」
「くだらねェ。…いつまでそんなことが言ってられる?」
「いつまでだって言ってやるよ」
「…そいつは…人殺しだ」
「え?」
今、なんていった?そいつは…
人 殺 し ?
「なッ…何を…!」
「…家を継ぐことができない女のお前は、生まれたときから邪険に扱われ、虐待されて、それでもお前は親に気に入られたかった。だが、それを世間が保護だなんだと言って引き離した。そうして親戚に引き取られたが、そこでもお前に居場所はなかった」
「ッ、高杉ッ」
「お前の親はお前のことがきっかけで世間から蔑まれ、ノイローゼになった。…お前は世間を憎んだ。自分と親を引き離し、親を蔑んだ世間を。だがお前の親は世間ではなくお前を憎んだ。…ある日お前の親はお前を殺しに来たが、お前は恐怖心からそんな親を」
「やめて!」
「高杉、テメェ!」
「俺は真実を述べてるだけだ。…お前がこれから受け入れようとしている真実の記憶をな」
手が震える。足に力が入らない。…今の話が本当なんだと、わずかに残る記憶が告げている。
急に頭が重くなった。立っていられなくて床に膝を着くと、確かに触れているはずの足が、かすれて殆んど見えなくなっている。…心に負荷がかかってるからだ。しっかりしないと消えちゃう。…そう思うのに。高杉の話が本当だとわかるから、正常でなんていられない。
私は知っている。"ただの人殺し"を。
私の知ってる人殺しは…
私、自身?
『しっかりしろよッ』
そんな声がどこからともなく響いたと思ったら、何かがものすごい速さで駆け抜け、高杉の手から水晶球を弾き飛ばした。上空に舞い上がり落下してきたそれを、新八くんがあわててキャッチする。
『どうせ消えるんなら記憶も全部受け入れてから消えやがれ!』
「っ…!おっさん!」
現れたのは、私をこの世界に送ったあのおっさんだった。…どうして。私と銀さんの前にしか出て来れないんじゃないの?
「おっさん!アンタなんで…!」
「おっさんって言うなクソ天パ!」
「おっさん!私と銀さんにしか会えないんじゃ…!」
「オメーらがもどかしいから掟破っちまったよ!こりゃ懲戒決定だな」
「そんなッ…」
「ホントありえねーよ。たかが人間一人のためにここまで…ったくよォ。エリートコース驀進中の俺の経歴になんて傷残してくれんだよ。この礼は後でたっぷりもらうからな」
おっさんがそういうと、新八くんの手の中の水晶が淡く光を放つ。その光が薄れていったかと思うと、同時にまるで打ち抜かれたかのような頭痛が襲ってくる。そして、知らない映像が次々と頭に流れ込んでくる。
お前なんていらない大好きどうしてこんなことしたの必要ない何考えてるの 最低な子供寂しい出て行け暗くて怖いあいつさえいなくなれば愛なんてない生まれてこなければよかったそれでも好き憎い なんで意味ないよせめてそばにいさせて大嫌い本当はお前なんてこのままでみんな平等に愛を
殺してやる
「ッ、あああああああああッ!!」
「姐さん!」
「!!」
「さん!」
「ッ!!」
「ちゃん!」
みんなの声にも答えずに、無我夢中で叫んだ。頭の中がグチャグチャで、どうしようもない圧迫感と吐き気に襲われた。今すぐ頭を叩き割ってしまいたい。死にたい。そんな衝動が心のそこからわいてくる。そして同時に、全てを壊してしまいたいと思う。この世界も人も大地も何もかも。全て、私さえも壊れてしまえばいいのに。苦しいだけなら全部、全部。
……
真っ暗になった世界に、たった一つだけ、声が響いた。
その声は優しく私を呼んでいる。
愛してる
甘く、ささやくような声。
「…ホ…ント?」
ホントだよ
声はそう答えた。
だから…顔上げろ
優しいその声に導かれるように、ゆっくりと顔を上げる。
…そこには、穏やかに微笑む銀さんの顔。
「…ぎ、んさん…」
いつの間にか、銀さんの手が優しく頭を撫でていた。
「俺は、お前が好きだよ」
「…」
「何があろうと、俺はずっとお前を好きでいる」
「そんなこと…できるの?」
「出来る」
「私が…親に殺されるような子供でも?」
「お前にどんな過去があろうと…俺はありのままのお前が好きだよ。…俺だけじゃない。コイツらもな」
振りかえると、みんなが優しく微笑んでいる。…都合がいいかもしれないけど、その笑顔が大好きだよと、言ってくれてるような気がする。
「お前が俺らを好きな分だけ…俺らはお前が好きなんだよ」
「…好き?」
「もちろん、好きですよ!」
「大好きネ!」
「俺も、お妙さんの次に好きだぞ!」
「いじめ甲斐があって好きですぜィ」
「…当たり前のこと聞くんじゃねーよ」
「…みんな」
それは上辺だけの言葉じゃない。私の目をまっすぐ見据えて言ってくれた言葉。私の心に、まっすぐに投げかけてくれた言葉。…だからだろうか、こんなにもうれしくて、切なくて、…涙が出る。
私は今、こんなにも愛されてる。
「…オイオイ、茶番はその辺にしろ」
突然しゃべりだした高杉の冷たい声に、肩が飛び跳ねた。銀さんが背中に私をかばう。
「…お前は今感じたはずだ。世界なんざ、いや、この世の全て壊れてしまえばいいと」
「ッ!」
「愛だの恋だの…そんなもんはいつか壊れちまう幻想だ。…だがお前のその感情は、憎しみはお前の中に確かにある、確かな感情だ」
「…」
「壊してェだろ、お前から親を奪った世界を。お前を苦しめた全てを。…俺と共にいれば、それが叶うんだぜ」
「……それは」
確かに、感じる。
世間に、世界に対する憎しみ。自分に対する怨嗟。何もかも壊してしまいたい感覚。
「俺と来い」
片目しか見えない高杉の目が、鋭い光を放って私を射抜いた。
確かに、高杉は私と同じ感情を持っている。
細かな事情は知らないけど、大切な恩師を、世界に奪われたのだ。
私も、大切な親を、世間に奪われた。
大切なものを奪った全てを本当に壊せたら、どれだけいいか。
彼といればそれが叶う。
……だけど。
「…高杉が、私を仲間にしたい気持ちはわかる」
「?」
「…きっと高杉は、私と同じ…もしかしたら、それよりもっと深い傷を持ってるのかもしれない」
「…」
「だけど」
ここには大切なものができすぎた
みんながバラバラになるのはイヤです
私、にはずっといてほしいネ
…私はそれを待ってるわ
何も怖がることはないさ
オメーが幸せなら、それでいいけどな
泣くのが正解なときもあるってことでさァ
愛してる
「私のことを好きでいてくれる人たちが…大切な人たちが、いるから。そんな人たちを、失うのはイヤだから。…傷つけるなんてこと、したくないから」
だから。
「貴方とはいけないよ、高杉」
大切な人たちのために。世界を壊すわけにはいかないから。
高杉は私の言葉を黙って聞いていた。…話し終わると、顔を俯けて、低く、小さな笑いを漏らす。
「…ま、こうなると思っていたぜ。…お前は甘っちょろいからな」
「だったら、なんで…」
「さあな。 …単なる気まぐれだ」
「気まぐれ?」
「そのうちお前も壊してやるよ。…お前の言う大切な人たちすらもわからなくなるほどにな」
「残念だがそんな機会は訪れねェ。オメーは今ここで俺達に捕まるんだからな!」
十四郎のそんな言葉を合図に真選組が高杉に斬りかかる。その瞬間に突然あたりが光で包まれ、思わず硬く目をつぶって銀さんにしがみつく。
光の中で、高杉の低い声が聞こえた。
『いつか必ず手に入れてやるよ。…お前を、壊してな』
アトガキ。
うわー。なんか高杉→ヒロインに…。最初はそんなつもりなかったのになァ。気がついたらそんなことになってしまいました。小説を書いていると、最初考えていた設定を離れて話がどんどん違う方向へ動いていくことがあります。不思議ですねェ。
さて、結局高杉とは一度も剣を交えることなく終わりました。今回はヒロインの気持ちがメインだったので、戦いとかどうでもよかったのです。↑の後、高杉は忽然と姿を消していて、後には船だけが残る…という感じです。まァ詳しいことは次回の最終話で。
今回書きたかったのは、ヒロインの気持ちも勿論ありますが、銀さんの気持ち、ってのもあります。「もう誰かを失うのは御免なんだよ」とか、「だからこれは、俺のわがままだ。…一人じゃいかせねェ」とかです。前者のほうはもう読んだまま。銀さんは仲間を大切にしているので、ヒロインを"仲間"にさせるためにもぜひとも言わせたかったのです。
で、後者が、これはうまく表現できたのかかなり微妙なんですが、要するに人間は相思相愛とか言っても、自分の気持ちを一方的に押し付けるしか出来なくて、お互いの気持ちが重なったときに、それは押し付けじゃなくなるんだと思うんです。そんな、矛盾みたいなものを表現したかったのと、後は、妙ちゃんは「信じて待ってる」って言ってましたが、信じてるから=待ってるってことにはならないと思うんですよね。その人の近くにいて、近くで信じてあげることも出来るのではないかと。…そんな微妙な心情を表せたらいいなァと思って、こんなことを言わせました。うーん、微妙…。
そんなこんなでやってきたこの連載ですが、次回で最終回でございます。ですが、なんか高杉→ヒロインフラグを立ててしまったので、これはもしや続きを書かねばいかんのでは!?みたいな気持ちになってます。やるかどうかはまだわかりませんけどね。
…なんかやたら長いアトガキになってしまいました。すいません。
それでは、ぜひ次回も読んでくださいね! 失礼します。
2008.08.17 sunday From aki mikami.