Episode 8

誤魔化すのにトイレってベタすぎる

Scene.1






なんで私がみんなのことを知っているのかはかくかくしかじかとして…と。
真選組頓所内の一室で、私たちは机を挟んで座っていた(銀さんと十四郎、神楽ちゃんと総悟はにらみ合ってるみたい…)。


「まァ、話すと長くなるんですがねェ…」


沈黙の中、総悟がそんな風に切り出した。


「最近ウチの管轄内で妙な薬(ヤク)が流行ってましてねェ」
「妙な薬?」
「名前は昇泡。ほんの数滴で普通の薬の数倍の威力がある新手の薬でさァ」
「しかしこの薬がどうにも厄介でな」
「厄介って?」
「使用後、薬が残らないんだよ。文字通り、泡の様に体から消えちまう。だからこれを使って幻覚やらの症状がでたやつはみんなただの精神異常に見える」
「で…その薬がなにアルか?」
「昨日の夜ちゃんと一緒にいたあの男はその昇泡の売人なんだ。『場居忍』という攘夷党のメンバーでなァ」
「「「「うっわァ…」」」」
「攘夷党とは名ばかりの密売グループ…というかまァ、その名のとおりの奴らってわけでさァ」


なに、場居忍って!いっそすがすがしいほどわかりやすいんですけど!その名のとおりの奴らってわけでさァ、って、そんな簡単でいいわけ!?何かあわれみすら覚えるんですけど!


「しかしなんでそんなもんが…」
「調べによると裏で手ひいてんのは最近急成長している大山門製薬だ。大方急成長ってのは、薬売って出来た金を使ったんだろうぜ」
「製薬会社が麻薬なんて…なんて正直な…」
「正直だからこそ誰もやらねーんだろ。だからこそ誰も警戒しねーし、こんな大事になるまで誰も気付かなかった」
「でもそこまでわかってるならどうしてどうにかしないんですか?ガサ入れでもなんでもすればいいじゃないですか」
「そうしたいんだが…調べたいなら昇泡との関わりを証明してみせろと言われてな。おまけに幕府の人間とつながりがあるらしく…」
「圧力かけられたってのか」
「…情けねェが、今の俺らに出来んのは下っ端の売人をちょこちょこ捕まえることだけだ」


そう言って十四郎はゆっくり煙を吐き出した。すごくイライラしているのが表情からわかる。ホントはめんどくさいことしないで元からバーンとブった斬ってやりたいだろうに。


「場居忍のアジトは?突き止めたの?」
「それらしいところを見つけて、今山崎が探ってるところだ」
「ザキが…」
「あ?オマエあいつのことまで知ってんのか」
「うん、知ってるよー」
「へぇー、俺ですら知らないのになー」
「いや、銀さん知ってるでしょ!やめよう、やめてあげようそう言う冗談!いくら地味だからってかわいそうでしょ!」
「いや、ハッキリ地味とか言ってるのも十分かわいそうだろ」
「まァ、地味だから仕方ねェや」
「ちげーねー。大体地味が嫌ならもっと目立つことしてみろってんだ」
「そうネ!素っ裸で逆立ちしながら町内一周くらいしてみろってんだ!」
「いや神楽ちゃんそれつかまるから。ってか、なんか地味なことがいけないことみたいな流れになってません?別に悪いことじゃないでしょ…?」
「そうですよ!っていうか、地味ってのは裏をかえせば普通だってことでしょーが!大体ね!僕らが地味なんじゃなくてアンタらがキャラたちすぎなんですよっ!」
「新八くん、自分で地味って言っちゃってるからね」


目を見開いて怒っている新八くんはひとまず放っておいて、と。一体私とその事件がなんの関係があるのか、私が知りたいのはそこなの!話がそれにそれてるんですけど!(元はと言えば私のせい?)とにかく私は話題を元に戻すためにストレートに話題を切り出すことにした。


「…で、私の話をしていたってのはなんなんですか?昨日の状況なら昨日のうちに嫌ってほど話しましたけど!」
「あァ、その話なんだが…実はな、ヤツがキミにあるものを預けたと言っているんだ」
「は?預けた?」


…なんにも預かってないんですけど…。


「………なにを?」
「メモ用紙だそうだ。薬の隠し場所が書かれていて、その場所は数人で一つのグループになっているらしい」
「うまく行けばそのグループ丸ごと捕まえられるってわけか」
「あァ。それにそのグループには必ずリーダーが一人いてな」
「そいつをつかまえれば、大山門製薬への糸口が見つかるかも!」
「そういうこった。で?どう…って、オーイ、顔真っ青だぞー」


だだだだだだだだって!私そんなものもらってない!預かってない!触ってない!見てない!どどど、どうしよう…!十四郎めっちゃ期待してるよね!んで私これ裏切っちゃうよね!?


「あ…あーあったような…」
「ホントか!」
「え、あ…えっと…」
「どっちだ!」
「も、もらいました!」


うわァァァァァ!答えちゃったァァァ!


どどどどうしよう!今さらもらってませんなんて言えないし!でももらってないし!


「あ、あの!」
「あ?」
「ト、トイレ借りていいですか!」
「…………………」


…うわッ、なんかみんな黙っちゃったんだけどー…。


「空気の読めないやつネ。この状況でトイレかよ。う〇こかよコノヤロー」
「ちっが…!」
「どっちでもいいから早く行ってこいやオメーはァァァ!」
「はいィィィィ!」


十四郎に突っ込まれて慌てて廊下に飛び出した…って、なんで慌ててんの私!ま、まァそれはいいとして…。


トイレの間に誤魔化す方法考えなきゃ…!


というわけで、私はない頭を必死に頭を回転させながらトイレに向かうのだった(アレ、ここって女子トイレあるわけ…?)。


Scene.2


………マズい。マズいよこれ。


結局いい案が思い浮かばずトイレ(食堂のおばちゃんたちが使ってるトイレ)で唸り続けることはや5分。さすがにもう戻らないと怪しまれる…ってか、すでに怪しまれてんじゃない?(う〇こ的意味で)


…逃げちゃおっかなー。


いや逃げたところでどうにもならないんだけども。とりあえず私はドアから顔だけだして廊下を確認する。右よーし、左よー…し?


「随分長ぇトイレタイムだなオイ」
「ぎぎぎぎぎ、銀さん!」
「やっぱう〇こか?」
「ちちち、違うよこれは…け、化粧直しを…!」
「オメーが化粧してるとこなんて見たことねーよ」
「お、女の子には女の子の色々な事情があるんです!」
「事情ねェ…」


そう言いながら銀さんはジロリと私を見つめてくる。なんだか、追い詰められてる気がするんですけど…。


「オメーはわかりやすいんだよ」
「えっ…!な、な!」
「なにが、じゃねェ」
「まだ『な』しか言ってないけど!」
「何となく分かるだろーが」
「なんで?『ナポリタン!』かもしれないじゃん!『ナイスミドル』かもしれないじゃん!」
「文脈的におかしーだろーが!日本語勉強し直してこい!ったく。…ないんだろ、紙」
「…ぇ、あ、ありますよ?」
「だから!オメーはわかりやすいって言ってんだろ!」
「そんなこと…」
「…しゃーねーから俺も一緒に謝ってやるよ。このクソバカが土方のバカヤローの前なもんでつい見栄はっちまいましたゴメンナサイってなー」
「ちょちょちょ!それ恥ずかしいから!」
「オメーの熱烈視線が一番恥ずかしーんだよ!」
「うっ…(そんなに視線送ってた?)」
「ま、これ以上ごまかしてもバレバレなんだよ」
「そ、それは紙の話?視線の話?」
「どっちもだバカヤロー!」
「うっ!」


そ、そんなバレバレなのかな私…。隠してるつもりなのに…。いやもう隠しきれないのは十四郎が悪いんだ!あんなにかっこいいんだもん!(アレ…)


「ってことでホレいくぞ」
「え、あ、…でも」
「心配しなくても誰も期待してねーよ」
「そ、そうなの?」
「そんなに謝るのがイヤなら確認ついでにポケットでも確認してみたらどーだ。ま、どーせ無駄だろうけどなー」
「えー、ポケット?ポケットなんて何にも… って、アレ?」


何か今、ガサッていったよね?ってかこの手触りってアレじゃね?アレだよね?


「え、何もしかして…あったの?」
「あ、あっ…ちゃったみたい…」
「マジか!」


ちゃらららっちゃらーん!
まさかポケットに入ってるなんて!あんのクソジジイ!預けたとかメンドクセーいいかたしやがって!


「あったんだな、良かったな!うんよかったよかった!」
「うん!よかったホント良かった!すっごくよかった!あれ?でも何で銀さんそんな喜んでんの?」
「え! あいや、ホラ世の中から犯罪が無くなるのは嬉しいだろー!」
「…うん、まぁ、そうだね」


何かあやしいけど、まァいいや。


そんなこんなで意気揚々と、みんなのところに戻る私たちだった。


2008.05.02 friday From aki mikami.